1:『銃砲店の裏』
ショーンが仲間になって一週間が経った。ここ最近、朝食がすごくマトモだ。何故かって?ショーンが朝飯を作ってるから。
今日の朝食はジャガイモのスープとトースト。コーンフレークやシリアルも嫌いじゃないが、やっぱり美味い飯が食えるって最高だと思う。デイブがにっこりしながらショーンに言う。
「ショーンって料理上手いよなぁ。料理作るのは慣れてるのか?」
「あぁ。いつも食事は俺が作ってたから。ちなみに鹿とかなら捌くことも出来るぞ」
「へぇ、凄いな。こりゃあショーンを仲間にして得なことが増えたってわけだ。今度鹿狩りに行こうぜ」
デイブが調子に乗っている。ショーンは困ったように返事をする。
「今の時期はアラスカあたりに行かないといけないんだけど……」
「アラス……っ!?さすがに遠いわ……」
デイブがしょんぼりしたので、
「どんまい」
と声をかけておく。
ちなみにこの街はアメリカ国内では南西寄りの方なので、アラスカはめちゃくちゃ遠い。
「そういや、ショーン。お前の家はどうすんの?」
ふと気になったので聞いてみる。
「正直一人で住むには広すぎるし、あそこはもう一つの俺たちの隠れ家にしたらどうかなと思うんだけど、どうかな?」
「おっ、マジ!?やったぜぇ!」
縄張りがちょっと広がった。嬉しい。
「……あ、ところでなんだが」
デイブが話を切り替える。
「ショーンも仲間になったし、改めて武器とかも整えなくちゃならねぇと思うんだが、どう思う?」
確かにそれは言えてると思う。
「そうだなぁ。じゃあ、今日あたり『Tony-Gun』にでも行ってみるか?」
Tony-Gunとは、俺らの行き付けのあの銃砲店のことだ。
「Tony-Gun?」
ショーンが首をかしげながら聞き返す。まぁ、仲間になったばかりだし、知らないのも当然だろう。
「俺たちが銃や銃の弾を買いに行く店だよ。余計な詮索とか入れてこないから便利なんだ」
「へぇー、そうなんだ」
ショーンは頷きながら興味深そうに話を聞いている。
「お前も行くだろ?」
「あぁ。行くよ」
「じゃあ、もう開店時間になってるし、飯食ったら早速行こうぜ」
「あいよ」
そそくさと飯を食い、3人で車に乗っていつもの店へと向かった。
車で走ること数分、いつもの店『Tony-Gun』に到着した。俺たちは車を降りて店に入る。
「うぃーっす。よお、おっちゃん」
「おお、お前たちか。……お?新顔かい?」
「あぁ。新しく仲間になったんだ」
「へぇ、良かったじゃねぇか。……んで、今日は何をお求めだい?」
「弾を買いに来たんだ」
「はいよ。いつものだと、『.45ACP』と『9mmパラベラム』、あと『7.62×39mm』と……『12ゲージショットシェル』か」
「あ、ショットガンはあんまり使ってないから、今回はショットシェルはいいや」
「おお、そうかい」
おっちゃんは棚から手際良く弾を引っ張り出してくる。すると、ショーンが思い出したように言う。
「あっ、『7.92×57mm』ってありますか?」
「7.92……あぁ、Kar98kの弾だな?あるぞ。ちょっと待ってな。……えぇと、たしかここら辺に……あったあった。何発買う?」
「じゃあ、40発下さい」
購入する弾の山に箱が何個か追加される。
「全部で124ドルだ」
「はいよ」
俺は財布から124ドル出してカウンターに置く。
「まいどあり」
おっちゃんは代金を受け取り、手際良く弾を袋に入れていく。
「はい、これ」
「ありがとう。……あ、1つ聞きたいことがあるんだけどさ」
俺は話を切り出した。
「この前、ちょっと銃撃戦になったんだけどさ、向こう側の奴らが、フルオート連射できるマシンガンを持ってきたんだ。おっちゃん何か知らねぇ?一応終わってから拾ったから、現物はあるんだけど」
「…………」
「……おっちゃん?」
何故かおっちゃんは黙って、視線をウロウロさせている。すると、おっちゃんは突然口を開いた。
「……ちょっとそのマシンガン持ってこれるか?」
「え?あぁ、うん」
丁度、マシンガンは車に乗せっぱなしになっていた。
「じゃあ、頼む」
「ショーン、お願いしていいか?」
「あぁ。分かった」
ショーンは車にマシンガンを取りに行った。が、10秒ほどで戻ってきた。
「ん?ショーン、マシンガンは?」
「鍵忘れてた」
「あっ、……はいよ」
デイブが車のキーをショーンにひょいと投げる。
「サンキュー。んじゃ、行ってくる」
ショーンは車のキーをキャッチして今度こそマシンガンを取りに行った。
2分ほどでショーンがマシンガンを持って来た。ショーンはカウンターにマシンガンを置く。それをおっちゃんはしげしげと見て、
「……やっぱりな」
と言った。
「『やっぱりな』ってどういうことだ?」
「この銃は『俺ら』が売ったマシンガンだ」
「はぁ!?それって……えぇ!?」
この人が違法な銃器を売るなんて意外すぎる。デイブはなにかに気付いたようだ。
「ん?待てよ……?『俺ら』?おっちゃん、この店1人で経営してるはずじゃ?」
おっちゃんは申し訳なさそうに答える。
「それについては後で説明する。ちょっと案内したい所があるから、ついてきてくれるか?」
「え?あぁ、分かった」
俺たちはおっちゃんの後ろについて店の奥へと入って行った。
扉をいくつか抜けると、店の裏庭に出た。庭は塀に囲まれており、庭の真ん中には、マンホールのような物がある。
「……よっこらせ」
おっちゃんはマンホールを開けると、その中へハシゴ伝いに降りていく。俺たちは後に続いてハシゴを降りていく。
ハシゴを降りていくにつれて、やけに明るくなってきた。一番下まで降りると、古い水路のような場所に出た。灯りが引いてあり、水路の奥へと続いている。
「こっちだ」
おっちゃんは水路の奥へと歩き始めた。
歩くこと数分、広い空間に出た。そこには目を疑う光景が広がっていた。
「なんだこりゃあ……」
そこらじゅうに置いてある、銃、銃、銃。たまに刃物。さらに俺ら以外にも人が何人かいる。そのうちの1人の若い男が俺たちに気付いて、こっちに来た。
「やぁ、トニー。客かい?お前が客を連れてくるなんて珍しいじゃないか」
トニーというのは、このおっちゃんの本名だ。店の名前にもなっている。
「客連れてくるのが珍しいというか、初めてだな」
「お?そうだっけか。まぁ、ちゃんと案内してやれよ」
「もちろん」
男はさっき自分がいた場所に戻っていった。
「じゃあ、色々話すこともあるし、こっちで話そう」
おっちゃんは奥の方にあるテーブルを指差した。俺たちはおっちゃんと向き合うように座る。
「んで、まず何から話すかな……」
おっちゃんは頭をポリポリと掻く。それを見てすかさずデイブが口を開く。
「じゃあ質問。ここは一体何なんだ?」
「ここは|武器脱法流通協会(Weapon Evading Circulat Association)、略してWECA。その名の通り脱法、非合法な銃器や武器をギャングやその他諸々の組織なんかに提供する場所だ。法律上単発のみに改造しなきゃならない銃器を改造せずに売ったり、州の法律で販売禁止になってる銃を売ったりしてる。あと、火力を落としてない、軍用装薬の弾薬も売ってるな」
「おっちゃんがそんな組織にいるなんて意外すぎるぜ」
まったくだ。このおっちゃんの性格とかからは想像もつかない。人は見かけによらないってのは、このことかな。
「俺はまだ非合法な銃は売ったことないんだけどな。あのマシンガンも俺が売ったんじゃなくて、この組織の誰かが売ったものだろう」
「そうなのか……でも、なんでこの組織が流した銃器だって分かったんだ?」
気になった質問を投げかけてみた。
「ここで非合法のまま流す銃器は、『洗浄』してあるんだ」
「「「洗浄?」」」
3人同時に同じ反応を示してしまった。
「そう。ロンダリングってのは、本来金に使われる言葉だ。紙幣の登録番号を消したり、合法なものにすり替えることで普通に使える金にする。銃器のロンダリングってのは、銃器の生産登録番号を削ったり、工場のデータベースからすり替えたりして、登録番号から追われないようにするんだよ」
デイブが興味深そうに言う。
「へぇー。で、登録番号が削られてたから、この組織の物だと」
「そうだ」
ショーンが口を開いた。
「にしても、どうしてこんな組織が?」
「それはだな……」
それにおっちゃんは顎を軽く掻いてから答える。
「本来、この組織は一般の人たちに『確実に合法な銃器』を売るために発足したんだ。だから、旧水道の水路が街中に広がってるのを利用して、街中の銃砲店の奴らが集まって、皆で検品や合法化の改造をしてた。でもまぁ、それだけじゃ儲けが足りないことがあってな……。私設軍隊に無改造の銃を提供したり、ギャングとかに売ったりして儲け始めたのがこのWECAなんだ。運良く俺は一般の客が多く来る地区に店を構えてたから、非合法な銃を売らなくてもやって来れたんだけどな」
「そうなんですか……」
ショーンは頷きながら聞いている。そこで、デイブは1つ疑問を口にする。
「じゃあ、ギャングとかが抗争が原因で居なくなっちまったら、顧客は居なくなっちまうのか?商売上がったりだろ?」
「…………俺は別に、この組織は無くなってもいいと思ってる。だって、犯罪を助長するのはなんともアレだし」
「…………」
「……ま、お前らもここに来るなられっきとした客だ。お前らには俺がそういう銃器を売ってやる」
「……いいのか?」
「あぁ、いいさ。俺が自分から言ってんだ。素直に喜んでろ」
おっちゃんが何か思い出したように言う。
「……あ、そうだ。この組織のこと黙ってたお詫びに、あのマシンガンはお前らにやる。あと、お前らが買って行ったAK47、フルオートも撃てる物に交換してやるよ。ほれ」
すぐそこの壁に立てかけてあったAK47を取って、テーブルの上に置いた。
「おぉ……ありがとな、おっちゃん」
デイブはAK47をそっと引き寄せて持つ。
「へへ、いいってことよ」
おっちゃんの顔にはいつも通りの笑顔があった。