07 世界を旅する武道家、早乙女さん
「もし、そこの方。もしやアルティと言う男の御弟子さんではござらんか。」
「え、まあ一応そうですけど、貴方は?」
マツバ姉妹の店で朝食を採っていた私にパンダの獣人が話しかけてきた。
「それがしは、ナカノ国から武道を極める為に旅をしてきた早乙女と申す者。この国にアルティと言う凄腕の魔法使いがいると聞き、果たし合いを申し込もうと思い探しておるのだが。」
「はぁ、それで何故私の所に。」
「決まっておる。お主の師匠がどこにいるか分からんからだ。この国は広いし、お主ならば師匠がどこにいるか分かるであろう。」
「まあ、多分いつもの場所にいるんだろうけれど。とりあえず付いてきてください。ご案内しましょう。」
「うむ、かたじけない。」
私は早乙女さんと共に街に繰り出した。
早乙女さんはあちらこちらを見ながら付いてくる。
「しっかしでかい国だ。宿屋も結構あるから先程の店を探すのにも苦労したものだ。」
「そうですか。」
「先程の店は笹の葉は食べられるのかね。」
「どうでしょう。後で聞いてみますよ。」
そんな雑談をしているうちに、私達はある店の前にたどり着く。
「こ、これは、こんな如何わしい店にいると言うのか。」
そこは娼館だった。
「あの人は仕事が終わった後は大抵ここにいますからね。ちょっと聞いてきます。」
私は館の方に向かって行った。
「あら、アルティさんところの御弟子さんじゃない。うふふ、貴方もお客さんとして来たのかしら。」
娼婦のお姉さんが訪ねてきた。
「違いますよ。アルティさんいますか?」
「いるけれど、どうかしたの?」
「実はあそこのパンダの獣人の方がですね、かくかくじかじか。」
「あらまぁ、アルティさんに果たし合いだなんて。あのパンダさん、お強いの?」
「さあ、とりあえず呼んで来てもらっていいですか。」
「あ、そうか。ちょっと待っててね。」
お姉さんが奥へ引っ込む。
しばらくした後に眠そうなアルティさんがお姉さんと一緒に出てきた。
「よう、やっと出歩けるまで回復したか。」
「お陰様で。」
ちなみにアルティさんは一度も見舞いには来ていない。
別に来て欲しくもないが。
「んで、私に果たし合いを挑もうとする愚か者はどこかね。」
「それは私だ。」
早乙女さんが勇んで前に出る。
場所が娼館の前だろうが関係ない。
「我が名は早乙女。武道を志し、修練の旅を続けている。そなたの事を聞いて果たし合いを挑もうと思ったが。このような店に出入りするような奴だったとはな。」
「アルティだ。お初にお目にかかる。それで、この私がスケベだと知って幻滅したかね。」
「いや、失礼した。スケベかはともかく、そなたから何かとてつもないプレッシャーを感じる。噂に違わぬ強者のようだ。して、我が挑戦、受けていただけるか?」
「いいだろう。私に挑戦しようなんて馬鹿は久しぶりだ。明日の昼あたり、南門から少し歩いたところの草原でどうだ。」
「承った。」
案外簡単に決まったな。
「では、私はもう一眠りさせてもらう。朝は苦手なのでな。」
「アルティさん、内は宿屋じゃないのよ。」
お姉さんが注意する
「いいじゃないか。その分金は払うし、用心棒代わりにもなるだろ。ほれほれ。」
「きゃ、もうどこ触ってるの。しょうがない人ねぇ。それじゃあね御弟子さん。今度は客として来てくれると嬉しいわ。」
「申し訳ありませんが、遠慮します。」
私は丁寧に断った。
なんとなくだが、私はこの店にお世話になってはいけないような気がする。
アルティさんは再びお姉さんと一緒に店の中に戻っていった。
何ラウンド目かは分からんが再びハッスルするのだろう。
なんか今日は 再び ばっかり言ってる気がする。
私はその後、マツバ姉妹の店に戻った。
早乙女さんはしばらくこの街をぶらぶらしてくるらしいので別れた。
街の案内くらいしても良かったかもしれないが、パンダ・・・というか、会ったばかりの男にガイドをする気はしない。
店に戻ったらすぐにマツバが出迎えてくれた。
「お兄ちゃん、お帰り。アルティさんに会えた?」
「会えたよ、いつもの所におったよ。あ、コーヒー頂戴。」
「いつもの所におったかー。コーヒーね、ちょっと待っててね。」
マツバがコーヒーを準備するために奥へ引っ込んだ。
「それで、果たし合いは行われる事になったのですか?」
サルビアが話しかけてきた。彼女とは店に来る度に会っているはずだが、会話するのは久しぶりな気がするのは何故だろう。
「ふたつ返事で承諾してくれたよ。」
「お兄さんから見てあのパンダさんはどうですか?」
「どうって、何が。」
「強そうかどうかですよ。」
「強さか、結構強い・・・と思う。だが、アルティさんに敵うかどうかは微妙かなぁ。」
「お兄さんと比べたらどうですか?」
「私と?私とだったら・・・頑張れば勝てる?」
「お兄さんが頑張れば勝てる程度の強さならアルティさんの方が強いですね。」
「・・・そっか。」
「お兄ちゃん、コーヒー入ったよー。」
マツバがコーヒーを持ってきた。
コーヒーを受け取り、すする。美味い。
「ってか、さっきの話しを聞いてたけど。お兄ちゃんって結構強いの?」
「いや、私なんてまだまだだよ。」
「だってさっきの早乙女さんって人に頑張れば勝てるんでしょ?なんか強そうな気がするよ、あの人。」
「軽率な発言だった気がする。忘れてくれ。コーヒー美味い。」
「ありがとう。こだわりの一品でございます。えへん。・・・話しそらした?」
「早乙女さんで思い出した、ここって笹の葉は出せるの?」
「出せるよ。」
「出せるんだ。」
「うちの店はパンダの獣人さんもちょびちょび来るからね。植物関連に死角ないよ、私。」
「この近辺に竹林なんて無かったような気がするけれど。」
「知り合いの仲買さんから買ってるのよ。交渉はお姉ちゃん任せだけどね。ほら、最近はワープ施設もあるし。」
「へー。」
「ところで、果たし合いってどこでやるの?」
「明日の昼あたり、南門から少し歩いたところの草原でだってさ。」
「明日なんだ。私も見に行ってみたいな。」
「いいわよ、見に行っても。」
サルビアが口を挟んだ。
「え、お姉ちゃん、いいの?」
「ええ。」
「でもお店、大丈夫?」
「大丈夫よ、知り合いにちょっと助っ人を頼んでみるから。たまには息抜きも必要よ。」
「はっはっは。マツバちゃん、心配すんな。文句言う野郎がいたら俺達が懲らしめてやっからよ。」
他の客たちが言った。
「サルビアちゃんにも、マツバちゃんにも世話になってるからな。そうだろ、オメーら。」
「おうとも、もしサルビアちゃんを困らせる野郎がいたら俺の魔法でぶっ飛ばしてやるよ。」
「馬鹿ですね、ここで魔法なんか撃ったらそれこそサルビアさんが困るでしょうが。」 「おっといけねえ、俺が懲らしめられちまう。」
「アルティの野郎の魔法に巻き込まれんなよ、マツバちゃん。」
「皆・・・ありがとうございます。お姉ちゃんもありがとう。皆さん、お姉ちゃんをよろしくお願いします。」
マツバが皆に敬礼しながらお礼を言う。
「お兄さん、マツバをよろしくお願いします。」
「え、うん、分かった。」
「怪我させないでくださいね。」
「分かった。」
正直言うと、私はその果たし合いにいく気は無かった、部屋でゆっくり寝てようと思っていたが、マツバが見物しに行くとなったら私も行かない訳にはいかない。
マツバの身に危険があってはいけない。
「明日はよろしくね、お兄ちゃん。」
「うん。」
こんな笑顔で頼まれたら断れない。