三話
「なー、新堂」
「ん?」
朝礼前の教室。すこしずつざわつき出した空気。
あと十分もすればホームルームも始まるのであろう、そんな時のこと。
後ろの席の友達、早瀬が肩を叩き呼んできた。
振り向くと、雑誌を広げてぼんやりと記事を眺める早瀬の姿が視界に映る。
「なんだよ」
「いや、お前って好きな女優とかいるのかなって」
「……好きな、女優?特に興味はないけど」
「そうかー。お前はコッチ派だったかー」
「違うわ」
口元に手を逸らすように当てて、いわゆるオネェポーズをとる彼に、冷静にツッコミを入れる。
否定された早瀬は、違うのかーとこれまた眠そうに呟きながら、雑誌を捲り出す。
「この人とかどうよ?」
「誰?」
記事には抜群のプロポーションだの愛らしい小顔だの、媚びるようなポーズをした美少女が一面に写っている。
「一之瀬香織。知らねーの?最近話題のアイドルグループのー」
「あー、なんちゃら48とかいうアイドル?」
「そーそー。そのセンター張ってる子ー。」
「へー」
「……反応、薄くねー?」
「いや、だって興味無いし……」
実際、そういうものだろう。興味の無いものを熱く語られてもついていけない一般人なのだから。
「お前ってさー」
「うん?」
「マジでコッチなの?」
「殴るぞ?」
再びオネェポーズを取った早瀬に、拳を振りかぶりそうになる。
それを邪魔したのは、切羽詰まった声だった。
「あの!早瀬くん!」
「んぁ?」
寝ぼけ眼を擦りながら、早瀬は猫背気味だった姿勢を正す。
「あ、あの、ここじゃ恥ずかしいので、廊下で……」
「あー、そうだなー」
チラリとこちらを見やり、雑誌を閉じて席を立つ早瀬。
これから一生懸命な告白を断らなければならぬ彼に、すこし憐れみを覚えつつ。
机の上に置かれっぱなしの雑誌の、ページをパラパラめくる。
「…………」
すぐに気分が悪くなったので、やめたのだった。