05 夜の神様
「私の母か、私の母はごく普通の人だったよ。」
私はアルティさん達の親がどんな人だったのを聞いた。
あれだけの首飾りを持っている人がただ者であるはずがない。
しかしそんな思いは呆気なく否定されてしまった。
「確か結婚記念か何かで貰った言ってたわね。」
ファイナさんが答える。
よく物語ではこう言うとき母親がすっごい人だったりするものだが現実はそうそう予想通りにはいかないものだ。
「さて、そろそろ出かけるとするか。」
「あれ、どっか出かけるんですか。」
「ちょっと神殿に寄って行こうと思ってな。」
「何をしに行くんです。」
「お酒を飲みに。」
あれ、神殿ってそう言うことする場所だったっけ。
このマータリー国にあるマータリー神殿には夜の神様が祀られている。
夜の安全、夜のお祭り、夜の行事、夜に関いするありとあらゆる事柄に関連している神様らしい。
この神様は人当たりもよく、人々からも信頼されている。
「カボ様に失礼のないようにしてよ。」
ファイナさんが注意する。
ファイナさんはマータリー神殿の神官を勤めているのだ。
「私は闇とは相性がいい。仲もいい。平気さ。」
「アルティさんのご友人は神様だったんですね。」
「すごいだろ。」
「私も付いていっていいですか。ついでに土産も買って行きたいですし。」
「お前から付いてくると言うとはな。珍しい事もあるものだ、まあいいだろう。」
「では、準備してきます。」
「おー、アルティじゃないか。今回の騒動での暴れっぷり、相変わらず凄かったようじゃないか。」
頭部がカボチャのこの方こそ夜の神、カボである。
私の武具に宿っている精霊の関係上、私はこの神様と関わる事がなかったのでどんなお方か知らなかったが、なんだかそこら辺にいるオッサンみたいな方のようだ。
ちなみに私の武具には光の精霊が宿っている、この神様は闇を司る神様なのでちょうど真逆だ。
「なーに、あんなもの暴れたうちには入らんさ。」
「いやいや、充分暴れてくれたよ、夜に精霊やらに手伝って貰ったりして頑張って元通りにしたんだから、見ろこの手を、久しぶりにクワを使ったから手がずる向けたぞ。おかげで眠い。」
神様なのになんと言う物理的な解決法であろうか。
ファイナさんには失礼のないようにと言われていたが既に失礼はなされていたようだ、アルティさん恐るべし。
ファイナさんといい、この神様といい、頭が下がる思いでいっぱいである。
「おや、君がアルティの弟子だね、初めまして、カボチャのシチュー飲むかね。」
急に話題を振られて正直ちょっと緊張したが私は勤めて冷静に対応した。
「え、あ、はじめまちゅて。」
「シチューだってよ、いただいたらどうだ、神様自慢のシチューだぞ、ご利益あるぞ、きっと。」
アルティさんがシチューを薦める。
ご利益があると言うのならありがたく頂きましょう。
「んじゃ、ちょっとこのお皿持ってて。」
「?」
私はお皿を持たされた、空っぽのお皿だ。
意味がわからず言われた通りにお皿を持っていると。
「う、ぐ、ぐぼぼぼぼぼべばぼぼぼぼぼぼぼぼぶふっぶふぶぶぶぼほ!・・・びちゃ・・・びたっ・・・。」
・・・・・・・・。
「ほっかほかだな、ほれ、スプーンだ。熱いうちに食うがいい。」
アルティさんがスプーンを私の皿に乗っけた。
だがちょっと待ってほしい、今何があった。
私はほんの少し前の光景を止せば良いのに思い出していた。
カボ様の目、鼻、口から勢いよくドロドロの液体が吹き出てきた。
「ほれ、はよ食え。」
アルティさんによって私の顔面はシチューに叩きつけられた。
否応なく私はシチューを口に入れる事となった。
カボチャのシチューを口にした瞬間、何か得体の知れない力が私の体を満たしていく感覚を感じた。
何よりこのシチュー、美味い。
ゲ○のような物かと思っていたがとても美味い。
「君は、光に愛されているようだね、私は闇に関する神だけど、さっきのシチューは大丈夫だ、闇、光関係なく君に力を与えるであろう。」
カボ様がシチューの事について答える。
「ありがとうございます。これならば百人力でございましょう。」
正直あまりに美味しさにそんなこと考えていなかったがなるほど、それなら安心だ。
「さて、いい酒を持ってきたんだ、カボ様、一杯やらんか。」
「相変わらず無礼な物言いだな、アルティ、だが貴重な無礼だ。私は神だからな。敬われるのには少々飽きた。無論、悪い気はせんがな。」
アルティさんが酒を飲む相手は神様であった。
そして、二人はアルティさんが持ってきたお酒を飲み交わす。
「さて、私達は酒を飲んでいるから、お前は土産でも買って来るがいい。」
「近くにいいお菓子を売っている店がある。そこで土産を買うといい。」
カボチャだけあってやはりお菓子が好きらしい。
アルティさんとカボ様に言われ、私は土産を買うために神殿を後にしようとする。
「あの、お顔を。」
神官の人がタオルを差し出した、そう言えば私の顔は今ゲ○まみれであった事を忘れていた。
私は顔を拭き、お礼を言って土産を買いに神殿を後にした。