サンタクロースのマリー
目が覚めると自宅のベッドで横になっていた。窓から差し込む朝日が眩しい。
少し黄ばんだ壁紙にくたびれた内装の、見慣れた我が家。
あれ、俺は気を失った後どうしたんだっけ?
ぼんやりとした頭で思い出してみるが、サンタ服の女を見た後の記憶がない。
昨夜の出来事は夢だったのか?
ベッドから抜け出し、起き上がったその時。
目の前にサンタ服の女が立っていた。
「う、うわぁ!!」
「何だ、幽霊でも見たような顔して。貴様を助けてやったのに」
「お、お前は昨日の……」
「私がソリから出ようと非常扉を開けたら、貴様にぶつかったのだ。失神した貴様を放っておくわけにもいかず、朝まで介抱してやったのだぞ。感謝するがよい」
女は得意げに腕組みをした。
「ソリって……サンタクロースなわけないよな?」
「ところがどっこい、私は正真正銘のサンタクロースだ。名をマリーという。覚えておくがよい」
そう言って、女は名刺を差し出した。
緑色と赤色の曲線で縁取られた名刺には、
『国際サンタクロース協会 第1級サンタクロース マリー・アレクサンドア』と記されていた。
「は、はぁ……」
マリーと名乗った女は、貧乳だがかなりの美人だ。白い肌と赤いサンタ服が良く似合っている。
だが、冷静に考えてみれば自分はサンタクロースだと名乗っている時点で相当イッちゃっている人なのだろう。
俺は自称サンタクロースのマリーを刺激しないように慎重に言葉を選びながら話しかけた。
こうなれば、何とかして早く俺の家からお引き取り願うしかない。
「あの、サンタクロースさん。プレゼントの配達をしなくていいのですか? もうクリスマスは過ぎてますが」
「それが墜落した衝撃でソリが壊れてしまったのだ。あ、ソリと言っても貴様ら人間が想像しているような木でできたチャチなものではないぞ。
昨日のあの機械のことだ。正式名称はSuper flying Object with Rocket and Infomation system、略してSORI。日本語で言うと高度情報網付きロケット駆動飛行体という名前で、これはサンタクロースの国独自の技術を集結して作られた乗り物……っておい、なぜ私を外に引っ張っていく」
マリーの妄想話を数秒聞いた結果、俺の第六感がこの女を強制排除した方が良いと告げたのだ。
「わ、分かった。私が本物のサンタクロースだという証拠を見せてやろう」
マリーはサンタ服の内ポケットからスマートフォンのような機械を取り出し、俺にかざした。
「貴様の名前は崎島俊、29歳。地元の高校を卒業後T大に進学し首席で卒業。趣味はバイク。小学5年生のクリスマスの深夜1時頃、枕元に欲しかったテレビゲームのプレゼントを見つけ、サンタクロースを探そうと真冬の屋外に出た。しかし、そのことが原因で風邪を引き1週間寝込んだ。違うか?」
「どうしてそれを……」
「実はあのテレビゲームを配達したのは私だよ。後催眠として、お前には両親がプレゼントしたと暗示をかけておいたがな。それにしても、あの時の洟垂れ小僧が今やこんな冴えない男になっているとはね」
「まさか、本当にサンタクロースなのか!?」
「だから、さっきから言っているだろう。ちなみに、今私が持っている機械は『サンタフォン』と言ってな、一度でもプレゼントを配った相手にかざすと、その人物の名前・性格・経歴・居場所等々あらゆる情報が分かるという代物だ。ちなみにこんなことも分かるぞ」
マリーはサンタフォンを何やら操作した。
「貴様は職場の先輩である、野崎寧々に片思いをしている。しかし、奥手な貴様は告白する勇気もなく、毎晩自分で自分を慰めている始末」
こんな痴態を野崎が知ったらどう思うかな? 二度と口はくれぬだろうな」
マリーは天使のような顔に悪魔のような笑みを浮かべた。
「そう言えば、野崎も過去に私がプレゼントを配ったことがあったな。同じ市内にいることだし、今から行って貴様の恥ずかしい行為を暴露してやろう」
「そ、それだけは止めてくれ!」
「ならば、私の言うことを聞け。頼みがある」
マリーは何故か腕を組んで仁王立ちになった。
「ソリが直るまでここに居候させろ」