2:『Wanted』
「……話は済んだかい?」
さっきおっちゃんと話してた若い男がこちらに来た。その質問におっちゃんが答える。
「あぁ、済んだぞ」
「おっと、自己紹介してなかったな。俺はこのWECAで情報管理なんかを担当してるレスター。レスター・クライスだ。よろしくな」
「あ、よろしくお願いします」
ショーンが律義にお辞儀をする。ショーンがお辞儀し終わってから、デイブが口を開く。
「ところでレスターさん、どうかしたんですか?」
「あぁ、アンタらに金を払わなくちゃならんからな」
「……へ?金?」
俺は意味が分からず聞き返した。
「そう。金」
レスターは「まぁ、初めて来たわけだし知らないよな」と説明を始めた。
「この組織には『Wanted』っていう制度がある。まぁ、その名から分かる通り、『指名手配』だ。組織のメンバーが集まるこの地下集会所や、それぞれの銃砲店を荒らしたり、ここや地上の店での代金を踏み倒した奴は、ここで指名手配される」
「なるほど。ここは脱法銃を売ってるから、そう通報できたもんじゃないですしね」
「おっ、察しがいいねぇ。そう、地上の店ならまだしも、この地下集会所が関わることは通報できない。だから、そういう輩に懸賞金をかけて、潰したり捕まえて来てくれた奴には金を払ってるんだ。『マグナム・クラックス』を潰したの、お前らだろ?」
デイブがビクッとする。
「……なんで知ってるんです?」
レスターがにっと笑う。
「情報処理担当の情報網を舐めてもらっちゃ困る。このくらい出来なきゃ、Wanted制度なんてやってらんないからな」
「なるほど……。で、マグナム・クラックスに懸賞金がかかっていた、と」
「そうだ。アイツらクレーンズ・アベニューのとこのジェフから脱法マシンガンと弾を買っといて、代金踏み倒したからな。幹部の奴に懸賞金がかかってた」
「ほー……で、おいくらで?」
レスターは真顔で答える。
「960ドル」
ショーンが驚きのあまり立ち上がった。
「きゅ、960ドル!?そんな大金が……」
「結構な額の代金踏み倒されたらしいからな」
「……あ、多分そのマシンガン俺たちが拾って持ってるんですけど、返した方が良い感じっすか?」
「いや、貰って構わないさ。もう新しい商品仕入れてるし、ジェフも良いって言うだろ」
「あざーす」
「あと、これが本題の960ドルだ」
レスターの服の内ポケットから、うっすらと膨らんだ封筒が出てくる。
「あ、どうも」
ショーンが恐る恐る受け取る。そしてデイブが口を開いた。
「それじゃ、俺らは用も済んだし、帰るか?」
「そうだな」
「帰ろうか」
レスターは親指で自分の後ろを指す。
「帰る前にそこの掲示板を見ていくといい。懸賞金の情報が見られるぞ」
「へぇー……ん?」
何気なしに掲示板を見ると、そこにはなんとなく見覚えのある顔があった。東洋系で少しやつれたような面長な顔。
「なぁ、デイブ。これ、この前見かけたチャイニーズマフィアの野郎じゃないか?」
「……ホントだ。コイツ、ここで懸賞金かかるようなことしてたんだな」
「手下みてぇな奴らに絡まれたからボコったけど、そんな奴らだったのか……へぇー……」
つい先日、ちょうどショーンが仲間になってから2日程経った頃に繁華街で中国系の奴らに絡まれた。まぁ、手下のチンピラ共は弱くて、俺が軽く捻って帰ったんだけど。
そこで、レスターの声が後ろから聞こえてきた。
「そいつはチェン・タオ。そいつら、中華街の外れで中国人のホンが経営してる店を荒らしてったんだと。ホンはここで脱法銃を売ってる奴じゃないが、俺の知り合いでな。同じ銃砲店経営者のよしみで相談に乗ってやったんだ」
「中国人が中国人の店を荒らす、か……」
ショーンが呆れたように言う。
「えーっと、懸賞金は……に、3300ドル!?」
なんとなく懸賞金を確認したら、それなりに凄い額だった。
「なんせホンの奴、店の金持ってかれた上に、次いつ襲われるか分からねぇから同じ所に店出すのも怖いんだと。このチャイニーズマフィア共を殺ってくれるなら、大喜びで礼をするそうだ」
「うーむ……狩るか?」
デイブが顎に手を当てて何かを考えながら話す。
「まぁ、3300ドルも貰えるんなら、狩って損は無いな」
「ま、帰ってから考えようぜ」
「そだな」
俺たちは元来た道を歩き始めた。
「お、帰るのか。じゃあな。またのご利用お待ちしてます、ってな」
レスターは手を振って見送ってくれた。
「俺もそろそろ店に戻らなきゃな」
おっちゃんは俺たちと一緒に来た。
「新しい銃が欲しい時はいつでも俺に言いな」
「ありがとな、おっちゃん」
Tony-Gunに辿り着き、俺たちはおっちゃんと別れて、隠れ家へと帰った。
午後8時頃、隠れ家にて。
俺たちは夕食を食べ終わり、銃に弾を込めたり、整備したりしていた。
「さて、どうする?」
デイブが突然口を開く。
「どうするって、何を?」
ショーンがそれに反応した。
「あの懸賞金だよ懸賞金。狩るのか?」
「まぁ、機会があれば当然狩るだろ?なんせ3300ドルだぜ?軽く1ヶ月は3人分のメシに困らねぇぞ」
バイトせずとも1ヶ月の飯代が手に入ればありがたい。
「ま、俺たちはまだメシに困ったことねぇけどな」
コーンフレークだけで1週間過ごせるし、とデイブが付け足す。
「ま、狩るにしろ狩らないにしろ、射撃の練習しなきゃなぁ?な、グレン?」
デイブがこっちをニヤニヤと見ている。
「ぐ……」
「お前の拳銃は俺のやつよりも新型の物なんだからさ、もうちょっと当てれるようになろうな?」
デイブの拳銃は『FNブローニングハイパワー』。たしか、第二次世界大戦終わり頃の9ミリ口径の拳銃……だったかな?で、俺の拳銃は『Hk45』。結構新しいモデルで、2000年代に発売された45口径の拳銃だ。年代的に50年以上の差があるはずなのだが、俺はデイブよりも命中率が低い。
「……んー……でも俺だって練習はしてるんだぜ?」
そこにショーンが割って入る。
「まぁまぁ、その代わりグレンは近接戦が得意なんだからいいじゃんか」
「まぁな……」
デイブが頷きながら返す。
すると突然銃声と共に窓が吹き飛んだ。
「うおっ!?」
「伏せろ!」
「ひぃいっ!」
全員その場に伏せる。銃声は収まることなく連続で鳴り響き、隠れ家の正面側の窓を片っ端から吹き飛ばしていく。
「このっ!」
デイブがAK47の先端でスイッチを押し、明かりを消す。
「ショーン、お前は2階に行け。グレン、お前は裏から回って敵の背後に行け」
「あいよ」
「わかった」
俺とショーンは銃やバットを持ち、言われた通り移動し始める。
「あーあ、これは保険適用……ギリギリされるな。よし」
などというデイブの声が聞こえた。今気にするのそこかよ?
デイブとショーンはそれぞれ建物から撃って敵の気を引いている。その間に少し大回りして敵の背後に回り込む。
近づいてみると、「是報復!殺死你!(報復だ!ぶっ殺してやる!)」と叫びながら拳銃を撃っている東洋系の顔があった。まぁ、とりあえずお構い無しに後ろからバットを振りかぶる。
「うぉおらぁ!」
「何!?什么時候!?ヴッ」
頭頂部にバットがヒットした男は、そこを抑えながら後ろに転げ、拳銃を取り落とした。
「ふんっ!」
もう1発。
「ひ、ひぃいっ……帮助───う゛お゛……っ」
怯えながら頬に思いっ切り打撃を食らった東洋人の男は、その場に伸び気絶した。
「さーて、コイツ一体何なんだろうな?」
デイブは東洋人の男を椅子に縛り付け、観察する。拳銃は回収済み。
「さぁ、どっかの言葉で『シーバオフー、シャースーニー』とか叫んでたぞ」
「んー……多分……中国語だな」
「ってなると、要するにコイツはあのチャイニーズマフィアの回し者、と」
「まぁ、それ以外には無さそうだな。誰かそれ以外の中国人に喧嘩売ったか?」
「いや」
「無い」
「よな」
それから数分して、中国人の男が目を覚ました。
「……はっ、這里是何処!?」
「よぉ、目が覚めたかい?」
「……ひっ」
中国人の男は俺の方を見て青ざめる。
「……帮助」
「……コイツ……中国語しか喋れないパターンか?」
面倒臭いな。
「……チッ、中国語喋れるやつ、いるか?」
デイブが俺とショーンを見る。当然の如く即答だ。
「いるわけ」
「……無いよなぁ……」
デイブがガックリとする。
「まぁ、どうせどこの回し者かは割れてんだ。さっさと始末するか」
「そうだな。そこら辺の路駐車両の下にでも縛って押し込んどけ」
「あいよー」
口を布で縛り、喋れないようにする。
「んんー!んー!」
……というわけで押し込んできた。慈悲?無い。んなモンあったらとっくにギャング辞めてるし。
「さーて、向こうから攻撃したんなら、当然受けて立たなくちゃなぁ?」
「そうだな」
「もちろん」
「よーし、じゃあ、反撃といこうじゃんか。やるぞ」
俺たちは反撃の準備を始めた。
「おーい、荷物は全部積んだかぁ?」
「ショーンのライフルに、ショットガン、アサルトライフル、マシンガン……他に何かあったっけ?」
「弾は積んだか?弾が無けりゃただの鉄の塊だぞ」
「あたりめぇだろ。全部積んである」
「あとバット。お前どうせ近接戦やるんだろ?」
「あっ、忘れてた。……よし、積んだぞ」
「なら良し。んじゃあ、行こうぜ。おっぱじめるぞ」
「OK」
「おうよ。やるぞー、『|中華街戦争(Chinatown Wars)』だ」
俺たちは車に乗り込み、中華街へ向けて出発した。