3.父の庭で
「なあトキーアサン、そろそろ魔法の勉強も飽きてきたぜ、たまにはさぼってもいいよなあ?」
「駄目ですよ坊ちゃん、これは身を守るためには必要なのです、いくら坊ちゃんの言う事であっても、御父上の言葉には逆らえませんから」
「身を守るためってよくお前は言うけどさ、何から守るってえの?」
「それは当然、あなたを脅かすものからです。坊ちゃんはまだ幼いですから、早いうちに力をつけなければなりません」
「そんなもの、父さんがいれば心配ないと思うけどなあ」
「御父上は多忙なのです、頼れるものではありませんよ、坊ちゃん」
「それに、俺だってピンチになったら自分でなんとかするさ。この前インエイグマが出てきたときだって、自分で何とかしたろ?その時のお前の役立たずぶりの方が俺には心配だけどなぁ」
「申し訳ありません、どうしてもああいった類の生き物は苦手でして・・・」
「おもりがそれじゃあ、心配だぜ、全く。で、今日の魔法はなんなんだ?」
「これは相手を気絶させる魔法です。勝ち目が少ない闘いと判断したときに使うのです」
「そんなもん必要ないと思うけどなあ。俺は強いし、負け知らずだから」
「今そんなことを言ってられるのは、私が安全なところにあなたを置いているからです。外の世界はそうはいきませんよ。何度も言いますが、坊ちゃんは幼いのですからね」
「幼い幼いってさぁー!うるさいなまったく!いいから早いとこやって見せてくれ!」
「分かりました、見ててください」
トキーアサンは手で十字を作り、それを傾けて×の形にして見せた。
「この動きで対象を気絶させるのです。見ててください」
トキーアサンは野で草を食む子ウサギに向かって、先の動作をやってみせた。ウサギは動きを止め、ゆっくりと地に転がった。
「なーんだ、簡単そうじゃん。これなら一発で俺でも出来ちゃうよ。それにしてもウサギ相手は情けないぜ。やるならもっとこう、強そうな相手にやって見せないと、術のすごさが分からない」
「他の者が習得するには、これさえ1カ月はかかるのですよ。坊ちゃんだから簡単そうに見えるのです。何と言ってもあのー」
「でーきたできた。やっぱり簡単なんじゃないか。でもトキーアサン気絶させたくらいじゃあ、まだなんとも言えないな。もっと強そうな相手に使ってみないと。そうだ、いつもとは別の道を通ったら未知の生き物に出会えたりして!?」そう思うや、キツォーは駆け出して行った。