11.「奸計」
夜には、トキーアサンはすっかり活動を停止する。寝つきがよいのか、部屋に戻ってからの彼は死んだように気配を感じない。代わりに、家にいる父が彼のことを気に掛けるようにしていたが、この日ばかりは父にもその余裕はなかった。キツォーが部屋の前を通ると、慌ただしく動く父の足音が聞こえた。キツォーは家を出、この前と同じ場所を探していた。森の中というものは慣れていても油断してはいけない。当然迷うこともあり得るし、以前一度行ったきりの場所をピンポイントで見つけ出すのは言うまでもなく、不可能に近い。-常人には。
彼には、人並外れた魔法の才があった。同じ年齢のころの父親と比べても、土と空の差である。彼は既に、つけていたマーキングを辿り、元居た場所の近くまで来ていた。彼はブランコ付近の気配を探ってみた。結果ははっきりしていた。彼女はいなかった。キツォーは落胆した。彼女にもトキーアサンと同じように、世話を焼くのが上手な付き人がいたのだろうか。救出され、既に帰宅しているのかもしれない。それにしても、なぜあのときに不思議に思わなかったのだろう、一人でこんなところまで来て、彼女は平気だったのだろうか。猛獣が出ないとも限るまい。彼女は魔法を使えるのだろうか?それともこのあたりが単に平和だから?考えれば考える程、彼の頭は混乱した。そして決めた。もう少しこのあたりの捜索してみよう、そうすれば何かあの子に達する手掛かりがあるのではないか、と考えた。彼はブランコの位置まで近づくことに決め、小広場へと出た。不思議なものである。時刻は月も峠を迎えたころ、スポットライトに照らされる形で、確かにそこに少女はいた。