32 メロンを取り返せ
ちっこいナリの割りに、大きいメロンを抱えている割りによく走る。
ドレスを着た二足歩行のネズミは我々からわざわざマツバが私達の労を労う為に買ってくれた、後で確認したら私のお金で買ってくれた大きな大きなメロンを私達の目の前で堂々と掻っ払ってくれたのだ。
「え、お金はアルティさんがくれたんだよ。これで何か買ってやれって。」
後に彼女はこう証言する。
畜生、一人にした腹いせか?
意外とめんどくさいところがあるからな、あのオッサンは。
「しちゅこいの、あっちいくの。」
ネズミは追ってくるレムに言う。
ネズミは魔力を込めて手を振った、振った手から刃のような風が襲いかかってくる。
カマイタチを思い出す。
「うおっ。」
風はレムの頬をかすった。
「チュッ、チュッ、チュッ!」
掛け声を掛けると共に次々と風の魔法を放ってくる。
風の刃が次々にレムに襲いかかる。
「くそ、こんな、もんでぇ、やられるかよぉ。」
追いかけつつそれらを避けるレム、たいしたものだ。
「くそ、ならばこっちも。」
「止すんだ、レム。」
私はレムに言った。
「炎を使えばメロンも燃えるかもしれないぞ。」
「じゃあどうするんだ。」
「私なら追い付ける。」
私は魔力によって加速した。
ぐんぐん距離が縮まって行く。
「こっちくんななの!あっちいくの!」
「メロンを返せ。」
「やなの。」
ネズミは指笛を吹いた。
何処からともなくネズミ達が集まってくる。
「パスなの!」
ドレスを着たネズミは仲間のネズミ達にメロンをパスした。
仲間のネズミはメロンを上手くキャッチして走り出す。
二足歩行で。
「あ、てめえ、コノヤロウ。」
レムが吠える。
ネズミは我々の行く手を阻むように立ちふさがる。
「チューが相手してやるの。かかってくるの。」
相手は風魔法の使い手、見た目のわりに手強そうである。
メロンを取り返す為に戦うような相手では決してないであろう。
その時、とても大きな音がした。
何かが爆発するような音。
城の後ろの山が噴火している。
「な、なに?」
追い付いてきたマツバが聞いてくる。
意外に体力があるのでそれほど疲れてはいないようだ。
あの山には確かアルティさんが向かっていたはず。
アルティさんの身に何かがあった。
いや、それはない。
「ヂュッ。」
何か濁った声が聞こえた。
私達が山には注目している間にリーナさんがネズミを捕まえていた。
「ほら、捕まえた。いただきます。」
リーナさんはネズミに噛み付き、血を吸った。
「チュゥゥゥゥっ、ちゅわれるのぉぉぉぉ。」
「ふう、ごちそうさま。」
ネズミはバタンと倒れこんだ。
後はメロンの行方をじっくりと、いや、食われるかもしれないのでさっさと聞こう。




