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姫、名前はセシル。

「剣の達人なんて知らないなぁ」

「そうですか」アスランが早速お父さんに聞いていた。

「そもそも、なんで剣の達人を探しているんだ」

「命を狙われてまして、露払いに護身術でも習おうかと」


 アスランの顔を見ると淡々として無表情だ。命を狙われている人には見えなかったが、底抜けの明るさがなく寂寥感せきりょうかんが表情に出ていた。

「詳しいことはご迷惑をかけるので言えないのですが」

「まあ、気にするな。そういうのは良くあることだ」

 お父さんは若いころ冒険者として生活をしていたが、大怪我をして庶民の生活に戻った。背中に左肩から右脇腹にかけて大きな斬り傷があり、傷痕を見ると眼を覆いたくなるほどに痛そうだ。


「村の連中にも聞いてみよう」

「ありがとうございます」

「それはそうと……今日の寝床のあてはあるのか?」

「野宿でもしようかと」

「それは駄目だ。狼に食い殺されるぞ。そうだな……神父様に頼んでみるか」

 小さな村にも教会はあった。魔王国から帝国に代わってから広がった新興宗教だ。各地の村に点在しており、基本的に私たちも教会の信徒となっている。

「お願いします」


 私の家は木造で、母屋の隣に、食料を保存する木造の倉庫を置いている。私は鉄の鍵を空けて中から、子羊の胃袋に乳を流し込んで作った乾酪チーズと葡萄酒を持って来た。片手はルナに噛まれたままなので、全部片手で運んで、最後に三人分の石のように固い麺麭パンを持ってきた。

「神父様の許可はとったぞ」

「ありがとうございます」

「さて、久し振りの客人だから豪華にするか。猪の肉を食おうか」

「やった。ご馳走だ」


 お父さんは火打石で枯れた葉に火をつけて焚き火をおこした。

「台所は無いんですか?」

「あるにはあるけど、この時間帯だと手元が暗いから危ないだろ。月明かりの下のほうがマシだ」

 ばらして熟成させていた猪の肉を鉄串に刺して、壷に入った魚醤を器に移し替えて、蜂蜜を少々垂らして、肉につけて火で炙った。次々と火を通すと、すぐに三人分の肉が焼きあがった。お父さんは明日の朝の分も焼いて、器に入れて倉庫にしまった。

「これは……美味しいですね」アスランは炙った肉を熱そうにしながらも、すぐにでも口に入れたそうにして急いで食べた。「作りたてが一番美味しい」


 私も肉を食べていたが、片手が不自由なので食べづらかった。

「ルナー、いい加減噛むのやめてよー」

「まだ離さないのか」

 お父さんは呆れてルナを見た。私の手は血は出ていないが、噛まれ続けているので痛かった。

「もう、あれだな、手を川に突っ込んでこい」

 ルナはそれを聞いて、眼を真っ黒にした。彼は水が苦手なのである。

「可哀想だよ」

「セシルは甘いから、つけこまれるんだよ」

 と、お父さんは言ったが、本人も対処法が分かるのにやらないので、私と同じで甘い人なのだ。そう考えると、義父ながら可愛らしく見えてくる。

「ふふふっ」

「何かおかしいか」

「別にぃ」


「ふーん、セシルって言うんだ」

 アスランが私の顔を見た。まずい、名前を知られてしまった。

 私はルナを見ると、黒目が大きくなっていて、アスランの顔を何回も盗み見していた。時々、私の顔を見上げて何か言いたそうにしているが、言葉を喋れないので何を言いたいのか分からなかった。

 倉庫の方で、小さな影が横切った。

「……あっ、倉庫に鼠が」

 お父さんのその言葉にルナは反応して、眼にも留まらぬ速さで地面をかけて、鼠を尻尾で撲殺した。地面には走った後が残っており、業化した力が知れた。

「恐るべし業化猫」

「やっと離れてくれたー」

 ルナはそのまま倉庫の前に陣取り、鼠捕りの番をはじめた。だが何か言いたげな黒目は、そのままずっと私とアスランの方へ向けられていた。


 葡萄酒を器に入れて、汲んできた湧き水で薄めて、麺麭パンを浸して軟らかくしてから食べた。猪の肉と違って固かったが、何度も噛んでいるとほんのりとした甘みが広がった。

 お父さんは胃袋を短刀で切り開いて、陶製の皿に乾酪チーズを三人分に分けて、残りを布で包んだ。私は短刀で細かく切って、刺して口に入れた。

「美味しい! やっぱり子羊の胃袋は美味しくできるね」

「くそ狼にやられてなければ食えなかったな」

「くそ狼?」アスランが尋ねた。

「ああ、最近家畜や野生動物を襲うだけじゃなくて、人も襲う狼が現れてな。ありとあらゆる場所を蹂躙していくんだよ。もしかしたら、エロネコと同じで業化したのかもな」

「狼……」

 アスランは葡萄酒で麺麭パンを流し込みながら物思いにふけった。

葡萄酒ワインを未成年なのに飲んでいますが、はたしてこれでいいのか作者にもわからない(笑)

作者の資料集め能力が低いので西洋の歴史で葡萄酒を未成年が飲んでいるかわからなかった。ヨーロッパの中世では生水を飲むことはできなかったので、飲むために葡萄酒ワインで消毒して飲んでいたとされている。

 ちなみに葡萄酒ワイン蜂蜜酒メードがなかった時期の水分補給の方法を、私は知らない。ただ、水を飲んでいただけなのか。もしくは食物からの水分補給で十分だったのか(食物の消化で水分が大量に消費されたりするが)。よくわからないことだらけである。

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