01 おっきな卵
まったりゆったり書いていこー。
朝だ、いい天気だ。
こんなにぽっかりとした日には家で可愛い女の子が作ってくれた手料理やコーヒーが欲しいところだ。
しかしここは険しい険しい山だ。
しかも私の隣で寝ているのは可愛い女の子ではなくヒゲを生やしたオッサンだ。
ため息が出そうだったが早朝から憂鬱な気分になりそうだったので我慢した。
「アルティさん、朝です、起きてください。」
私は隣で寝ているオッサン・・もとい魔法使いを起こした。
「うーん、朝か、眩しい、忌々しい眩しさだな太陽め。」
「起きて早々悪態つきまくりですね。」
「ああ、おはよう・・・さて、早速仕事に取りかかるか。」
そう言って起き上がったアルティさんは隣に置いてある大きな卵を見つめる。
そして大きな鎌を担いで言った。
「では、下山の続きを始めようか。」
私が何故こんなオッサンと一緒にこのようなでかい卵と共に下山するハメになったのやら。
その経緯については割愛する。
「よし、それじゃあそっち持ってくれ。持ったな。よし、せーの。」
私達は大きな卵を持ち上げて再び下山を始めた。
「しかし、ここまででかいとは思わなかったなてっきり人1人で持って行ける程度の大きさだと思ったら我々の身長程の大きさだったとは。お前を連れて来といてよかった。」
「ありがた迷惑です。」
「まあ、そう腐るな。」
「本来私なんかが到底太刀打ちできないドラゴンの卵を運ばせるのを手伝わせるなんて、私に何かあったらどうするつもりですか。」
「卵が運べなくなって困るな。」
「私の命なんてどーでもいい。あなたはそういう方だ。」
「腐るなって、冗談だよ。」
「はいはい。」
「ドラゴン、来てないか。」
「ええ、今のところは・・・。」
その時甲高い雄叫びが響いた。
ドラゴンの雄叫びだ。
危うく卵を落としてしまいそうだ。
いや、いっそこんな卵投げ捨てて逃げ帰りたい。
「アルティさん、あの声。」
「ああ、奴め、卵が無くなった事に気づいたな。」
何故か嬉しそうな顔をしやがる。このオッサンめ。
「びびって落とすなよ、ここからが本番なんだからな。」
帰りたい・・・。
「どうして、私なの。」
「他に頼める奴がいなかったからな。」
「友達いないんですか。」
「違うわい。私程の実力者が早々おらんだけだ。」
「私だって全然実力が備わってないですよ。」
「大丈夫だ、私と一緒ならば死ぬことはない。」
「じゃあ私じゃなくてもよかったのでは。」
「他に頼めそうなのがいなかったんだもん。」
「友達いねーんじゃねーか。」
「違うわい。そんな事より、お喋りしている間に奴が来たようだ。」
卵を奪われ、怒り狂ったドラゴンがこちらへ向かってくる。
「き、来ましたよ。なんとかしてください。」
「任せろ。」
アルティさんの左腕に魔力が集まる。
集まった魔力は冷気となって輝きだした。
「凍って這いつくばってろ。」
左腕から冷気の魔法が放出される。
魔法がドラゴンの翼に当たると一瞬にして翼どころかドラゴンの半身が凍る。
ドラゴンは体の自由を失い、落下を開始した。
さすがはアルティさんの魔法、凄まじい威力だ。
ドラゴンよ、今回は相手が悪かったな。
そのまま落下して、しばらく気絶でもしてほしい。
でもお願いです、こっちに向かって落ちて来ないでください、こっち来んな。
往生際の悪い、ドラゴンはこちらに向かって落下してきているのだ。
このままでは卵はおろか、私まで中身をぶちまけるハメになる、それは何としても避けなくてはならない。
「アルティさん、ドラゴンがこっちに落っこちてきます、なんとかしてください。」
「まったく往生際の悪い。」
アルティさんは今度は右腕に魔力を集中させる。
右腕に集められた魔力は左腕とは対称的に激しく燃え上がる。
炎の魔法が右腕から放たれ、ドラゴンに命中したと同時に大爆発を起こす。
爆発の衝撃でドラゴンの落下軌道は逸れる。
なんとかオムレツにならなくて済んだようだ。
一安心一安心。
と思った矢先に無事着地したドラゴンから怒りの咆哮が響く。
こちらに向かって走ってきた。
「お前、しばらく1人で持ってろ。」
とアルティさんが言ったかと思えば急に卵の全体重が私にのし掛かる。
アルティさんは卵を離し、大鎌を構え、ドラゴンに立ち向かう。
ドラゴンがアルティさんを鋭い爪で引き裂こうとすればアルティさんはバックステップでそれを避ける。
噛みつこうとすればかわした後に鎌で切りつける。
炎を吐いて焼きつくそうとすれば鎌を一振りするだけで炎は真っ二つに割れる。
アルティさんの顔はとても楽しそうである。
あの人にとってドラゴンを相手にするのは遊びなのだ。
そんな攻防を私はクソ重い卵を抱えながら見ていた、置けばいいのにと思われるかもしれないがあまりの重さに乱暴に置いて割ったりしないだろうか。
この激しい山道、卵が誤って転げ落ちたりしないだろうか。
い そんな事を考えてたかどうかは卵の重さに必死だったため覚えていないが今にも私はこのクソ卵に屈しる寸前だったため、アルティさんにそろそろ決着を付けてほしいとお願いした。
「ふ、しょうがない。」
アルティさんは大鎌に魔力を集中させる。
魔力は闇のエネルギーの球体となった。
アルティさんはその闇の球体を大鎌と共にドラゴンに叩きつけた。
魔法と共に地面に沈むドラゴン、凄まじい光景である。
アルティさんが戻って卵を持つ。
「これでしばらくは起きないだろう。」
なんと、あれだけの魔法を食らってもまだあのドラゴンは生きているというのか。
アルティさんの強さも相当なものだがあのドラゴンの生命力も大したものだ。
「奴にはこれからも卵を生んでもらわんとな。」
今の言葉に多少、ドラゴンに同情しつつも、その後私達は無事に卵を以来主の元まで送りつけたのだった。
「それは大変だったね。」
後日、私は自分の家の近所にある宿屋で食事をとっていた。
この宿屋は私の幼なじみの姉妹が経営しており、ちょっとした食事所にもなっている。
私はここで食事をしながらこの前の卵の件を姉妹に愚痴っていた。
「お兄ちゃんに怪我が無くてよかったよ。」
宿屋の妹、マツバ、彼女は花とかが好きでこの宿屋にもいくつか花が飾られてある。
この宿屋をいい意味で鮮やかにしていると私は思っている。
人懐っこい性格でお客さんにも評判がいい。
「そういう依頼って断れないんですか。」
宿屋の姉、サルビア、妹と二人でこの宿屋を経営、亡くなった両親の宿を引き継ぎ、両親がいた頃とそれほど変わらず程々に客も来ている。
料理も上手い、部屋も綺麗、ただちょっと無愛想な子だ。
隠れファンもいるとかいないとか。
「あのオッサンに何言っても無駄だと思う、まったく、こっちの身にもなってほしいよ。」
「何か意味があるんじゃないかな、きっと何かの修行なんだよ。」
マツバが前向きな解釈を試みる。
「友達いないだけだよ、きっと。」
「そんな事言っちゃ駄目だよ、強い人には、強い人なりの孤独があるんだよ、きっと。」
「強い人なりの孤独ねぇ。」
「だからお兄ちゃんもアルティさんの孤独を和らげるくらいに強くならなくちゃ。」
「いや、あのオッサンのために強くなるのは嫌だよ、私はあのオッサンから自由になりたいの。」
「どっちにしろ頑張らなくちゃね、私応援するから。」
「うん、ありがとう、頑張るよ。」
「オッサンなんかやっつけろー。」
「おー。」
「お兄さん、そのオッサンがあなた達の後ろにいるわよ。」
サルビアに言われ、後ろを振り向けば笑顔で突っ立っているオッサンがいた。
私とマツバは強烈な拳骨をくらった。
「私に勝とうなど百年早い。」
私の自由はまだまだ全然遠いところにあるようだ。