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06 筋肉痛みたいなもの

土産のクッキーを買った、アルティさんと合流した。

ファイナさんにお礼を言って私達は自分の国に帰った。


マツバ、サルビア姉妹の宿屋に寄り、お土産のクッキーを渡した後、私は体調不良を訴えた。

身体中なんか痛い。なんか疲労感を感じる。


「急に力を取り入れたんで体がビックリしているんだな。運動していない奴が運動して筋肉痛になるのと一緒だな。新しい力に慣れるまでしばらく家で寝てるんだな。」


アルティさんの説明によればそう言うことらしい。


「もっと強い力を取り込んだ者は身体中から血を噴き出したりしてたな。あまりの痛さに喚いたり暴れたりしていたよ。それに比べればお前のは全然優しい方だな。」


土産のクッキーを食べながらアルティさんが付け加える。

それはアンタに買った物じゃない、食うんじゃない。


家へはマツバが付き添ってくれた。

家まで連れてってくれると言う優しさはあの男には無かった。


翌日、太陽が昇る。

私は自分の家の二階の部屋で寝ている。


「よーよー、グッモーニン。聞いたぞ聞いたぞ、夜の神様から力を貰ったんだろ。」

太陽が話しかけてくる。

この世界の太陽は喋るのだ。


「しばらく辛いな、その辛さ分かるよ。俺も立派な太陽になるため、何度も力を神様から貰ったものさ。貰った力、今こそ使うとき。照らせ、光よ。」

そう太陽が叫ぶと私の二階の部屋を強く照らす。

眩しい、暑い。

私はカーテンを閉めた。

「オウ、ノウ。」

太陽には悪いが睡眠の邪魔だ。


しばらくすると、カーテンに人影が映る。

ここは二階だ、なのに人影が映ると言うことは・・・。


「こんにちは、お見舞いに伺いました。」

彼は私の知り合いであるキリンの獣人の男、キリオ。

キリンの獣人だけあって首が長い。

彼も傭兵である。


「アルティさんから聞きましたよ。夜の神様から力を授かったとか。いいですねぇ、羨ましいですねぇ。私も頂きたいですよ、この前巨大な熊さんのモンスターを相手にしたんですがね、いやあこれが強くて強くて。引っ掻いてくるだけかと思ったら回し蹴りやらサマーソルトキックやら仕掛けてきましてね、いやぁビックリしましたよ、だって熊がそんなことしてくるなんて・・・。」


長い、話が長い、首だけじゃなく話もすっごく長い。

この人はいっつも話が長い。

悪い人ではないのだが、今の私には悪いが鬱陶しい。


「おっと、スミマセン。また長々と話し込んでしまいました。お身体がお辛いのに長々とスミマセン。私はそろそろ帰ります。あ、そうだ、これお見舞いの品です。お手数ですが窓を開けていただけますか。あ、スミマセン、お手数おかけします。これ、お茶です。きっとその症状にもよく効くはずです。ああ、また話が長くなってますね。スミマセン。これで帰ります。どうかお大事に下さいね。」

そう言ってキリオは帰って行った。

なんか、どっと疲れた。


しばらく眠っていると、近くで物音がする。

目を開けてみると、見馴れた緑色の長髪の少女が籠を持ってこちらの様子を伺っていた。

籠にはサンドイッチがいくつか入っている。


「あ、起こしちゃったかな。」

ちょっと申し訳無さそうにマツバが聞いてくる。


何故彼女が鍵が掛かっているはずの我が家に入ることが出来るのかと疑問に思うものもいることだろう。

なんのことはない、こう言うときの為に彼女達には合鍵を渡しているのだ。

私が病気等になったとき、こうして食事を作って持ってきてくれるのだ。


「大丈夫、お兄ちゃん。サンドイッチ作ってきたけど、食べられるかな。」

「ああ、ありがとう。ずっと寝てたからお腹すいたな。頂くよ。」


私は体を起こし、サンドイッチを受け取った。

マツバが作るサンドイッチには野菜が盛大にはみ出すほど盛り込まれている。

花や野菜、草、木、この世のありとあらゆる植物が大好きなマツバらしいサンドイッチだ。

後は卵やらハム等が申し訳程度に入っている。


「そうだ、クッキーありがとう。美味しかったよ。」

「それは良かった、またいつか買ってきてあげるよ。」

「それはいいけど、無理しないでね。お兄ちゃんが死んだりする何てこと、嫌だよ。」

「うん、わかっているよ。無理はしないさ。」

「うん。あれ、これはお茶かな。」

「それは朝にキリオが持ってきた奴だな。お見舞いの品だってさ。」

「あ、そう言えばキリオさんお兄ちゃんの家に来てたね。あの人でかい・・・って言うか長いからすぐにわかるよね。せっかく貰ったんだし、お茶淹れてこようか。」

「ああ、じゃあお願いするよ。」

「じゃあ、台所借りるね。ちょっと待っててね。」


そう言って、マツバは下の階に降りていった。

彼女と幼なじみで良かった。

あんなにいい子でいろいろやってくれる娘なんて他にいるだろうか。

きっと彼女と結婚したりする男は幸せになるに違いない。

そんなことを思いながら私は再びベッドに寝転がった。


「お待たせー。」


マツバがお茶を二人分持って戻ってきた。

ちゃっかり自分の分も淹れてきているのね。

そう思いつつ、私は再び体を起こし、お茶を受け取った。


「ありがとう。うん、美味い。」

「どういたしまして。あ、本当、美味しいこのお茶。」

「キリオには後でお礼を言わなくちゃいけないな。」

「言わないつもりだったの。」

「そんな訳じゃないけど。」

「うふふ、冗談だよ。」


それからしばらく私達はお茶をすすり合った。

お茶をすすっている最中、私はあることに気づいた。

マツバの胸元で光るエメラルドの首飾り。

今までそんな物を着けているところなんて見たことがない。


「そんな首飾り、持ってたんだね。」

「ふっふっふ、やっと気づいてくれた。これは昨日アルティさんがくれたの。」

「えっ。アルティさんから?」

「うん、お父さんの形見なんだって。形見なんか貰っても良いのか聞いたけど、『元々父も他人から貰った物だ、私が他人に渡してもいいだろう。それに君は緑の精霊に愛されている、この首飾りには何か凄い緑の精霊が宿っている。私は緑の精霊とはあまり相性が良くないから君が持っている方がいいだろう。きっと君を守ってくれる。』って言ってくれたの。」

「私も貰ったんだよ。ほら、こっちはパールの首飾りだ。こっちは母親の形見なんだって。」

「え、お兄ちゃんも貰ってたんだ。綺麗。でも何で私達にこんな大事そうな物をくれたんだろう。」

「さあ、何でだろう。」


私達は首飾りをくれた理由を考えたが答えなんて見つかる訳ないのでとりあえず考えるのは止めた。

あのオッサンが何を考えているか何てわかるはずがない。

頭を使ったら疲れたので私は再び寝る事にした。


「今日はありがとう、今日はもう大丈夫だからもう店に戻っていいよ。サルビアも一人じゃ大変だろうし。」

「あ、うん。そうだね。じゃあ、私はそろそろ帰るね。お大事にね、お兄ちゃん。」

「うん、ありがとう。お仕事頑張ってね。」


そして私は目を閉じた。

睡魔がたちまち私を夢の中に誘う。


「・・・もう、寝ちゃったかな。」


ドアへ向かっていたはずのマツバがゆっくりこちらに向かってくる。

私はとりあえず目をつむったままでいる。


「約束だもんね、無事に帰ってきたら。これを無事と言えるか分かんないけど。」


そう言った後、私の頬に手が添えられ、唇に柔らかい感触を感じた。

時間にして大体五秒程だろうか。

唇から柔らかい感触が離れた後、駆け足で部屋から出ていくのを感じた。

あまりの衝撃の出来事に私の思考はそこで完全に停止した。

停止する直前、体が少し楽になったような気がする・・・。



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