残念ですが無駄死にです
「あはは~ん!!やっと出れたわ~!やっぱりこの国は素敵ねぇ、無実の罪によって死んだ者が666人出るのがこんなに早いなんてぇ~!さっすが私が呼びこんだクズの末裔たちだわぁ~!」
凄惨なる処刑場にて、突如暴風を伴って現れた女は至極機嫌がよさそうに言い放った。
そう、処刑場で。
それはこの国の第一王子の元婚約者にして大罪人となった公爵令嬢の処刑を終えた直後であった。
赤い肌に黒い長髪、額から突き出た角は計三本で、大型のドラゴンとも並べそうな巨大な体を持つ女は現れたのだ。その禍々しさと神々しさを纏ったオーラ、大きな大きな金の目に見られただけで背筋に怖気が走る。
得体の知れない上機嫌な女の登場に驚き、困惑していた観客らからいち早く我に返ったのは幸か不幸か、公爵令嬢の処刑を決めた第一王子その人であった。
「おい!何だ貴様は!!ここを何処だと思って」
「ん?あらぁ、その声、その顔はクズどもの末裔じゃない。ああ、お前が最後の贄を私に捧げてくれたのね?礼を言ってあげてもよろしくってよ~?」
「無礼ものめが!!俺をこの国の王子と知っての……」
「は~?お前こそ私が誰だかわかってんのかって話だしぃ。私、あんたらの先祖たちと契約してこの国を作り上げてあげたレイジーナ様よ?崇め奉られこそすれ、あんたみたいなちんちくりんにえばられる筋合いはないんだからぁ~」
今から120年ほど前のこと。
この国を作り上げた王族、そして貴族たちは不毛な地へと流されてきた罪人であった。罪を罪と思わず不平不満を漏らす悪漢や盗人、詐欺師に人殺しども。
少しでも荷がある旅人などを襲っては自分達の生きる糧とし、それなりに暮らしていたのだが。
しかし偶然、商人から奪ったものの中に悪魔召喚の書物が混ざっており、それを読み解けるものが悪魔を召喚しこう願ったのだ。
自分たちが飲んで騒いで、王宮で遊んで暮らせるように、と。
召喚された悪魔はどんな無理難題を押し付けられるのやらと彼らを睨み付けていたがそんなことかと体の力を抜き肩を竦めてみせたがその対価として贄を毎年自分に捧げ、そして666人の罪なき者の血肉が捧げられた時、この国そのものを己に捧げるならば叶えようと答えた。
深く考えずとも無茶苦茶な要求であることは一目瞭然だ。
だがもとより自分たちの欲のことしか頭になかった彼らは二つ返事でこの要求をのみ、両者の間に契約がなされたのだった。
……そうして不毛な地と呼ばれたその場所は豊かな川や自然が生まれ、どこからともなく王城や屋敷までもが現れれば、悪魔の力か否か人々が集まり一つの国が生まれて今日までその歴史が続いたというわけである。
この話を展開された人々は皆茫然としていた。
しかし、直ぐに馬鹿にされたと貴族や王族たちが再び騒ぎ出しては不敬だなんだと引き連れてきた兵士たちが悪魔を囲み始め、しかし悪魔はどこ吹く風といった顔で兵士たちを見下しにやにやと歪んだ笑みで嗤う。
「あんたたちがどう喚こうと、交わされた契約は確かに存在するのよ。どう足掻いたところでもう逃げ道なんてないの、フフ、大丈夫よ?私は大食いだから、一人残さず美味しく頂かせてもらうわぁ~」
妖艶な笑みを浮かべたまま、舌なめずりをする彼女は先ずはと言わんばかりに大きな手をヒラリと揺らす。
すると彼女に剣や槍などを向けていた騎士たちがバタバタと倒れて行った。代わりに女の手には倒れた人数分の光輝く玉。それを片手に集め、飴細工をいじるように一つの玉にするとあーんと女は大きな大きな口を開けてそれを咀嚼し飲みこむ。
倒れた騎士に戸惑いながらも何らかの攻撃を受けたに違いないと駆けつけたものも気付く。
皆意識がなく目を開いたまま死んでいることに。生命力さえ感じなくなったただ死体に施す治療法もない。
それがだんだんと人に伝わっていくと我先にと人々は逃げまどったが、どうしたことか、見えない壁に周りをぐるりと覆われてしまったかのようにあるところまでくると皆悉く弾かれてしまう。
その間にも悪魔は人々の魂を集めては丸めて、ごくりごくりと喉を鳴らす。
最後に残されたのはこの処刑を願い出た王子と、王子の気に入りの娘。
他の取り巻きも国王も王妃も騎士も文官も誰も彼ももういない。
意図的にそうされたのかは誰にもわからない。ただ悪魔は二人がどっちが悪いだの、本当は死んだ令嬢の方がいいだのなんだのと争って更に二人の魂が濁りに濁っていく様を目を三日月のようにして愉快そうに眺めていた。
清廉な魂より、ああいった黒いものを纏っていた魂の方がより極上であると思うのはゲテモノ食いの彼女だからか。それとも……