30 山の上の亀
「私みたいに強くなりたいとな。ふむ、そうだな。これでいいや。この依頼をこなしてくれば教えてやらん事も無い。」
そう言ってアルティさんは適当な依頼が書かれた紙を取り、レムに手渡した。
「何々、へっ、こんくらい楽勝よ、早速受領して来るぜ。」
レムは早々に係員の元に向かった。
「さて、私を満足させるような依頼は無いかなっと。」
アルティさんは依頼を見比べる。
「貴方が満足出来る依頼が来ること自体が大災害ですよ。」
「あら、それは面白そうね。」
私の言葉にリーナさんが微笑む。
その後、私とマツバとリーナさんはレムに同行し、アルティさんは別の依頼を受領し、一人でマンロック山へ向かった。
別れ際、私達に対して何か寂しそうな目線を向けていたような気がするがきっと気のせいだ。
マンロック山は現在雪が降っている。
ある魔物が居座って以来山は雪に覆われ、徐々に範囲を広めているらしい。
お城の騎士が当初対処に当たっていたが、敵は強大であり、多くの騎士たちが逃げ帰って来る結果となってしまった。
「城の騎士様もう少し頑張れよ。」
「いや、面目無いです。」
アルティさんは依頼主であるオーガ族の男性騎士に魔物が居るところまで道案内して貰っていた。
「毎日鍛練はしているんですがね、ギルドの方々のお手伝いもしていますし、ですがやっぱり貴方程の手練れにはなかなかなれないのですわ。」
「私は特別だからな。」
「良いですねぇ、それだけ強ければお金もたんまりでしょう。私も世界を旅して回ってみたいです。一人のんびりと。」
正直アルティさんには興味の無い話しなのでほとんど彼の話しを聞いていなかった。
「あれです、あれがこの山を雪で埋めようとしている魔物です。」
案内された場所にいた魔物、それは二対の剣を持った巨大な亀であった。
亀は立ったままアホみたいに大きく口を開けながら寝ていた。
「寝ているな。」
「まあ、亀は冬になったら冬眠しますし。」
「自分で冷やして冬眠するハメになってるのか。アホめ。」
アルティさんが亀に近づく。
「あ、でも気をつけてください。近づいたら起きて剣を・・・。」
ブンっと勢いのいい音と共にアルティさんに向かって剣が振られる。
アルティさんは鎌で防ぐ。
「ふーむ、それで終わりかね。」
「後、氷のブレスを吐いてきます。」
亀が氷のブレスを吐いてきた。
アルティさんはたちまち氷づけになった。
「アルティ殿!」
しかしたちまち氷にはヒビが入り、砕け散る。
何事もなかったかのようにアルティさんが出てきた。
「アル・・ティ・・?」
亀が喋った。
どういうわけかアルティさんの名前に反応したようである。
「オマエガ・・・アルティ・・カ?」
「私の名前を知っているとは、何故私の名前を知っている。」
「メイレイ・・・サレタ。リョウド・・・ヒロゲルノニ・・・オマエガ・・・ジャマダト。」
「誰に命令された。」
「ソレハ・・・イエナイ。ココハ・・・サムイ・・・スグニ・・・ネムクナル。サッサト・・・オマエヲ・・・コロシテ・・・ネル。」
「寒くしてるのはお前だろ。」
「・・・ソウダッタ。」
「しかしそうだな。確かに寒い。私もさっさと仕事を終わらせて女抱いて寝ることにしよう。」
アルティさんは今宵の夜に思いを馳せながら臨戦態勢に入った。




