遭遇01
〈観察者〉は〈姫〉と〈騎士〉に調査して来いと命令し〈姫〉が了承したのか黙って部屋を出て行く。
「何で〈俺〉が〈騎士〉で彼女が〈姫〉でちょうどいいんですかね。俺が〈騎士〉だからですか?」
〈観察者〉はじっと俺を見て、俺はたじろぐ。
何かこう、いやなものを感じる視線だった。
これは憎悪?
確かにその感覚だった。自分のことを嫌っているか、それ以上の視線。
「そうだな、そうかもしれん。だがな〈貴様〉は責任を負うべきだ」
「そうかもしれませんね」
また〈観察者〉もBMNSを自分が作ったことを知っているのだろう。
「早く行け。〈姫〉を追え」
「説明は?」
「簡単に言えば『イレギュラー調査』だ。行けばわかる」
〈観察者〉は追い払うように右手を振って〈俺〉はとりあえず〈姫〉の後を追うと、エレベーターを待っていた〈姫〉に追いついた。
箱が到着して乗り込む。
「イレギュラー調査は統計学上邪魔で切られてしまう少数派のことだな」
「ポアソン分布とか難しい講釈はしないのね」
〈姫〉が不思議そうに〈俺〉を見上げる。
ネットワークシステムを構築するような人間なのだから、小難しいことをベラベラと並べ立てると思っていたらしいが、残念ながら〈俺〉は何よりも理屈屋は嫌いな側の人間だった。
「ポアソンだかパイソンだか知らないけど、俺にとっちゃ別に気にならないかな。というより、噂話みたいなもんの原因を突き止めるであってるか?」
「大体」
〈姫〉に肯定されて〈俺〉は少々困惑した。〈姫〉がそんな俗世的なことに首を突っ込むとは思えなかった。
「人の上に立つために帝王学を学ぶ学科、それが秘匿学科なのでしょう?」
「統計学は人をだますのには一番いいな」
「よくわかっているみたいだから言うけれど、目に見えないデータは見えないように加工されていると思ってくれって〈観察者〉が言ってたわよ」
〈姫〉の内心は読めない。表情に変化がないのだ。だからこそ〈姫〉がどうしてそんなことを口にしたのかまで探ることは出来ない。
「イレギュラー調査、ね。何を調査するんだ?」
「幽霊とか、超常現象、怪奇現象の類。あなたは視える?」
「得意分野ダヨー」
適当に返事をすると〈姫〉はため息を吐いた。
「信じてないな?」
「信じるも何も、〈貴方〉が信じていないでしょう」
〈姫〉の指摘も最もだった。
生憎〈俺〉はその手の類のものは信じてない。その手の現象は心理的な抑圧だのなんだので妄想の一部だと思っているのだから。