研究室にて
校内外から集まってくる情報を整理して調査する。
目的はそんなところだった。
〈俺〉は研究室に入ると〈観察者〉がノートパソコンをいじっていて、〈俺〉と目が合った。
「暇か?」
「暇だよ。何もしなくてもいい人生ってのはひどく退屈だ」
〈俺〉が答えると〈観察者〉は人差し指を天井に向けて動かし、こっちに来いと命令していた。
執務机の前に立つ〈俺〉が彼女を見下ろすと、〈観察者〉が一枚の紙を机の上において、こちらに差し出した。
「〈貴様〉が〈サクラ〉と適合した報告を受けた、気分はどうだ?」
「気分?俺は病気でもなんでもないですけどね」
二十歳前後だという〈観察者〉はこちらを一瞥して書類を回収した。
「で、なんでその…〈サクラ〉ってのは神なんだ?」
「正確には霊の上位みたいなものらしい。私にも〈姫〉にも視える」
「ナンセンスだ」
〈俺〉は呆れていると〈観察者〉は違う書類の束を差し出した。
「これらに目を通してサインを」
書類の束をめくって一枚を返す。様々なライセンスの制限の免責だ。
「拳銃携行許可は持ってる」
「なるほど、今もか?」
「ええ」
〈観察者〉は何か関心したように「そうか」と苦笑した。
「利害一致はありそうか?」
「兄貴を探してほしい」
「〈私〉も〈貴様〉の兄である〈狂人〉の消息を追っている」
「たかが大学生のすることじゃない」
「私の〈婚約者〉が政府関係者なものでね」
「…結婚を?」
「考えてはいる。今度会わせよう」
意外だったが個人的な部分に入り込むつもりはなかった。
「〈貴様〉も興味がわいたんじゃないのか?幽霊だの神だのに」
「どうだろうね。で、次の調査に何か関係が?」
〈観察者〉が呼んでいると人づてに聞いてここに来たのだが…。
「〈貴様〉が遅いから〈姫〉が調査に出ている」
「なんの?」
「お化けがらみさ」
「なるほど。オカルト少女が好きそうだ」
「〈貴様〉は神を信じるか?」
「聖書の中に閉じこもってる」
「新しい解釈だな」
〈観察者〉が失笑して〈俺〉はおどけてみせると〈観察者〉は「下がれ」と言い放った。
「〈俺〉になにをさせたいんだ?」
「そうだな『社会復帰』なんて面白そうだ」
「姉さんにも言われたよ。引き篭るだけなら高校に行ったらどうだってね」
「面白いか?」
「普通に生きる分には苦労しなさそう」
〈俺〉が正直に答えると〈観察者〉はドアを指差す。
「思考し考察しろ。〈貴様〉の武器だ」
「?」
「行け」
〈俺〉はドアを開けて外に出るとその真意を考えた。