ファーストコンタクト2
あの出会いから三日。
なんとなくここに来れば〈姫〉に会える気がして立ち寄った。初めて会った場所がここだったからだ。
静かな喫茶店に入った〈俺〉は目当ての〈姫〉の前に座った。
妙に古臭くてぼろい店内だっただけに最初は面食らったが、六人分の丸椅子が並んでいるカウンターテーブルの向こうに立っているタキシードを着たバーテンダーがこちらを見て頭を下げ、グラスを磨いている。
初老の男性で優しげな笑みが印象的だった。
カウンターテーブルから通路を挟んで窓側にある四人掛けのテーブルが三つ並んでいて、入り口から一番遠い窓側にドレス姿の少女を見つけたのだが、彼女はこちらを待っていたらしい。
見た目から〈姫〉と勝手に呼ぶようになった。
「まだ見つからないの?」
統計学研究サークルを探せと言われて探して見たものの、実はまだ探し出せてはいなかった。
「いやだって…」
〈俺〉はしどろもどろになっていると〈姫〉は黒いハードカバーの本を立てて、それを読んでいる。いつものことなので気にしないが、話をしているときだけでも顔をこちらに向けて欲しいものだ。
「探し出す方法はいくらでも考えられるでしょうに。秘匿学科二年生、成績は優秀な部類になっている」
「こっちのことは調べられるとか…まじかよ」
本音が思わず口に出てしまう。
統計学研究サークルは名前だけが存在しているのだが、活動しているサークルメンバーやその所在地がはっきりしない。しかも〈観察者〉の話になると誰もが『知らない』と返事を返した。
「俺がまるきり変人みたいな扱いなんだ、いやになる」
見知らぬ人間に『統計学研究サークルって知ってる?』と聞いて回るのだから気味悪く思われても仕方がないだろう。
「ヒント?」
「ノー」
〈俺〉は本から目を話さない〈姫〉のヒントを拒否するとようやく〈姫〉は本を畳んだ。妙に分厚い黒い皮製のハードカバーの本にはタイトルが書かれていない。
「意地っ張りなの?」
「それはノーだね、どっちかって言うとあきらめは早い」
「そう…」
〈姫〉は立ち上がるとそのまま店を出て行く。
「会計」
〈俺〉が払うのか、と思いつつ財布を取り出そうとするとマスターは首を左右に振った。彼女の飲んだホットイチゴミルクの代金は要らないらしいが、コーヒーの代金はしっかりと請求された。
この差はいったい何なのだろう。