3:『Chinatown Wars』
「えーっと、ここの地区を抜ければ中華街だから……あと2キロだ」
デイブは道路標識を確認しながら運転する。
「でもさ、どこにいるのか分かんのか?」
中華街は一本道の路地とはいえ、流石に広い。アテがなければ逃げられるだろう。
「それに関してはしっかり調べておいた。あいつらは丁度中華街の真ん中辺りにある、『遠雷軒』とかいうチャイニーズレストランを本拠地にしてるみたいだ」
「へぇー、よく調べたな」
デイブは意外に情報通だったりするから、こういう時結構便利だ。
「まったく、苦労したぜ……」
デイブは運転しながら溜息をつく。
「ん、そろそろじゃないか?」
ショーンが『中華街この先200メートルを右』という看板を指差しながら言った。
「よーし、ここらで停めるか」
デイブが路肩に車を停め、3人とも降りる。
「よし、今からショーンと俺たちは別行動だ。ショーンは高台に登って俺たちの援護をしてくれ」
「分かった」
そう言いながらショーンはKar98kをベルトで肩にかける。
「連絡は無線だな?周波数はいつもので」
そう言いながら俺とデイブも拳銃やバット、アサルトライフルを持つ。
「あ、グレン、マシンガンは置いてけ」
「えー……分かった」
俺はショットガンをベルトで肩にかけた。
「じゃあ、行動開始。行くぞ」
俺たちとショーンは別れ、俺たちは中華街の正面へ、ショーンは中華街から少し逸れた方向に移動を始めた。
俺とデイブは中華街の正面から進む。周囲に警戒しながら『遠雷軒』へと近づいて行く。すると、もちろんのこと俺達の顔を見た中国人が銃を取り出しながら中国語の怒号を響かせる。
「為了干什么来了!射撃!射撃!(何しに来た!撃て!撃てェ!)」
向こうが銃を撃ってきた。
「うおぉっと、危ねぇ!」
咄嗟に車の陰や建物の壁に隠れる。
「よし、こっちも反撃だ!」
デイブはAK47の安全装置を外してコッキングレバーを引き、フルオートで建物の陰から撃つ。連続で銃声が鳴り響き、薬莢が勢い良く排出され続ける。放たれた弾丸は向こうにいた敵を2人仕留め、あとは向こうの壁にめり込んだ。あと3人ほどいたが、フルオートにビビって建物の中に逃げていった。
デイブが短い口笛を吹く。
「ヒュー、フルオートってスゲエな。さすが軍用ってか」
先程逃げたチャイニーズマフィアの奴が仲間を呼んだのだろう。建物から人がぞろぞろ5人ほど出てくる。
「よし、俺は道路の反対側から行く。デイブはこっちから行ってくれ」
そう言いながらバットを握り直す。
「あいよ。死ぬんじゃねぇぞ!」
「お前もな!」
「今だ!行け!」
デイブは合図を出すとともに敵目掛けてフルオートで制圧射撃をし、俺はデイブの合図で道路を横切って反対側に行く。デイブの援護もあって無事反対側に辿り着いた。しかも運良くデイブに気を取られて俺には気付いていない。
そのまま遮蔽物を利用して近づき、5人のうち2人を背後からバットで殴り倒す。俺はすぐに後ろに下がり、ゴミ箱の陰に隠れる。こちらに気づいた残り3人はデイブから俺に意識を移すが、当然背後からAK47の弾丸が襲う。残る3人も弾丸の餌食になった。
「よし、次だ!進むぞ!遠雷軒までもう少しだ!」
デイブは新しい弾倉に付け替える。
「おう!」
合流して少し進むと、今度は黒いバンが3台ほど走ってきた。俺たちから10メートルくらいの所に横に向けて停車する。中から出てくる中国人、中国人。
俺たちは咄嗟に近くの遮蔽物へと隠れる。
「さすがに多すぎるぞ」
「数押しってセコいなおい」
「……しゃーねぇ、やるぞ」
「あいよ」
「マシンガンは?」
「車に置いてけっつったろ?ショットガン持ってきた」
俺はベルトで肩にかけていたショットガンを下ろして手に持つ。
「そういやそうだったな。じゃあ、近づいて来る奴とかを優先的に撃て」
「りょーかい」
「3で行くぞ。1……2の……3!」
デイブが遮蔽物から出てAK47を撃ちまくる。まず右側のバンの近くにいる奴ら。バンから降りたと思ったらAK47の餌食になるってのは、ちょっと気の毒かもしれない。バンバンとフルオートで放たれる弾丸は車体に穴を開け、降りてきた敵を蜂の巣にする。あっけなく1台目のバンの奴らは全滅。
ちょうど1台潰したところでカチッと音が鳴り、AK47の射撃が止む。
「リロード!」
とデイブが叫びながら遮蔽物へと隠れる。
「おらぁ!」
今度は俺がショットガンを撃ちまくる。いやー、適当に狙っても当たるって便利だわ。
まぁ、敵もやられっぱなしってわけではない。向こうも車に隠れながら拳銃や多分密輸モノなんだろうと思わせるサブマシンガンをバンバン撃ってくる。すぐに隠れると遮蔽物に弾丸が当たる音がガンガン響く。危ねぇ。さすがにこの人数で撃たれると、拳銃もマシンガンばりだ……と思ったけど、そういえば向こう、密輸モノのサブマシンガン持ってたな。当然フルオート連射もできるんだろう。
「さーて、そろそろショーンも動くかな?」
すると、ショーンから無線連絡が入る。
『わりぃ、待たせたな。援護するぞ』
1発の銃声とともに、敵が1人吹っ飛ぶ。
「ナイスショット」
デイブがAK47の弾倉を交換しながら言う。
『どーも』
また1発の銃声とともに敵が一人吹っ飛んだ。ちゃんとサブマシンガン持ってる奴を優先して狙ってくれてるみたいだ。
攻撃の主力の奴らが次々と殺られて、向こうの奴らがオドオドし始める。
「よし」
デイブもまた遮蔽物から出てフルオートで弾丸をばら撒く。敵は逃げ遅れたせいで半分以上がAK47の餌食になった。残るは3人ほど。俺がショットガンで2人片付ける。
1人背を向けて逃げ出したので、遮蔽物から出て追いかける。慌てて足がもつれたのか、逃げた奴は走り出してすぐに転んだ。すぐさま追いついて頭を掴み、問い詰める。
「チェン・タオはどこだ!」
「み、みみ……店の奥だ……」
「お?お前英語喋れるんだな」
そう言って地面に相手の頭を叩き付ける。男は頭をおさえ、力の無い悲鳴をあげた。
「店の奥にいるみたいだぞ」
デイブの方を振り向いて言う。
「よし、行くか」
デイブも遮蔽物から出てAK47の弾倉を交換しながらこちらに走ってくる。
「あっ、サブマシンガンもーらい」
しれっとデイブが敵の落としたサブマシンガンを拾ってきた。抜け目なく予備の弾と弾倉まで拾って来てやがる……。
『俺はどうする?』
「ショーンは援護できる時だけ援護してくれ」
『分かった』
俺とデイブは遠雷軒の扉の前で立ち止まる。
「準備はいいか?」
「ちょっと待ってくれ、ショットガンに弾込める」
ショットガンに赤い薬莢の弾を込める。
「……よし、準備OK」
「じゃ、行くぞ」
俺たちは遠雷軒の扉を開けた。
扉を開けてすぐには入らず、壁の陰に隠れる。
案の定店の中から鳴り響く銃声。しかし割と数は少ない。
「俺は裏から回る。グレンお前はこっちで気を引いててくれ。一応サブマシンガンは置いとくから」
そう言ってデイブは地面にサブマシンガンを置く。
「りょーかい」
デイブは裏口へと向かって行った。
「よし、やるか」
俺はショットガンを構える。
壁の陰からそーっと出て、最初に見える奴目がけてショットガンをぶっぱなす。この撃ち方なら狙ってる奴以外からは俺が見えないから便利だ。散弾はしっかりと標的を仕留めた。
すると、背後から聞き慣れた銃声が響く。銃声が鳴り止んだので、中を覗くと、デイブが奥のカウンター席の裏からAK47を構えていた。俺も店内へと入る。
店内は結構古臭い感じのする、吹き抜け二階建て。2階は個室になっているみたいだ。
「時間稼ぎありがとな」
「あたりめぇだろ。ほら、サブマシンガン」
そう言ってサブマシンガンをデイブに投げ渡す。
「うぃ、サンキュー」
デイブはそう言いながらサブマシンガンをキャッチした。
「……さて、2階だな」
デイブが上の階を見ながら言う。
「多分な」
「じゃ、早速行くか」
デイブはAK47をリロードしながら言う。
「りょーかい。……弾あと何発ある?」
「コレ含めて3マガジン……ってとこか?」
「足りるか?」
「多分。まぁ、なんとかなるだろ。じゃ、行こうぜ。さっさとカタを付けるぞ」
「おうよ」
俺たちは2階へと上がった。
2階には敵の気配は無かった。でもまぁ警戒して進む。突然個室のうちの1つの戸が開き、中から男が飛び出してきた。
「げっ」
「あっ!お前!」
間違いない。あの懸賞金のかかった男、チェン・タオだ。
「ひぃいっ!来るなっ!」
チェン・タオは手に持っていたサブマシンガンを連射する。
「あっぶね!」
俺とデイブは咄嗟に隠れて事なきを得た。
カチッ、とサブマシンガンから音が響き、射撃が止む。チェン・タオはサブマシンガンを投げ捨てて走り出した。
「待てェ!」
どうやら2階廊下の反対側には、外へ繋がる非常階段があるようだ。俺たちもその後ろをダッシュで追う。
「ショーン!チェン・タオは店の裏を走ってる!狙撃出来るか!?」
デイブは走りながらショーンに連絡を入れる。
『悪い、無理だ!建物の陰になってる!』
「チッ……!分かった。ありがとう」
「クッソ……地味に速いなアイツ」
「お前の方が足速いだろ!さっさと追い付け!」
「言われなくても分かってら!」
俺は自慢の駆け足で少しずつ差を縮めていく。
追いかけていると、チェンは中華街の少し外れた所にある建設現場へと駆け込んで行った。階段を駆け上がり、2階へと登っていく。その後に続いて登っていくと、地面に黒っぽい液体が流れているのに気づいた。その出元は、赤色のドラム缶。
(……嫌な予感がする……)
「嫌な予感というのはよく当たる」って誰が言った?その通りすぎて笑えねぇぞ。
俺が黒い液体の筋を越えたくらいの頃に、どこかで火花でも起きたのだろう。その黒い筋は燃え盛る炎へと変化していき、唐突に背後で大爆発が起きた。
「ぬぉあっ!?」
爆風で軽く吹き飛ばされ、2メートルほど転がる。チェンも爆風で吹っ飛ばされたのか地面に倒れている。
「おいっ!!グレン!無事か!?」
爆風で天井が崩れたのか、デイブの声のする方にはガレキが積もって壁が出来ていた。
「ああ……大丈夫だ!」
「無事でよかった!少し別行動するぞ!チェン・タオを逃がすなよ!さっさと殺っちまえ!」
「言われなくても分かってるよ……アイタタ……」
俺は所々痛む身体を起こした。
「くそったれ……」
まさかの爆発事故でグレンと離れてしまった。まぁ、爆発に巻き込まれなかっただけ救いなのかもしれないが。
「とにかく、別ルートを探さねぇと……って言ってる場合じゃ無さそうってか?まだいやがったのかアイツら……」
工事機械の陰から様子を伺うと、こちらにサブマシンガンを持った中国人が2人ほど近づいて来ている。
(……めんどくせぇな……どうすっかな……)
そう思った矢先、軽快なエンジン音が聞こえてきた。その直後、建物の陰から出てきたバイクに中国人2人は跳ね飛ばされ、気絶でもしたのか動かなくなった。バイクは段々こちらへと近づいて来る。
「なんだ……!?」
バイクは俺の前で停止する。バイクを運転していたのは、ショーンだった。
「ショーン!!お前……!」
「お待たせ!ほら乗れ!」
ショーンはそう言いながらエンジンをふかす。
「サンキュー!助かったぜ!」
俺はバイクの後ろの方にまたがる。
「出すぞ!掴まれ!」
バイクは勢いよく発進した。
「ショーン、このバイクどこから持ってきたんだ?」
「ちょっとそこら辺で不法駐車されてたやつを拝借してきた」
「やるなぁお前……にしても、ショーン、お前バイク運転できたんだな」
「まぁな。バイクだけは得意なんだ。車は無理だけど」
バイクは普通の道路へと出た。この時間帯は車が少ないため、スピードも出しやすい。
「……ん、デイブ、後ろ」
「後ろ?」
ミラーを見ると、後ろから猛スピードでバンが接近してくる。見た感じあのチャイニーズマフィアだろう。
「ショーン、できるだけ揺らさないで走ってくれ。撃つから」
「分かった」
バイクもスピードをさらに上げる。
俺はさっき拾ったサブマシンガンを片手で構える。サブマシンガン拾っといてよかった。狙いを定めて引き金を引くと、連続で弾丸が発射される。放たれた弾丸はバンのエンジンルームを突き破り、タイヤを割り、ドライバーを貫いて、チャイニーズマフィアのバンは後ろで大事故を起こした。
「やっぱりフルオート射撃できるやつか」
サブマシンガンを下ろしてショーンに掴まり直す。
「凄いなそれ。拾ったのか?」
「あぁ。敵さんの落としたやつだ」
「良いな。もらっちゃおうぜ」
「当たり前だろ?んじゃ、車を停めた所に行ってくれ。グレンを回収しに行くぞ」
「了解。飛ばすから掴まってろよ」
バイクは速度を維持したまま交差点をいくつか曲がり、車を停めておいた場所に辿り着いた。
「……よっこらせ……」
爆風で吹っ飛ばされた時に打撲でもしたんだろう、身体の所々が痛い。でもまぁ、折れてるとかそういうのは無さそうなので平気平気。
「うぅうぁ……」
チェンも呻き声を出しながら起き上がる。こちらに気付くと地面に座ったまま後退りする。俺はゆっくりとチェンの方へと歩いて行く。
「……っ!」
チェンはポケットからナイフを取り出して構える。俺はチェンから3~4メートル程間隔をあけて立ち止まる。
「……死ねぇえええ!!」
チェンはナイフを握り締めて俺に斬りかかった。
「おらぁ!」
俺はナイフを持つ手を掴んでチェンの顔面をぶん殴る。思いっきりパンチを顔面に食らったチェンは怯むが、そんなことお構い無しにもう1発顔面に拳を叩き込む。
「うっ、うぅ……」
鼻血をダラダラと流しながらチェンは後退る。
「うおぉお!!」
助走をつけてさらにもう1発叩き込んだ。
「ぐっ」
もう気力も残っていなかったチェンは力無くドサリと地面に倒れた。ナイフは地面に投げ出される。俺はそのナイフを拾い、チェンの顔を覗き込む。
「ひっ、た、助けてくれ……な、何が欲しいんだ?金か?銃か?」
「お前さぁ、俺らの隠れ家に部下送り込んだろ」
「え、あの、その」
「それで隠れ家今めちゃくちゃでさ。その仕返しがしたいだけだ」
俺はナイフを振り上げた。
「ひぃやぁああっ!助け───」
ドッ、と鈍い音とともにナイフはチェンの首へと突き立った。
俺は立ち上がり、コンクリートの床の端まで行き、周囲を見回す。
「さーて、どうやって降りるかねぇ……」
すると、反対側で車が数台急停止するような音が聞こえた。そっと物陰から見てみると、黒いバンが3台。中からぞろぞろと中国人が出てくる。
(げっ……まだあんなに居たのかよ……)
速く逃げなきゃとは思うが、なにせ爆発のせいで逃げ道は無い。まぁ、逆を言えば上る道もないのだが。
そう思った矢先、アイツらハシゴを出してきやがった。ハシゴを2階にかけ、よじ登ってくる。
「ええい、くそぉ!」
俺はハシゴの先端を押してやった。ハシゴは倒れ、登っている途中の奴らはみんな落ちていく。
(急いで逃げ道を探さねぇと……!)
その時、無線が入った。
『グレン!生きてるか!?』
「あぁ、なんとかな。今下にチャイニーズマフィアの奴らが来てる。どうしたらいい?」
『その反対側に来てくれ!』
言われた通り、チャイニーズマフィアとは反対の方に行ってみると、デイブとショーンが車をつけて待っていた。ちょうどそのタイミングで中国人たちが上がってくる。
「飛び乗れ!」
「……あぁ、くそ」
俺は2階からジャンプして、なんとか車の屋根の上に着地した。サンルーフが開いていたので、そのまま中に入る。
「お迎えありがとな」
「おかえり」
「おう、ただいま」
「とにかく逃げるぞ。飛ばすから掴まってろ!」
グレンは一速にギアを叩き込み、俺たちの車はアクセル全開で急発進した。
車は全速力で道路を走り抜ける。その後ろから、チャイニーズマフィアの黒いバンも追いかけてくる。
「曲がるぞ!」
デイブがサイドブレーキで車体をスライドさせて交差点を猛スピードで曲がる。少しだけバンと距離が離れた気がする。
「ショーン!マシンガン使って片付けろ!」
「了解」
ショーンはマシンガンを持ってサンルーフから顔を出し、マシンガンを2脚で置いて構える。引き金を引くと、とてつもない轟音とともに弾丸が連続で発射される。
チャイニーズマフィアのバンはその弾丸で蜂の巣にされ、制御を失って事故を起こした。
「ナイス!」
「よっと」
ショーンは車内に戻った。
「よし、もう追ってこないな。みんな!よくやってくれたな!帰ってゆっくりしようぜ」
「そうだな」
「あ、じゃあ、今日は俺の家の方に行こう」
「じゃあ、今日はショーンの家でパーティだ!」
俺たちは自分たちのもう一つの隠れ家へと、騒ぎながら帰った……。