8.父
家に着くと、キツォーは扉を開けた。彼の家は「空き家の下」にあった。地下への扉を開け、父の部屋へと進む。「ただいま!」
部屋の中からおかえり、の声がし、足音が近づいてきた。父は大柄なのでその音がよく響く。どうやら、今日は構ってくれるようである。
「息子よ!長い間会っていなかった気がしたが、元気だったか?」
「俺は毎日ちゃんと帰ってきてたよ、父さん。逆に父さんこそ最近は部屋にこもりっぱなしで、ただいまの返事すらしてくれなかったじゃないか」
「すまない、最近は特に仕事が忙しくてね。で、今日は何をして過ごした?」
「外で遊んでたよ。相手の気を追いやる魔法を教えてもらったんだ。」
「おお!これもまた知らない間にそこまでの魔法を教えてもらってたのか!俺の予想よりも大分早いんだな!感心感心!習得できたか?」
「あれはそんなに難しいもんじゃなかったよ。一発でトキーアサンを気絶させられたんだ」
「トキーアサンをか?やられたなお前!ガハハハハ!」父は機嫌が良いみたいだった。仕事がうまくいっているせいだろう。彼は行き詰ってるときは部屋に籠って、何日も出てこない。つまり、彼が部屋を出るときはいつも機嫌が良いのだ。
「笑い事ではありませんよ、ご報告しなければならないのは、これからです」
「何だ?」
「いつもの回路を離れ・・・他の人間と接触しました」
父、ケルツォーの周りだけ、時間が止まったような気がした。
「それは本当か?」
「本当です。ここから北西に4時間ほどの森の中で遭遇しました。少女一人だけのように見えましたが」
「どう切り抜けたのだ?」
「なんとかその場に着いた私が草陰から気絶させました。坊ちゃんは少女と話をしているところでしたが・・・」
「つまり、キツォーを認知されたということだな?」
「そういうことになります、申し訳が立ちません。何の為に私がいるのか・・・」
まずいことになったぞ、ケルツォーは振り返り、呟いた。キツォーは二者の様子をじっと観察しているだけで、何も話そうとしなかった。話の流れに付いていくのに、精一杯で、介入する余裕がなかったためである。
「住む場所を替えるぞ、一週間後だ。いいな。私は仕事に戻る。キツォーは早いうちに自分の荷物もまとめておいてくれ。トキーアサンは私の分を頼む。くれぐれも勝手に家の外へ出るなよ」彼は部屋に戻っていった。