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零の魔女  作者: 音哉
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第5話 「どちらの体?」

 異能力者は、生まれつき特異な能力を自由自在に使える訳じゃない。素質を投薬によって引き出し、その力の強弱は何かのきっかけで強まっていく。


 真衣の発現した能力って言うのは一体なんなんだ? 炎と氷? それに、真衣の人格が変化したことも気になるし、真衣のような口調の竜の存在も気になる。



しかし、悪い奴らだったとは言え、死んでしまったのは少し可愛そうだったな。でも、これを機会にやり直して欲しい。もちろん新たなクローンでな。


東京特区のルールはこうだ。もし俺があいつらに殺されていたら、来年の春に俺と同じ特性の新しいクローンが高校一年生をやり直す。俺が死んでないと言う証のために、毎週水曜日の投薬は休んではならないのだ。


しかし、もし先ほどの二人組のように学校から逃げてしまったら? それは一旦死亡扱いになるが、町中にある防犯カメラの映像等によりすぐに見つかる。それで生きていると分かり、新しい個体の製造は取りやめになる。


早い話が、さっき死んだ二人組はこれからすぐにクローンの製造が始まり、来春スタート地点の高校一年生からやり直す事になる。




「いい加減離せ!」 

 

真衣が暴れたので俺は体を自由にしてやる。いつの間にか居住エリアまで来ていたようだ。もう少し西に行けば俺の家がある。


「わしの体に触れおって、不快な奴だ。死んでみるか?」


 真衣は俺に向かって手のひらを向けた。冗談だろ? しかし、真衣はそんな冗談を言う奴だったか? それにしても合成獣(キメラ)である竜は意外に大人しく、腕の中で俺を不安気に見上げている。


 人より強い超能力壁(サイコスキン)を持つ俺だが、さすがに先ほどの火柱がきたら耐えられないだろう。


 だが、真衣の手のひらからは何も現れない。俺と目を合わせながら、時が止まってしまったかのようだった。


―ぐぅ~―


 その時、腹が鳴るような音がした。俺では無いと思うが……真衣か? 真衣の奴は腕を下げ、自分のおなかに手を当てている。腕時計を見ると、時間は午後七時になっていた。


「お前を今消した所で大した意味もない。それよりも、食事調達係にした方が役に立つな。肉を持ってこい」


 真衣は王様のキャラクターでも演じているのか、俺に命令するとアスファルトの上に胡坐をかいた。


「おい……こんな所で女子がそんな座り方をしたら、パンツ汚れるぞ。飯ならコンビニに買いに行こうぜ」


「こんびに?」


 俺は、何の冗談なのか聞き返してきた真衣の腕を取って立ち上がらせる。この辺りは俺の自宅から比較的近いので、コンビニの方向は大体分かる。俺の頭の地図通り、角を曲がると一分ほどで青いネオンのコンビニが現れた。


 中に入ると俺達は弁当コーナーへ行く。俺がトンカツ弁当を手に取ると、真衣は店内を落ち着かなく見回しながら、俺と同じトンカツ弁当を取った。


「わしの物になる世界だとは言え、変わった世界だのぅ」


 まだ訳の分からない事を言っている真衣の手から弁当を取り上げると、俺は二つの弁当をレジの前に置いた。元から宿題を手伝ってくれた礼で飯を奢るつもりだったので、何も言わず払ってやる。


「で、真衣の家はここからどう行くんだ? 玄関まで送るぞ」


「家? 何を言っているんだ、食事係よ」


 コンビニを出た後も、相変わらず変なキャラを演じているようだ。それとも……恐怖か何かのショックで精神に異常が現れたのか? なら……病院へ行くことも視野に入れなければいけない。


とにかく、命にかかわるような物では無さそうなので、腹を満たしてから考えようと俺の家に行く事にした。そうそう、病院が頭に浮かんだその時に気が付いたのだが、俺の腹の傷はなぜかその時には綺麗さっぱり消えていた。



 俺の異能力の成績はCだ。真衣は恐らく最低のDで、それよりはマシだが俺の生活レベルは低い。恐らく前世紀に作られたのだと思われる安アパートの一階が俺の部屋だ。


ちなみにワンランク上がるごとに引っ越しをする権利が与えられる。Bはマンション、Aは豪華マンションで4LDKらしい。俺のアパートに付けられた名前、『昭和荘』ってどういう意味だろうな。古臭いって意味をびんびんに感じてしまう。


「狭いけど入れよ」


 1K。六畳の部屋に台所。家具は冷蔵庫にベッドなど備え付けの物だけだ。無理して金をためて何かを買ったとしても、死んだら意味が無くなるしな。それ程この街では人が良く死ぬ。……まあ、俺を初め、この街の住人は人間だとは認められてないけど。



「うまいっ! 食事係、お前はしばらく生かしておいてやろうっ!」


「……そりゃどうも」


箸で俺を差した後、真衣はがっつくように弁当を食べる。こりゃやばいかもしんねーな……。


連れてきた竜も何やら物欲しそうな顔をしていた。ザリガニでもあれば良いが、俺はあいにくペットを飼ってはいない。仕方が無いので弁当の中にあった昆布巻きを、弁当の蓋に乗せて竜の前に置いてみる。


「あの、私は昆布巻き苦手なんですけど……」


「そ……そう?」


 竜は、やけに流暢な日本語で俺に不服を申し立ててきた。俺は誰に向かってと言う訳では無いが、首を傾げながらトンカツを三切れ程置いてあげる。


「あの、私も箸が欲しいんですけど……」


「そ……そう?」


 俺はまた首を傾げながら台所まで行って、割り箸を取ってきた。


「あの、……箸が持てません」


 竜はその小さな手では箸を掴むことが出来なかったようで、羽をパタパタと動かして俺に涙ながらに訴えてきた。


「それじゃ、どうぞ」


 俺は自分の箸でトンカツをはさみあげると、竜の顔の前に持って行ってあげる。それを一口食べた竜は、尻尾でぺしぺしと床を叩いて喜んでいるようだ。……中々可愛い奴じゃないか。ちょっと飼いたくなってきたかも。飼って良いのかな? こいつ野良(のら)だよな? なら良いのか??




 弁当を食い終わった真衣は、窓の傍まで行くと外の景色を眺めている。「そろそろ家に帰ろうかな」と、言い出すのかと思ったら……


「腹も満たされたし、そろそろ征服に行くかな。とりあえず世界の半分でも燃やしてみせれば私に従うだろう」


 俺はそれを聞き、そろそろ病院に連れて行くかなって思った。


 ところが真衣は、背を向けたまま大きなあくびを一つした。


「ふぁーあ。やはり眠い。今日は次元竜とも戦ったしな。明日にするか」


 真衣はそんな事を言い出すと、おもむろにスカートを両手で持ち、下にずり下げた。


「なっ!」


 口を開けっ放しにして驚いた俺の前で、後ろ向きの真衣はブレザーとブラウスも脱ぎ捨てる。


「面倒くさい服だな」


 そう言いながら、真衣は俺の方を向いた。


 口が塞がらない俺の横を竜が一生懸命飛んで行き、真衣の前に来ると小さな体で必死に俺から真衣の体を隠そうとしている。


「なんだ? この乳にしている変な物は。邪魔だな」


 次に真衣はブラジャーを外そうとした。


「だぁめぇ!」


 竜は大声を上げると、真衣の体をその小さな両手で抑え込もうとした。


―ポンッ―


 真衣の背中から……真衣が抜け出た気がした。それが見えたのは一瞬で、幻覚かと思えるほど短い時間だ。次の瞬間には、元通り真衣の胸にしがみ付いている竜しか見えない。   


 ……真衣から真衣が抜け出したような現象に見えたが?


「なっ! なんだとぉ!」


 驚いた声を上げたのは竜だった。奴は自分の体や手を何度も確かめるように見ている。そして顔を上げると、尻尾を振り乱して怒った様子で真衣に向かって声を荒げた。


「キサマ! どうやって体をまた乗っ取った!?」


「あっ! 戻ってる! ……きゃぁっ!」


 真衣は脱いだ制服を慌ててもう一度身に付け始めた。その時俺は気が付く。先ほどまで銀髪だった真衣の髪の毛が……黒色に戻っている。二人の言動の反転から見た目まで、何もかも分からない。俺は、ごく自然に混乱した。


「替われっ! 替われっ!」


 そう言いながら竜は、羽を使って真衣に往復ビンタをしている。


「もうっ! 痛ぁい!」


 そこに反撃とばかりに真衣のビンタを一発食らうと、竜はぴゅーと飛んで俺の部屋の壁に当たり、ぽとりと(はえ)のように床に落ちた。すぐに顔を上げ、涙目で真衣に向かって口を尖らす。


「い…痛いじゃろっ! キサマっ! わしにこんな事をするとは何様じゃっ!」


「キサマじゃないよっ! 真衣でーす! 様つけたければつけてもいいですよーだ」


「付けるかバカたれっ! どうしてこの魔界の王たるマイディアがそんな事を言わなきゃならんっ!」


「わー。自分から名乗ったぁ。小物っぽいですねーだ!」


「にゃにゃにゃにゃにゃ…にゃにおうっ!」


 顔から湯気を出して怒っている竜は、床から飛び上がって一直線に真衣に向かって羽ばたく。狭い部屋でも結構なスピードになった。


「お前らいい加減に……」


 俺は止めようと思ったが、手を伸ばした時はもう横を通り過ぎて竜には届かなかった。


[ゴゴンッ]


「にゃぁぁぁ!」

「にゃぁぁぁ!」


「おお……、クロスカウンター……」


 左回りに回転して尻尾を振った竜と、右腕を伸ばした真衣の腕が交錯した。竜は後頭部を、真衣は頬を押さえて同じような叫び声をあげて痛みを堪えている。


「真衣……無事か?」


 近寄った俺は、真衣の髪を手でよけて頬を見てみたが殆ど異常は無かった。


「どうしてだ? あの勢いで殴られれば、超能力壁(サイコスキン)の無い真衣なら怪我をしても不思議は…いや、確実に怪我をしたはずだが……」


 頬は赤くなっているだけで、切り傷や引っかき傷も無く、みみず腫れの気配も見えない。


魔法障壁(マジックスキン)じゃ」


 目をぐるぐるの渦巻きにしている竜は、床の上を千鳥足で俺達に向かって歩いてくる。


「マジック……スキン? って言ったか? ……えっと、マイディア」


「そうじゃ。わしの体を乗っ取ったこいつは、一丁前に魔法障壁(マジックスキン)を張っておる。まあ、わしがその体を使えば、殆どの力が封印されているとは言えもっと強い魔法障壁(マジックスキン)を張ることができるがな……」


 マイディアと名乗った竜は……そこでぱたんとうつ伏せに倒れた。



 十分後――


 俺たちは目を覚ましたマイディアの話を聞く事にした。俺は真衣の変化が気になったし、真衣は別に思うところがあるようだった。




「だから、真衣の体はお前の体じゃないだろ?」


「私の体だと言っておるじゃろうがっ!」


 どうもまずここが良く理解できない。真衣の体をマイディアはなぜ自分の物だと主張するのかだ。


「陽樹君、ちょっと待ってください。そう言えば私、昨日死んでいるかもしれないのです」


「……はぁ?」


 真衣の言葉に俺は大きく首をかしげる。昨日死んだのに、どうして今日存在するんだ? さすがに今の時代でも、一日でクローンを作ることは出来ないはずだ。


「私は昨日、さっき遭った二人組の一人が飛ばした鉄パイプを胸に受けたのです。背中から刺さって、胸から突き出ていました。絶対死んだと思った。でも、気が付いた時には見たことも無い世界にいて、そこで銀髪の私と大きな竜が戦っているのを見たのです」


「そっ…それがわしじゃっ! そんな辛気臭(しんきくさ)い黒色の髪では無く、美しい銀色の髪なんじゃ!」


 竜の姿のマイディアは、床の上でぴょんぴょんと跳ねて俺に訴えてくる。


「そこで、誰かが体を乗っ取れって言うから……銀髪の私に近づいたら、……それが私になっていたのです。その後に黒い扉を抜けたら、私が死んだと思った路地裏に立っていました。私が倒れていた場所には血のしみが広がっていた……。時間はいつの間にか朝になっていました」


 真衣が話し終わると、間髪いれずにマイディアがしゃべりだす。


「体を乗っ取られ、私はさらに次元竜の体に魔力ごと精神を封印されたのじゃ! しかし、六千年もの長き時を生きている魔女の私がその程度でやられる訳が無いっ! 死んだ次元竜の体を奪って自分の物にして追ってきたのじゃ!」


 俺はなんとなく話が見えてきた。死んで魂となった真衣が、マイディアの体を奪って生き返ったのかもしれない。弾き出されたマイディアの魂は、この小さな竜の中に入って体を返せと言っている。


 しかし、大きな疑問が残っている。どうして真衣とマイディアがそっくりなのかだ。


 ……待てよ。


「マイディア、お前は魔界で六千年生きている魔女だと言ったが、どうしてさっき弁当を食べていた時に『箸』を使うことが出来たんだ?」


「箸? もちろん使うわい」


 さも当然とばかりにマイディアは答えを返した。箸なんてアジアの一部の地域だけと、世界でも使える方が少数だ。それがなぜ魔界に住んでいる住人が使う? 


もしかして、マイディアは……地球人、それも日本人なのではないのか? 魔界からこちらに来たと言うなら、逆もまたありえる。マイディアは、六千年前にこちらから魔界に飛ばされた人間? それだけ長い期間あっちで過ごしていたなら、記憶など薄れて無くなってしまっても当然だ。


 いや……待てよ。六千歳だからと言って六千年前に飛ばされたとは限らない。マイディアの見た目はどうだ? 現代人と全く同じじゃないか。次元間を移動する際の時間のずれを考えるべきだ。


アニメでもあったよな。タイムマシンで出かけた先の時代で何年過ごしたとしても、家を出た時間に戻ってこれば……ほんの一瞬だ。つまり……


「マイディアは……クローンだ。今より過去か未来か分からないけど、真衣の別個体は、神隠しのように魔界に飛ばされたのかもしれない。それが例え過去であったとしても、死亡扱いになって次の春には新しいクローンが製造される」


「なるほどぉ。日本の外に出ちゃえば、死んだと思って新しいクローンが作られちゃいますね。私が二人になってしまいます!」


 パンと手を叩いた真衣の横で、マイディアはその長い竜の首を傾げる。


「くろーんってなんじゃ?」


 俺は壁に掛けてある時計を見た。時間は午後九時。今晩は、まだまだ眠ることが出来無さそうだ……。とりあえず俺達は、順番に風呂に入ってから続きを話す事にした。





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