零話
「ひぇっく、ぐす、ぐす」
少年の押し殺したような泣き声が、小さな会場に響く。
喪服に身を包んだ大人達は、憐れみを込めた視線を彼に置くり、口々にこう言うのだ。
「可哀想に……まだ小学生でしょう?」
「こんな小さい子供を残して逝くなんて……」
「本当にねぇ……」
しかし。
誰として彼を、「引き取りたい」とは言わなかった。
当たり前といえば当たり前だ。子供一人養うのに、いくらかかると思っている?
なにより……あくまでも、他人の子なのだから。
もっとも、そこで泣き続ける少年の頭の中は、両親がいなくなったことに対する悲しみしかなかったのだが。
周りの話など入ろうはずもない。
齢七歳にして、両親を失った心境など、想像を絶する。
そこへ。
一人の女がやって来た。
颯爽と、黒のドレスを翻し。
葬式だというのに、艶やかな美貌を振りまく美女。
先ほどまでの憐れみはどこへ行ったのか、その所作に誰もが魅了された。
「ねぇ、ナツミくん」
女が止まったのは、泣き止まぬ少年の前。
微笑みを浮かべ、あやす様に頭を撫で、彼の名を呼ぶ。
呼ばれた少年は顔を上げ、その赤く腫れた目で彼女を見つめる。
彼女が次になんと続けるのか、誰もが見守っていた。
無論、話しかけられた少年も。
形の整った美しい唇から紡ぎ出される、言の葉。
目を細め、笑みを深め、彼女は言い放つ。
「私を、養ってくれない?」