表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/33

美少年02

 〈元大公〉が勢い良く立ち上がって〈俺〉に掴み掛かった。


 右腕を外側にひねってその場で身体を回転させ、腹ばいにして地面に伏せさせて〈俺〉はこの奇行を沈静化させ、首筋に肘を打ち込んで完全に沈黙させる。


 秘匿学科で習った護身術がこんな場面で役に立つとは思わなかったが、とりあえず〈姫〉を追って外に出る。


「さすが〈騎士〉ね」


「あんまりうれしくないね」


 〈俺〉は〈元大公〉があそこまで精神的に追い詰められているとは思わなかったが、このままだと〈姫〉にいつ襲い掛かってくるか分からないな、と気を引き締めなおす。


 〈姫〉と〈俺〉が再び大講堂に入り、そのままステージの上に上がる。


「トリックでもなんでもないわね、あれは」


 〈姫〉は確信めいた声で周囲をゆっくりと見回した。


「ここはステージ。ここだけは世界が変わる」


「ここだけは作られた世界だからな。役者はその世界の住人になって演じる。つまりここだけ、世界が変わる、なるほどね」


 〈俺〉は〈姫〉の言いたいことがなんとなく分かった。


「この限定された空間だけが、リアルに置き換わる瞬間、事象が発生するならあのビデオは外にあったはずだ。映像が…」


 改変されるには何か必要だったはずだ。


「〈プロスペロー〉の首が落ちたときは…」


 〈俺〉が考えていると〈姫〉が俺の左隣に立ち、二人でステージから客席を見回す形になる。


 すっと差し出された白い右手。


「触れて」


 〈俺〉が〈姫〉の手に触れた瞬間、観客に違和感を感じてそちらを見ると、どこにでもいるような二十歳くらいの女性が観客席に座っていた。


「最後に〈プロスペロー〉は観客に語りかける、つまりそのとき、リアルはステージだけじゃなくて観客席までに及ぶのか」


「たぶんね。でも彼女は何もしていないし、何も出来ない」


「なぜ?」


 確信している〈姫〉に〈俺〉は彼女に何を感じているのか尋ねたつもりだった。


「だって〈アリエル〉は〈プロスペロー〉の命令がなければ『魔法』は使えないでしょ?」


「そうなの?」


「知らないけど」


 どうやら適当だったらしい。


 ステージの袖から物音がしてそっちを見ると〈元大公〉がステージに上がって〈俺〉の肩を掴んだ。


「俺は死にたくないんだ!」


 このチキンやろうは面倒かもしれない、と〈俺〉が呆れていると、〈姫〉は〈俺〉と重なった手を見下ろしていた。


「少し、まずいわね」


 〈姫〉が小さい声で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ