ファーストコンタクト1
日本軍は圧倒的な戦火を残して第三次世界核大戦、第四次世界非核大戦から自国領土を守り抜いた。
日本、英王国、ドイツ共和国に敗退した国は名をそれぞれ、中華合衆国と米帝連邦に変えた。
放射能汚染に悩む地球上のすべての生命は急激に進化を遂げた。示し合わせたように同じように。
断続平衡説が立証されるには至らないものの、これは限りなくその結果に近いものになってしまっていた。
「これがあなたの作り出した世界よ」
どこから情報を仕入れて来たのか、と質問する余裕はなさそうだった。
少女は淡々と事実を口にしている。
誰にもばれないようにしていたはずだったのに、彼女は既にすべてを知っているようだ。
黒いフリルのついたスカートを履いた黒いドレス姿の少女がこちらを見て無表情に冷たい顔をしていた。
「BMNS、ブレインマテリアルネットワークシステムの開発者にして支配者。かつてのネットワークが復旧不可能なダウンに見舞われた中、貴方はその代わりにBMNSを展開した」
少女の後ろにある鏡に映った憔悴しきった顔をした自分はひどく疲れきった顔をしていた。
世界を救い、世界のすべてを手に入れたようなものだと賞賛されるBMNSの開発者は確かに自分だった。
「どこで調べた?」
彼女は少しだけ考えてから、くすくすと笑った。上品な笑みと貴族の娘のような服装に〈姫〉のようだな、と〈俺〉は思った。
「水鏡学園統計学研究サークルを尋ねて。探せば見つかる」
どういう縁なのだろう。
自分が編入した先の学校にばれるとは思わなかった。
「そうそう〈観察者〉からの伝言。もし貴方がこのまま姿を消すようなことがあれば…」
その先は言わない。
つまり正体をばらすというわけだ。正体といってもたいしたことはない。ただの物好きな研究者が新しいネットワークを構築して世界中の情報網を手中に収めているだけの話。
「その〈観察者〉ってやつは俺に何をさせたいんだ?世界の情報をすべて手に入れて支配者になりたいのか?」
「それは貴方が既にしていることじゃなくって?」
「世界征服に興味はなくなったんだ」
俺は冗談交じりで笑って見せたが〈姫〉は笑いもせずに冷めた顔をしている。
なんだろう、この年下に蔑まれるのは変な気持ちに…。
「貴方の知らない世界へ招待してあげる」
「官能的だね」
〈俺〉はおどけて見せるも〈姫〉はやはり無表情なままだった。
すっごく久しぶりだけど大丈夫かなぁ。
まぁいいやとりあえずやってみよう。