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2.二点の距離
この時、彼はまだ幼かった。父は彼に「おもり」を与え、「それ」にその子の世話をさせた。
そんなお話の主人公、彼はキツォーと名付けられた。「おもり」と彼は常に行動を共にし、お互いをよく理解していた。キツォーが得た知識や経験は、そのほとんどをこの「おもり」と共に過ごした時間の中で生まれた。父は飽く迄「おもり」としか呼ばなかったが、キツォーはそれを嫌った。対等な関係でいようと努めた彼は、この「おもり」をトキーアサンと名付け、そう呼んでいた。キツォーがトキーアサンと対等な関係でいようとした理由は、単純に二者の仲の良さに拠るものであろう。確かに、キツォーがこの世に生を受けたときには既にトキーアサンは存在し、また、物をよく知ることからも、トキーアサンがキツォーより年上なのは確かであった。そして、トキーアサンも「おもり」としての身分をわきまえ、常に口調はへりくだったものであった。本来ならば、両者の間には心理的な隔たりがあって然るべきだが、時を過ごすにつれ、形だけの距離は意味を成さなくなった。