めろんばーがー4
テーブルに戻ると〈俺〉は〈姫〉と〈狐目〉が普通に話を進めていることに気がついた。
「毎週火曜日の夜に出現するらしいけど、今日は木曜日だから来週の火曜日まで時間があるわ」
「え?ああ」
〈俺〉は席に着くなり〈姫〉に説明されて、慌てて返事をする。
「そうね、〈貴方〉は〈観察者〉に許可申請を。大学男子寮に〈私〉が入れるようにね」
「調査特権ね、申請しておくよ」
〈俺〉は所謂、上司から命令されているサラリーマンの気分を味わっていた。
「さっきのフード女は?」
兄のことがあっただけに〈狐目〉は少し過敏になっているのかもしれない。〈姫〉はそんな〈狐目〉を見て〈俺〉の耳に唇を近づけた。
「神経が過敏になってるわ。こういうときは見えないものを見えたって言いかねないから安心させるわね」
「そうしてやってくれ」
〈俺〉が姫に返事をすると〈姫〉は頷いた。
「気にしないで、あれはたぶん見ているだけだね」
「ま、いろいろ準備があるから来週の火曜日に男子寮で」
〈姫〉はその後、一瞬だけ〈俺〉に向かって信じられないような物を見るような顔をしていたが、それもすぐに笑顔に戻る。
〈狐目〉と〈ゴリ男〉の二人が並んでショップを出て行き、〈俺〉は胸を撫で下ろした。
「ねぇ〈貴方〉もしかしてあの二人も一緒に行動させるつもり?」
「え?そんな約束してないだろ」
〈俺〉は何を言っているのか分からずにきょとんとしていると〈姫〉は盛大にため息を吐いた。
「来週の火曜日にって言ってたわ」
「言葉のあやだよ。そうすれば安心して今週は過ごしてくれるといいなーってね」
「ひどい人ね」
〈姫〉は心底呆れているようだが、〈俺〉は差して気にはならない。
「来週のことについてはいいけれど、今日〈貴方〉がさぼったおかげで捜査が一日遅れちゃった案件があるから、明日は絶対に逃げないように」
〈姫〉に釘を刺されて〈俺〉は一人になって男子寮に向かう。
完全個室、全学年全寮制の学園では結局、生徒は学園の敷地内に戻らなければならない。
これが息苦しくて精神的にどうこうなる話もありえる。
だからこそ慎重に動きたかったが〈姫〉が介入した段階で『ゆっくりと』は実行できそうにもなかった。