科学的立証方法
間取り、構造、病院のカルテ。
集められる情報を全て集めて義姉に見せたが、医者の見解としては特に問題はなさそうだった。
〈サクラ〉が教室に戻って来るのを見て、机の上に髪の毛が二本、小さな針が一本転がる。
『優秀なスパイだな』
伝えたいことを頭の中で言葉にすると『交信』ができる。もとより感覚共有の『交感』に近いもので、BMNSの恩恵の一つだった。
『いいけどさー。血液採取と毛髪採取終わったけど、ちょっと出かけていい?』
〈サクラ〉は不満そうに床を右足で小さく蹴りながら拗ねた少女のようにこちらを上目遣いに見上げていた。
『おっけー、またよろしく』
〈俺〉はわざとらしく手を振って笑顔で見送ると〈サクラ〉が壁をすり抜けて出て行く。
『いつかのろってやる』
そいつは洒落になってないんじゃないか?と思いつつも、採取してくれたサンプルを銀色の手のひら大のケースにつめてポケットに入れる。
「まるで秘密工作員みたいなことをするのね」
〈姫〉が突然、真後ろの席から声をかけてきて心臓が飛び出そうになった。
「違法行為よ」
「幽霊を使うのが?」
「証拠にはならないわね」
「参考にはなるだろ?」
毎回行われる押し問答だ。ここ一ヶ月で分かったことは統計学研究サークルは公式、非公式を含めて様々な調査に協力し、実績を上げていることだけ。
「彼女のお兄さんを調べているの?」
「クスリとか変な宗教とか入ってないかなーってね。ま、大体シロだし」
「やってるとは思ってないくせに」
〈姫〉は無駄なことまで調べるのは研究者の悪い癖かしらね、と不満げにつぶやく。どうにも自分の周りには欲求不満な人間が多いらしい。
「同じことを別の人にやってもらいたいのだけれど、いいかしら」
「ん?」
「科学的立証は証明に必要なのよね、今の時代は」
〈俺〉はそれを聞いて、何かが進行し始めたことを察知した。
「イレギュラー事案はね、この世界のバグよ。日常に入り込んではワームのように変貌して消えるの」
「そういう説明のほうがありがたい」
「BMNSのバグよ」
「仕様かもしれないけどね」
〈俺〉はスマホを〈姫〉に向けると〈姫〉は首をかしげた。
「データ転送してくれよ。調べたいファイルを」
「持ってないわ」
〈姫〉はそのまま踵を返し、一度だけ教室の入り口でこちらを見た。
付いて来いってことね。
〈俺〉は〈姫〉の後を追って研究室へと入った。