2005〜2006
暗い海の底に光が届く。
隠されていた神秘が光を浴びてきらきらと輝く、そんな瞬間だった。
エメラルドグリーンとサファイアブルーの交じり合った、優しくて細いスポットライトがようやく歌姫を見つける。
歌姫のウェーブがかった長い髪が、光に照らされ白く透明に輝くと悲鳴とも取れる歓声がスタジアムを大きく揺らした。
そして歌姫がそっと右手を差し出すと何処からやってきたのだろう、優しい光に照らされた青い鳥が歌姫の指に止まる。
歌姫が優しくメロディを口ずさみはじめると、5万人を超える観客たちは一斉に静まり返り、スタジアムは歌姫と青い鳥だけになった。
歌姫と青い鳥はまるで、この世のものではないかのように幻想的で美しい。
そして幸せの青い鳥が飛び立ち、メロディは止まり、歌姫はそっと手を下ろす。
そして悲しそうに俯いてしまう。
静寂。
5万人が静寂を保つ。
その光景はまるで犠牲者に捧げる黙祷のような時間だ。
「Don’t leave me alone.
(わたしをひとりにしないで)」
歌姫がそうつぶやくのを合図に、焼けるように眩しい白いスポットライトと青と緑のステンドグラスのような火花、そして力強く繊細な彼等の演奏が始まる。
日本中が、この瞬間に釘付けになる。
その幻想的で夢のような美しさが消えることなどこの時、誰に想像できただろう。
だが美しさは儚いものなのだ。
美しい花ほど、すぐに摘み取られる運命にあることを本当は誰もが知っている。