姫、飼い猫に手を噛まれる。
「なにしているの。おとうさん」
「ん? おお、帰ってきたか」
おとうさんは後頭部に巨大化したルナを乗せていた。
ルナはお母さんが飼っていた愛猫で、毛並みが真っ白で光の当たり具合で銀色に輝く、瞳の色が透き通る緑で美しい雄猫で猫生(?)の斜陽の時期を迎えていた。私が子供のころはまだ元気だったが、年々大人しくなっており、私よりも年上で、人間の年齢で考えると村一番の長老だ。
おとうさん(義父)とお母さんは幼馴染で、ルナとも昔から知り合いなのだが、ルナはおとうさんに懐いていない、お母さんと似ている私の言うことは何でも聞くので、おとうさんは「エロネコ」と呼んでいる。
色々疑問があるが、まずは最初の疑問。
「夕食は準備できたの?」
「あっ、ごめん。忘れていた」
「えー、おなか減ったのに」
巨大化したルナは五月蝿いお父さんの後頭部を尻尾で殴った。
「おのれー、エロネコー」
「ルナ、やめて、おとうさんの威厳が無くなる」
「まず、この状況の理由を聞こうよ」
アスランは呆れた溜息をついた。
「誰だ。お前? 駄目だろ。虫をつれてくるなって!」
「勝手についてきたんだよ」
「俺は虫扱いですか」
ルナはおとうさんの後頭部を尻尾で殴った。
「ぐえー。エロネコめぇ」
私は父の威厳がなくなる前に、ルナを落ち着かせようとした。
ルナは興奮して牙を剥いており、怯えて毛を逆立てている。
「おい、危ないぞ」
「大丈夫だよ」
大丈夫だ。私はお母さんに似ているから、昔からルナは私には優しかった。ほら、この緑色の瞳は優しさに満ちている。狂気なんて、私たちの前では無に等しいんだよ。ねっ、ルナ……。
「ほら、怖くない」
私はルナに手を伸ばした。
「あー、あー」
非常に痛いです。
ルナは問答無用に、私の手を噛んでいます。
「助かった」
お父さんはルナから逃れて、近く石を掴んだ。
「気をつけろよ」
もう遅いです。
自分の力を過信しすぎた私が悪いんだ。
「長年鼠を狩り続けたエロネコの業が臨界点に達したんだ。いわゆる業化だ」
アスランの目が点になった。
「これが業化なのか。ただの猫のくせに業化するなんて、どれだけ業が深いんだ」
お父さんがアスランをちらっと見て、私に向き直った。
「どうでもいいから、助けてよー」
「それを聞きたかったんだ。殺してもいいなら、助けられるけど」
「駄目!」
「だよねー」
お父さんは打つ手無しと言って、石を地面に捨てた。
「じゃあ、飯にするか」
えっ? 私は噛まれたままなのですか?
※習熟度・レベルの代わりに業という言葉を使っています。運命を託されたり、奪ったりすると、運命の糸が力を紡いでいき、その人自身に力が与えられたり、持っている道具に力が与えられたりします。道具の業は、業が溜まり続けると業化=(覚醒)して強大な力を発揮します。この道具を他人が使っても、同じように力を使えます。
また高い地位にある(魔王など)は他人の運命を背負うことになるので、業の力が強まります。逆に言えばアホなことをして人心が離れると弱体化します。分かりづらいと思いますが、こんな感じですのでよろしくお願いします。