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5.鼓動
彼は生まれてこの方、外の世界の人間を見たことはなかった。内の世界の人間―父でさえ、キツォーとは似ていない部分がいくらもある。髭があったり、身体が単に大きかったり、であるが、キツォーはそれが時と共に自分にも表れる特徴だとは思い難かった。キツォーには他の大人と接する機会がなかったため、自分と父とが壁一つ隔てて異なる存在だという考えを持っていた。彼は今、目の前に存在する人間をそっと観察した。この人間はどうであろうか。背丈は自分ほどであり、顔つきも丸っこい。父よりも自分と似た部分があることは確かであったが、父とも自分とも違う部分があった。見たこともない服装と、長い髪である。その者は、何かを口ずさみながら木の板に座り、前へ後ろへ揺れ動いていた。
キツォーの鼓動は高まった。