10.容喙
キツォーはノックをした。「どうぞ」トキーアサンの声がする。彼は中に入っていった。「家内での魔法の使用は禁止事項です。しっかり守っていただかないと」
「ごめん、でも俺、どうしても知りたいことがあって」トキーアサンは口調の割には、彼の来訪を予想していたかのごとく、落ち着いていた。
「どうして引っ越さないといけないんだ?」
「今、置かれている状態がまずいからです」
「まずい?もっと具体的に教えてくれよ」
「この前起きた出来事の初めから終わりまでです」
「わかんねえなあ」
「いいですか、坊ちゃんは今まで守られて暮らしていたのだということを、まずは知らなければなりません。世の中は危険でいっぱいです。お父様としては、坊ちゃんが一人前になるまでは、自分の手の届くところで生きてほしかったと」
「見くびらないでくれよ、俺はもう立派に魔法も使えるし、いざとなったら気絶させたり、移動魔法で逃げたりもできるんだぜ?」
「とんでもありません。今までの温室と外の世界を同列に語ってはいけませんよ。魔法というものは自分と相手との力関係でいくらでも効果が変わるのです。坊ちゃんだって、あのときはほんの数秒、私をくらっとさせたくらいなんですからね。それに移動魔法にしても、相手が格上であればまた、追跡魔法を使って追い付かれてしまいます」
「げ、だから場所が分かったっていうのか」
「少女との遭遇は想定外でしたけどね。それにしても、危ない目に合う前に気絶させたのは正解でした。あのまま一週間は起きてはこないでしょうね。尤も、それより早く発見され、救出されはするでしょうけど」
なるほど、それで一週間、と父は言ったのか。とキツォーは思った。彼女は最悪、一週間あの場所でくたばっていないといけない訳だ。待てよ?もしその前にうまい具合に見つけられなかったら?あのままあそこにいるのか?一週間も食事も排泄もしなかったら人間はどうなる?
このときの彼は、ソランという少女を心配していた。彼は心配事を自分で作り出し、解決したいタチの人間である。自分の部屋に帰るなり、支度にとりかかった。