二話
「ナツミくん、ナツミくん」
「ん?」
朝食を食べていた夏海に、一足先に食べ終わった春香が呼びかける。
食パンへとかじりついていた夏海は、口の端につけたジャムをペロリと舐めながら、首を傾げる。
「ナツミくんが好きな色って、赤よね?」
「うん」
「赤と白が入り交じるタイプの色合いが好きよね?」
「うーん、まあ、そうかな」
「やっぱり……」
「どうかした?」
ひとりごちる春香。それを不思議に思い、聞き返す夏海。
慌てたように手元の携帯を畳み、「なんでもない」と返す。
「今日は何をして過ごそうかしら」
「久々に外出でもすれば?ドライブとかどう?」
「そうね……でも見たいものは無いし、一人でドライブってのも寂しいのよ?」
「ふーん。一人の方が気楽って聞くことが多いけどね。そんなものか」
「そんなものよ」
コーヒーで口の中のものを流し込み、夏海が席を立つ。
「学校終わるの何時だっけ?」
「四時過ぎくらいだけど、帰るのは半以降かな」
「迎えに行ってあげようか?」
「騒ぎになるからやめてくれ」
春香が意地悪く笑うと、夏海は呆れたようにため息をついた。
「言ってくる。家から出るなら鍵、ちゃんと閉めるんだぞ」
「もう、まだボケるような年頃じゃないわよ」
「どうだか」
肩を竦めながら、玄関まで歩き始める夏海。
すると何故か、春香がその背後をついてまわる。
「……何?」
「お見送りを、と」
ジト目で見つめながら靴を履き始めた夏海。
そんな彼の首筋に、そっと白い手がかかる。
「っ!」
「フフッ……」
人を震え上がらせ、意地悪く微笑むその笑みは。
まるで、怪談の雪女のようで。
「いってらっしゃい、ナツミくん」
「……」
バチーンッ
「痛っ!」
バチーンッバチーンッ
「痛い痛い!おばさん死んじゃう!ごめんごめん!」
「……」
バチーンッバチーンッバチーンッ
「痛いって!ちょっと!もういいでしょ!悪かったってば!」
「……」
無言で見下ろしながら、デコピンをやめる夏海。
痛みで涙目になっている春香を見下ろし。
「アンタ、もう40だろう。もう少し落ち着きを持て」
「ガーンッ!」
効果音を自分で言いながら、崩れ落ちる春香(39歳)。
呆れつつそっとため息を吐き、夏海(16歳)は扉へ手をかけた。
これはそんな、叔母と甥のお話。