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ファイナゴ国物語  作者: リンビー
16/17

16.青を背景に黒は散る

全てが突然の出来事だったため、彼はどう解釈すべきか、そして、どう次に行動に移すべきかの要領を得なかった。トキーアサンは依然としてこちらに体を向けたまま話しかけた。

「100人です」向こうの人数のようだった。

「話をしに来た、という人数ではないでしょうね」なるほど。

「いいですか、坊ちゃんはとにかくここから離れてください。危ないことになりますからね」そう言うなりトキーアサンは頭上に黒い球を作り出し、白い集団へと放った。球は彼らの元へ到達する頃にはじけ、次々と襲った。彼らは球の出所すらつかめないといった様子だった。トキーアサンは姿をくらませる術でも使っているのだろうか。いずれにせよ、この様子だと安心だ。寧ろ、あの玉の近くにいる方が危険かもしれない。トキーアサンの言う通り、距離を置いた方がいいだろう。キツォーは走った。自慢の足を頼みに、精一杯。後ろを振り返らなくても大体は伺うことができた。叫び声が聞こえる。大勢の人が苦しんでいるようだった。空に浮かぶ、目印の太陽を追うのに余念のなかった彼は、いつの間にか目の前に立ちはだかっている、他の白装束に気付かず、接触するところであった。

彼はすぐ立ち止まった。このまま突き進むわけにいかない。かといって、下がってもトキーアサンの方に戻るだけである。何をするべきか。これが彼の三度目の修羅場であった。

「通してくれないか」彼は逃げる法を考え、同時に交戦も想定した傍らで、交渉の余地を残していた。

相手の数を数えてみる。10人。その誰もが、彼の発話に応じなかった。

彼は次に、相手を観察してみることにした。とりわけ気になったのが、先頭でこちらを見据える少年だ。まっすぐな双眸が、揺らぐことのない力強さでこちらを見据えている。自分と大して変わところのない体格をしていた。このときの彼には、彼の白装束とその白髪とで、ソランを想起するほどの余裕があった。しかし次には、白の少年は合図をした。と、後ろの9人がキツォーに襲い掛かってきた。

「やるしかない」キツォーは腹を決めた。彼にとって他の人間との実践は初めてだが、逃げの選択肢も現実的でなくなった以上、自分で解決するしかないだろう。相手の手の動き、足の動きを観察し、行動を予測しながら回避を試みる。その全てがうまくいった。彼らの攻撃の試みは全て失敗に終わった。次の手を打たれる前に彼は反撃の意思を固め、トキーアサンに習った方法で息の根を止める技を試みた。そのどれもが、呆気ないほどうまく機能した。相手は、彼の想定していた強さには及んでいなかったのだ。少年2人を残し、その場は静まり返った。

「やめた方がいいと思うぜ」キツォーはまた話しかける。

「お前もまだ若いんだろ。今日のところは帰りな」依然として応えを返さない相手を前に、彼は次の選択を考えあぐねていた。

その少年は瞳の色すら変えずにこちらに突進してきた。彼はもうこれ以上迷わなかった。この相手の少年を葬ることにしたのだ。キツォーは初めに気絶魔法を発動した。回避。足を削り取ろうと、狙い祖定めて次の手を打つも、また回避。先ほどの先頭とは、全てが逆であった。白の少年はもう黒の少年の目の前に迫っており、黒の心臓に狙いを定めていた。その手から白い光が漏れ、果たして彼を貫いた。彼の胸の位置からは黒い光が漏れていた。不思議なことに痛みは感じずキツォーはまた立ち上がることができた。目の前の少年はというと、逆に血を流し、白の装束がそれを吸って自身の色を濁らせていた。白の少年は息も絶え絶えにこちらを見返した。信じられないと言った様子だった。何が起こったのか。キツォーの胸から流れ出ていた筈の光は槍へと姿を変え、白の少年の胸を貫いていたのである。その槍はみるみる見覚えのある形へとまた変異した。トキーアサンであった。

「助かったぜ!ありがとう!」感謝の返事は、彼の期待とは見当違いのことを言っていた。

「坊ちゃん、これ・でお別れです・・」キツォーは耳を疑い、その声の主が本当にトキーアサンなのか確かめようとさえした。よく見ると、様子がいつもとは違う。像はところどころが乱れ、声の調子、話し方も安定してなかった。

「お父様の言いつけ・・・守る・・ができたのは幸いです・・・」

「待ってくれ、分かんねえって!」

「もう・・会う・・ないでしょう・・私・・忘れてください・・・」

「やめろ!もうこれ以上辛そうな声を出すのはやめてくれ!」

「これか・・一人になるでしょうが・・・お父様がついています・・辛くなったとき・・・糧になるでしょう・・・」

「早く帰ろう!戻ればよくなるって!」

と言って、辺りを見回した彼は、太陽が沈みつつあること、そして、まだ残りの白装束が近づいてくるのが見えた。

「坊ちゃん・・・あの陽を見てください・・・今日、あなたは・一つの悲しみという・・荷物を・背負うことになるかも・しれません・・しかし、それでも明日に向かわなくては・・いけない・強くなる必要があるのです・・その悲しみを下ろして休みたい・・・にも明日は来てしまうものだから・・」

トキーアサンは一言一言を伝えるのに全力でいた。キツォーはそれを受け止めることしかできないでいた。その後も、一言、二言、両者は会話を続けたが、ついにトキーアサンが事切れてからは、キツォーは地に顔を埋め、声の枯れるまで泣きはらした。トキーアサンの最後の光は宙に昇り、無数の矢となって、その場全ての白装束を貫いた。


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