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姫、食事は作らない。

 アスランが蜂の巣を両手でもって、何度も振って、最後に首を傾げた。

「蜂蜜がでない」

「その巣には蜂蜜はないよ」

 それは肉食性の蜂なので蜜は出ません。

 アスランは巣をその場に置いて、その場で寝転んだ。

「なんだ。ただの蜂退治だったのか。だったら、もっと別の手を使ったのに」

「これはこれで欲しがる人もいるからね。半分に割れたけど」

 残念なことにぱっくりと半分になっている。

「とりあえず、持って帰るかな」


 私が家を目指していると、アスランも後を歩いた。

「これで朝食にありつける。献立は何?」

「おとうさんが決めるから分からない。多分、昨日炙っていた肉は出ると思うよ」

「そういえばさ、飯作るのって女の仕事だよね」

「はい?」

「ん? おかしいこといったかな」

「朝食作っているおとうさんの姿を見てみたほうがいいよ。田舎って言うのがどういうのか分かるから」

 アスランは不思議そうに首をかしげた。


「おーい、セシルー」

 養蜂家のおじいちゃんが顔を腫らしながら走ってきた。確実に刺されている。

「いやー、危なかった。もう少しで逝くところだったね」

「こっちは平気でした」

「なに! わざわざ頼んだのに、怪我したのワシだけじゃと!」

「知りません。逃げるの遅いのが悪いです」

 私はきっぱりと言った。こういう時は因縁つけられる前に明確に言葉を発しておくほうがいい。

「くーっ、……報酬いるかの?」

 私は手を差し出した。

「はい」

「いる?」

 私は両手を差し出した。

「当たり前」

「わかったよ。ただし巣と交換ね」

 養蜂家のおじいちゃんは諦めて、蜂蜜たっぷり入った小瓶と蜜蜂の巣をくれた。

「やった! 蜜蜂の巣だ。ありがとう」

「そんなもん。何に使うの?」

「蜜蝋を作ります」


 私は去年も使った古い鍋に水を入れて、焚き火で熱した。アスランは不慣れそうながらも、火打石で焚き火を作ることが出来て、少し満足した様子だ。

「沸騰したら蜂の巣投下。その前に、熱し易いように巣を五分割ぐらいにして」

「わかりました」

 アスランが助手となり、てきぱきと作業をこなして、蜂の巣を熱し始めた。しばらくすると鍋の中で蜂の巣がぐつぐつと熱せられ、表面に滑らかな蜜のような物が出てきた。さらに蜜が出るのを待ってから、金網を鍋の中に押し入れて、どんどん溶けていく蜂の巣から出るごみを鍋の下に押し込んだ。

「おおー、鼈甲飴べっこうあめみたいな色だ」

「あとは冷やして、上澄みだけを取る」

「ふーん。で、なんか役に立つの」

 アスランは腕を組んで、鍋のものを見下ろした。


「蜜蝋は革の質を維持するのに使えるし、革細工の紐にあらかじめ染み込ませることで耐久度が上がるよ。あとは蜜蝋だけだと足りないけど、化粧品にもなるから売ってお金に出来るよ。それと、蝋燭ろうそくとか……」

 私が鍋を見下ろしながら考えていると、アスランが私を見つめていた。

 ……そんなジロジロと見る必要あるのかな?

「服は自作か」

「分かった? やっぱり素人だから分かるかな。縫い目が甘いよね」

「……綺麗だ」

 服のことを誉めていてくれているのは分かるけど、「綺麗」という単語をそのまま使われると少しだけドキッとする。

「俺に外套を作ってほしいな。派手すぎず、地味すぎず、中庸を目指したものがいい」

「嬉しいけど、外套を作れるくらいの原皮は無いよ」

「そうか……残念だ。でも報酬は弾むから作れるようになったら教えてくれ」

 アスランは朝食にすらありつけないのに、金は持っているようだ。昨日、お父さんがいっていた言葉が引っかかるけど、アスランが悪い人には見えなかった。むしろ善人に思えた。

※肉食性の蜂=雀蜂ですが、これを書くまで雀蜂の巣でも蜜蝋が作れると思っていました(汗) つまり、間違える寸前だったのでした。

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