03 努力は報われるかも
城壁を越え、少し歩いた場所にワープ施設がある建物がある。
今回の車輪騒動鎮圧に参加する国の兵士や我々傭兵たちが集まっていた。
「おい、アルティだ。」
「あいつも今回の件に参加するのか。」
「あいつには近づくなよ、巻き添えをくらうぞ。」
アルティさんを見た方々の話し声がそこかしこにに聴こえてくる。
当然アルティさんにも聴こえているはずだ。
「ここにいる皆とまた何人会えるかな。」
アルティさんが呟く、その呟きがとても不吉なものに聴こえたのは何故であろうか。
アルティさんの言う皆の中に私がどうか含まれていませんように。
施設の魔導師達によって我々は隣国の近くのワープ施設に転送される。
そこから後は隣国の兵士に従い、現場へ向かった。
現場では多くの車輪の魔物が城の方へ向かっており、兵士や傭兵たちがそれを食い止めていた。
我々もすぐに戦闘に参加する。
参加するやいなや、アルティさんが右腕から炎の魔法をぶっぱなした。
危ない、凄く危ない、危うく消し炭になるところだった、私が。
「アルティさん、危ないじゃあないですか。」
「おや、失敬失敬。」
「貴方の魔法は強力すぎるんです。もう少し周りに配慮してくださいよ。」
「あれでも手加減しているんだがなぁ。ところでさ。」
「なんですか。」
「燃えて苦しむ姿を見るのってさ、何かいいと思わんか。」
「皆この人から離れろー。」
私がそう叫ぶのと同時にアルティさんは炎の魔法を上空に飛ばした。
上空に飛ばした炎の球から炎の矢みたいなのが無数に発射され、戦場に降り注ぐ。
敵味方関係無しに降り注ぐ炎の雨、兵士や傭兵達は逃げ惑い、魔物達は次々と倒れていく。
我々がアルティさんから離れた事で彼は自分のテリトリーを確保した。
炎の雨が降り注ぐ範囲を彼が受け持つ。
かなりの範囲を彼が受け持ってくれたことで結果的にこちらの防衛がだいぶ楽になったと言えよう。
だが事前に言ってくれれば我々も無駄な火傷を負うことはなかった。
いや、わざと言わなかったのは言うまでもないか。
オッサンは炎の雨でも倒れない魔物に大鎌を構えながら向かっていく。
車輪は転がって轢こうとしたり飛び跳ねて押し潰そうとしたり、舌を伸ばして叩き付けたり拘束しようとしたり、口から毒霧を吐き出してくる。
オッサンはそれらをうまく避けて大鎌を叩き込んでいる。
熱くないのか、あの雨の中で。
私も見とれている訳にはいかない、きちんと仕事をしなければ。
ゴロゴロと転がってくる車輪どもよ、私が相手だ。
轢こうとしたところを横に避けづつ剣で斬りつける。
しかし口で受け止められてしまった、そんなの有りか。
いかん、もう一匹こっちに来た。
もう一匹が私を轢き殺そうとしてくる、マズイ。
そう思うのと同時にもう一匹の魔物が爆音をあげつつ別の方向へ吹き飛んだ。
これはアルティさんの魔法か、あれだけ多くの魔物を相手に私の事も気にかけていたのか。
私は魔物から剣を引き抜き、今度は眼球に突き刺した。
改めてアルティさんの方を見ると魔法を使っているのが見えた、その魔法が敵を葬るだけじゃ飽きたらず、他の兵士や傭兵がいる方に向かって行く。運が悪い人は直撃をくらってたりしている。
私は運が良かっただけか。
その後、なんとか魔物達を鎮圧することができたが鎮圧に大きく貢献しつつも戦場を阿鼻叫喚に陥れたアルティさんは多くの兵士、傭兵達に詰め寄られていた。
関わりたくない私は遠くからそれを眺めていた。
「あんたも大変だなぁ、あんな師匠に付き合わされて。」
親切な傭兵さんが私の事を気遣ってくれた。
「だが、あの人がいたからこそ早く鎮圧できたのも事実なんだよなぁ。」
「悔しいですが、そうですね。」
「あれでいい人ならば尊敬できるんだがなぁ、まぁ悔しかったら精進するしかないって事なんだろうけどな。」
精進、私があの人に追い付けるだろうか。
「ま、君も頑張れ。」
そう言って親切な傭兵さんは去っていった。
「精進か。」
今回、アルティさんの魔法が飛んでこなければ私は今頃どうなっていただろうか。
考えただけでゾッとする。
悔しい事だが、例え相手が理不尽な人だとしても強い者には逆らえない、相手と同等かそれ以上に成り上がるしかない。
事実、アルティさんを取り囲んでた人たちは魔力を開放しただけで吹き飛ばされ、逃走を許している。
って私を置いてどこへ行くんだあんたは。
「あそこに弟子がいるぞ。」
アルティさんを取り囲んでた者の1人が私を見て叫んだ。
私もあんた達と同じ被害者だ、だがそんなことを聞いてくれそうな雰囲気ではない。
私は約束したのだ、必ず無事に帰ると、車輪ではなく共に戦った者達によってボコボコにされるなんて馬鹿な事あってたまるか。
私は必ず強くなる事を誓いながら死に物狂いで逃げ出した。