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ファイナゴ国物語  作者: リンビー
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6.灰色の境界

2人の姿は対照的だった。髪も長く、朗らかな顔したその少女は、白いワンピースを着てブランコに座っていた。その微笑みは明るかった。彼女を見る彼はというと、整えられていない短髪に鋭い眼光、黒いマントに身を包んで茂みの陰で身を潜めているくらいのものである。彼には、彼女が同じ世界の人間とは思えなかった。キツォーはトキーアサンの物語を思い出した。「女だ」トキーアサンは彼にその話をたまに聞かせることがあった。以前その者は父の元にいて、父と時をともにしたらしい。彼の好奇心がその体を動かした。様子を見つつ、それでいてこっちを見ろと言わんばかりの大胆さで真っすぐに近づいていった。普段彼は、動物に近づくときはゆっくりと、気付かれないように行えと常にトキーアサンに言われていた。外の存在への警戒心を培うためである。しかし、未知の存在との出会いは、その習慣すら無に帰せしめた。果たして彼の存在に気付いた彼女は、いつものように、他の見知らぬ人間に聞くのと同じやり方で尋ねた。「誰?」しかし、キツォーは少し苛立った。女の反応が気に入らなかったのである。アイツのあの落ち着いた態度は何だ?俺のような興奮はアイツにはないようである。「キツォーという」彼は答えた。「アンタは?」

「ソランよ。あなたもまだ子供ね、どうしてここに?」と少女。

「探してたんだ」

「何を?」

「見たことないもの」

「あらそう。それでその、見たことないものは見つかった?」

「ああ、ハガクレチョウだ。そして女」

「女ですって?」

「アンタだよ」

「あらまあ!それはそうよね、私達初対面なんですもの!でもそれはそんなに珍しいこと?」

「珍しいものだと?俺は女を初めて見たんだぞ!」

彼は思った。この女は男を珍しいとは思っていない。そして、新しい人間との遭遇も大したことだとは思ってはいない。

「あら、それは随分と狭い世界で生きてきたのね。どちらにお住まいなの?」

狭い世界だと?確かに、あれは俺にとっては全てだった。地下室。自分の家。そして森。あれが狭い世界となるなら、この女は広い世界に住んでいるということになるのか。彼は漸く、彼女の余裕の出どころが掴めた気がした。

「ここから走っていけるところ」

「あら、走ってここまで?どのくらいですの?」

「すぐだよ」

彼には彼女がどの世界の住人なのか気になった。この森の中で、他に人間が多くいる、広い世界があるのだろうか。

「で?お前はどこに住んでるんだ?ここから近くか?」

答え次第では、ついていってその世界を見てやる。彼はそう思い、耳を立てた。

「あんまり近くないわね、私は―」

言い終わらないうちに突然、彼女の身体は見えない何かに押されたように、ブランコから落ち、地に臥した。


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