遭遇03
〈姫〉はその少女を見て静かに〈サクラ〉と呟いた。
「〈姫〉さんに警告だよ。ここままだと飽和凝縮反応が始まるよ」
「そのために〈サクラ〉に〈騎士〉を」
〈姫〉と〈サクラ〉の関係がわからないが、とりあえず黙って聞いていることにした。
〈サクラ〉が〈俺〉をじっと見つめて来る。
そういえば女の子にこんなに真っ直ぐ見られたのは…久しぶりだ。
そんなことを考えていると〈サクラ〉の姿が消えた。
「あれ?」
「集中して、始まるわ」
カチン、と後ろの白いポールの上にあるアナログ時計の音が鳴った瞬間、紫色に染まり始めていた風景が一変した。
行き交う人の中に老若男女、服装も様々な中に白い影が入り込んでいる。
「あれは?」
「真実の一つよ」
「おばけなんてなーいさー」
〈俺〉は適当に呟くと〈姫〉は小さく「ふぅ」とため息を吐いていた。
「どこに向かっていると思う?」
「駅の構内。急いで乗りたい電車でもあるのかな」
〈俺〉が立ち上がると〈姫〉が意外そうな顔をする。
「追いかけるつもり?」
「どこ行きに乗るのか気になったんだよ」
〈俺〉は好奇心に負けていたのか、それともただ単に興味がわいただけなのか。白い人型の影の進む方向に進んだ。
駅の入り口に入り、改札を抜ける。
「誰もいなくなった」
白い影すら見えないが、先ほどまで見えていた普通の人間すら見えない。
「どういうことだ?」
「おりこうさんな頭で考えてみることよ」
着いて来た〈姫〉は何も教えてはくれないらしい。
通路、階段を上って駅のホームに向かう。
いつもと変わらない駅の構内はシンと静まり返っているだけだ。
駅のホーム、上りに続く階段を進む。
「上りの階段を下るって面白い表現だと思わないか?」
「なにか?」
聞いていないのか、無視されたのか。くだらない話にはあまり乗ってくれない。
「人がいなくなった」
〈俺〉は正直に現状を口にすると〈姫〉は視線を一度だけ動かした。
「そうね、それで?」
わかりきっていることを言うな。そういう話だ。
「ありえない」
「観測された事象は何よりも現実であると思うわ」
「記録でも残すか?」
〈俺〉はつまらない女だ、と舌打ちしそうになる。この現象に対してもう少し脅えてくれようものなら可愛げもあるだろう。
上りプラットホームに入るとそこには白い影が何列か並んで電車を待っているようにも見えなくなかった。
「彼らは?」
「電車まちだろ」
「数が多いわ」
「遅延してるんだろ…?不真面目な鉄道待ちさ」