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零の魔女  作者: 音哉
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第4話 「体を返せと言う白銀の竜」

「ぐわぁ!」


 真衣の方から男の叫び声があがり、俺の前にいた細い男が振り返った。真衣は突っ立ったままだが、でかい方の男が顔を押さえながら地面を転がっている。そこから急上昇をするかのように、鳥くらいの大きさの黒い影が飛び去った。


「どっちだ! 女か? それともお前か? 何の能力だっ! 次、何かやるとこっちの男を殺すぞ!」


 細い男は、更に手を高くあげると俺に向かって言った。しかし、今の能力の正体が分からないので自分も動けないのだろう。でかい男はそれほど大きな傷は負って無いようなので、様子を見ると同時に回復を待っている風でもある。


「助けたいのじゃろ? なら、わしに力をよこせ。こんな生き物共など、瞬時に消し去ってくれるわ」


 この場で第五の声が聞こえた。襲ってきた男達の声でも無いし、もちろん俺の声でも無い。……どっちかと言うと女の声に聞こえたが、真衣の声とも違う。


「やめてっ!」


 今度は真衣の悲鳴だ。


「お前の恋人が殺されるんじゃぞ。良いのか?」


「近づかないでっ!」


 振り払うように手を動かしている真衣の頭の上で、何かが飛んでいる。オウム程の大きさだが、体は暗い河原でもキラキラと輝いている。銀色? 鳥なのかあれは?


 目を凝らして見ると、それは首が細く、長い。頭も小さい。蜥蜴(とかげ)……をとげとげしくした生き物。体は鳥のようであるが、小さな手もある。開かれた羽は……コウモリそっくりだ。これは……竜。小さなドラゴンだ。


合成獣(キメラ)だっ!」


 細い方の男も気が付いていたようで、叫んだ後、二・三歩後ずさった。


 合成獣(キメラ)とは人間が異能力を研究する過程において、動物実験中に合成して作りだした自然界では存在しえない生物。例えば電気うなぎの数百倍の電気を発生させることが出来るような…


―ドッ―


「がはっ!」


 一方を先に潰しておこうと思ったのか、細い男が鉄パイプを俺に向かって飛ばしてきた。超能力壁(サイコスキン)を貫かれたようで、数センチ体内に差し込まれた。俺は鉄パイプを抜こうと両手で握ったが、すごい力で押し込まれてくる。


 細い男は俺に手を向けながら、真衣に向かって強い口調で言う。


精神()感応()能力者(パス)か? それで合成獣(キメラ)を操っているのか? やめろっ! 彼氏を殺すぞ!」


 だから、人や動物を操れるような精神()感応()能力者(パス)なんて、能力開発教育が始まってまだ一か月の高校一年生にいる訳が無いだろう、そう俺は細い男に言いたかったが、口を開く余裕が無いくらい自分はやばい状況だ。


「どうする? わしは多少なら治癒の力もあるのじゃが、これ以上彼氏の怪我が酷くなれば、助けられないかもしれぬなぁ……」


相変わらず良く分からない言葉を竜は空中から真衣に投げかける。


しかし、思考能力や言語能力を持つ合成獣(キメラ)なんていたのか。もしくは、男達が言うとおり精神感応(テレパシー)で操られているとか? 高能力精神()感応()能力者(パス)がどこかで操っている?


体に徐々に差し込まれてくる鉄パイプの痛みのせいで目をつぶってしまった俺だったが、真衣と竜の話し声が耳に届く。


「助けてくれるのっ?! 陽樹君を助けられるなら助けて! 力を貸して下さいっ!」


「なら体を返せ」


「体っ? 何の事か分からないけど、私はどうなっても良いからっ!」


「ふ……ふはははは! 返してもらうぞ、私の体を!」


 目を閉じていた俺だったが、瞼を通して突然辺りが昼間のように明るくなったのを感じた。発光元は真衣の方向だ。光で男はうろたえたのか、鉄パイプから力が無くなったのを感じた俺はそれを胴体から引き抜く。


 瞼を閉じていたと言うのに、目がくらんで開けられなかったのは十秒ほどだっただろうか。薄く開けられるようになると、予想通り細い男も完全に目をやられてしまったようで顔を押さえながらうつむいて動けない様子が見えた。奴は俺と違って真衣を直視していたらしく、回復にはまだかかりそうだ。


「真衣……真衣なのか?」


 今のうちに逃げようと自転車から足を引き抜いた俺は、銀髪に輝く女を見つけて声をかけた。髪型、制服、姿かたちは真衣そのままなのだが、髪の色とその表情が違う。銀髪の真衣は、目じりと口角を上げて狂気に満ちた顔で笑っている。


「ざまあみろっ、次元竜め! これで元通りじゃっ!」


 銀髪の真衣はそう言ったかと思うと、肩にとまっていた竜を軽く手の甲で払った。


「きゃぁ!」


 叫び声をあげて竜は地面を転がる。……って待てよ。今の声……真衣の声じゃなかったか?


 銀髪の真衣は周りをゆっくりと見回したかと思うと、空が少し光で照らされている繁華街の方向に顔を向けた。そして、彼女がそちらへ向かって歩き出そうとしたところ、その前の地面がたき火くらいの大きさで燃え上がった。


「逃げるな!」 


 でかい方の男が叫んだ。竜の攻撃で地面に伏せていたからか、光を直接見ていなかった俺と同じく視力がもう回復したようだ。


「何の冗談じゃ? こんな小さな炎ではスープも作れんぞ」


 銀髪の真衣は笑って振り返ると、男に手のひらを向けた。


「バフォル」


 真衣が何か言ったかと思うと、俺の視界はオレンジ一色となった。同時に強烈な熱気が真衣の方から襲ってくる。顔を反らしながら横目で見た俺の前に、巨大な火柱が横に走っている。


発火能力(パイロキネシス)。これが真衣の能力? 発現したのか?」


 火柱が消えると、自分の手のひらを見ながら顔を強張らせている真衣がいた。先ほどの自信に満ちた表情とずいぶん違うようだが……?


「馬鹿な……これしきの力しか出ないのか? これでは、以前の一割にも満たないではないか……」


 真衣は何か辺りを探すような仕草をすると、ある方向で視線を止め、つかつかと歩いてくと竜の首根っこを掴んで拾い上げた。


「キサマ! 力を返せ!」


「そ…そんな事言われても……」


 また竜から真衣の声が聞こえた。どうなってんだ? まるで……中身が入れ替わったかのような……? そう言えば、最初竜は「私の体を返せ」と言っていたような気がする。しかし、あの人間の体は真衣の物のはずだ。昨日までの真衣は、あの竜のような性格では無かった。


 竜を叱責している真衣に気を取られていたので、俺の注意は細い男から完全に離れていた。それは、細い男が動きを見せた時に思い出す。


「しまっ……」


 遅かった。細い男が念動能力(サイコキネシス)で操った鉄パイプが真衣に向かって飛んだ。真衣は超能力壁(サイコスキン)が張れない。そんな体には、軽々と鉄パイプが突き刺さり貫通するだろう。


[ガンッ]


 しかし、鉄パイプはコンクリートの壁にでも当たったかのような音をさせると、真衣に弾き返された。転がったそれを見ていた真衣の目が細い男に向く。


「虫けらが。攻撃してこなかったら今は見逃してやったものの」


「あいつをどこへやったんだっ!」


 細い男は剣幕で言い返した。


 ……目がくらんでいて見ていなかったのか。相棒のでかい方は多分……暗くて見えないがその辺りに寝転んでいるはずだ。黒焦げになって。



 自分を睨みつけている男に向かって、真衣は気の抜けた口調で言う。


「下手くそが。こうやるんだ。フェイル」


 真衣が手を上げた途端、細い男が数歩後ろに下がって倒れた。胸に何か突き刺さっているようだが、しかし、鉄パイプはまだ真衣の傍に落ちている。一体……何を投げたんだ?


「…………氷柱(つらら)?」


 近づいてみると、半透明の細い棒だった。表面は濡れており、どう見ても氷にしか見えない。そんなまさか……


「氷を操る能力……なんて聞いたこと無いぞ。おまけに、さっきは炎を出したはずだ。異能力者が二種類の力を使えるなんてありえない……」


 異能力とは、遺伝子についた傷が芸術的に反響し合った結果の奇跡の力。二つの能力を発現する事なんて無いって習っている。



「……ん?」


 その時、俺は気が付いた。隣に流れている川は幅が五十メートル程だが、対岸が妙に騒がしい。どうも、向こうに人が集まり出しているようだ。


……恐らく、先ほどの巨大な火柱か、その前の真衣の体からの発光現象に気が付いた人がいたのだろう。こちら側は土手が邪魔して商業エリアの人には気が付かれなかったのだろうが、向こう側の人が通報して、誰かが駆けつけてくるのは時間の問題だ。


手の付けられない犯罪者だったとは言え、二人死んでいる。治安維持官からの尋問が面倒だ。ここは逃げの一手だな。


「問題クリア! 新たな障害が発生する前に逃げるぞ真衣!」


 左手で真衣っぽくない真衣を小脇に抱え、右手に真衣っぽい竜を掴むと、俺は腹の痛みを堪えながら一目散に川辺を走って逃げた。





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