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零の魔女  作者: 音哉
22/22

第22話 「謎に包まれる研究エリア」


 俺は目を覚ました。その時間はお爺さんかよと言うような午前五時。原因は昨日の晩、千夏と部屋で向かい合う事に気恥しくなり、午後十時に寝てしまったからだろう。


 相変わらずマイディアは俺の胸の上で丸まって眠っており、俺が上体を起こすと下に滑り降りて太ももの上でまだ眠り続けている。


 登校時間まで後三時間少々。俺は十分過ぎるほど寝たためちっとも眠くなかったが、二度寝をして自分をごまかすことにした。自分を欺いて五分。太ももの上で動くものがあった。それは俺の頭の方へ移動を開始し、腹、胸と上ってくる。また胸で落ち着く気かよと思った時、そいつは俺の顔を踏んで通り過ぎた。


[カチャ]


 トイレに消えたマイディアはすぐに戻ってきて、再び俺の胸で寝息を立て始めた。この鳩程の大きさの竜は、器用にトイレで用を足す。六千年間異世界で生活をしていたとは言え、さすが元この世界の住人。貨幣や法律、簡単な社会の仕組みまで忘れたと本人は言うが、適応が早い。



 マイディアはこの世界にいた時、一体どんな能力者だったのだろうか? 何代前後するのか分からないが、同じ遺伝子を持つ真衣が作られている事からしてクローン生産を継続するに値する何かしらの能力を有していたはずだ。


クローンを作る事は今の時代簡単になったとは言え、もちろんタダでは無い。素質が無いと分かれば製造を中止され、翌年から他の素体のクローンを作ることになるだろう。ちなみに俺の場合は次の個体があるかかなり怪しく、三戦姫などの高素質者はこれからもずっと製造されるだろう。


倫理的問題から同じクローンの大量生産は法律で禁止されているが、日本の世界支配が揺らいだ時には戦姫達のクローンが大量生産される事もあるかもしれない。


 しかし……真衣は未だに能力を発現させない。相当な経験を積んだ時に、恐るべき能力を一気に開花させるタイプなのだろうか。それに比べると三戦姫は一年生の一学期から強力な力を発現させているので、即戦力タイプと言えるだろう。


だが、例えば双子でも性格がまったく同じにならないように、同じクローンでも例えば友達など小さな違いによって能力の強弱が変わる。つまり真衣がクローンとして製造され続けているのは、きっと何か意味があるのだ。同一の固体、マイディアが脅威の魔法を使いこなす事と関係があるのか?



 今日も真衣を起こし、次にマイディアを起こしている間に真衣が寝る。そして、真衣を起こしている間にマイディアが寝る。これを三度繰り返して二人をやっと目覚めさせた俺。


 そしていつものように通学途中にパンを一つずつ買う。当面の目標は、何とかして俺の支給額を上げることだが、中々難しい。犯罪者を捕まえて力を示さないと……




 学校に到着すると、今日は三戦姫の様子がおかしい事に気が付いた。三と言うより、久美と莉里の二人しかいない。家が近いこともあり、普段こいつらは三人そろって登校してくるはずだが? その二人は携帯を手にしながら顔を曇らしている。魅菜の奴病気でもしたのだろうか。


「どうかしたのか?」


 俺はひとり欠けた戦姫達のそばへ行き、声をかけてみた。少し前は仲が悪かった俺達だが、最近は協力して街の犯罪者討伐に当たっている。それに俺は元からこいつらが嫌いな訳じゃないし。とにかく何かと突っかかってくるのが面倒くさかっただけだ。


「園山陽樹!」

「陽樹さん!」


 久美と莉里は同時に俺の名前を呼ぶと、すがるような目で見てきた。二人とも超Aランクなくせに、俺を盾として利用しようと思っているのか最近は何かと相談してくる。


 聞くと、今朝は三人のいつもの待ち合わせ場所に魅菜は現れず、携帯もつながらないしメールも帰ってこないらしい。


「風邪で寝込んでいるとか? 他には……彼氏の家にお泊りとかは?」


「魅菜には彼氏はいないよっ! 園山陽樹!」


 なぜか俺は久美にひどく怒られた。せっかくの予想を退けられた事が少し不満に思って俺は続ける。


「今まではいなかったとしても、でも……好きな人と急に上手くいったとかは?」


「陽樹さんがそう言うのなら、その可能性は皆無ですわっ!」


 今度は莉里がいらいらした様子で俺にぴしゃりと言う。しかし、なぜ二人の口調が厳しいのか俺には良く分からない。


 そこへ、今教室に入ってきたばかりの智也が俺のところへ一直線に歩いて来た。


「陽樹、聞いた?」


「なんだよ。お前、前々から言おうと思っていたが、その勿体付けるしゃべり方はなんとかなら…」


「魅菜がさらわれたらしいよ。研究エリアに連れて行かれたって……」


 智也らしくなく、俺の話を聞かずに一方的に話をしてきた。


「……本当か?」


 俺が念を押すと、智也は俺に向かって大きく頷いた。


「ちょっと! 本当なのっ!?」


「本当ですかっ?!」


 詰め寄る久美と莉里。久美の右手から白い火花が散ると、智也は慌てて首を何度も縦に振る。


「しかし……そんな噂を誰から聞いた? それに、どこでさらわれたんだ? 目撃された場所は?」


「……わかんないけど、通学途中にみんな噂してたよ?」


 俺は聞かなかった。しかし、元から情報屋である智也と俺のアンテナの精度は違う。しかし、昨日の放課後以降にさらわれたと思われる魅菜の情報が、どうしてこんなに早く生徒間で噂になっているんだ?


「早く助けに行こうっ! 当然来てくれるよなっ! 園山陽樹っ!」


 廊下へ向かって駆け出そうとする久美を、莉緒が止めた。


「待ってくださいませ! どう考えてもこれは誰かの陰謀としか……」


「罠だったとしても、行くしかないよな」


 俺が莉里の肩に手を置いて言うと、莉里も下唇を噛みながら頷いた。



 しかし、なぜ魅菜がさらわれたんだ。誰に? 俺達が恨みを買っている相手と言えば……暴行魔か殺人鬼だろう。しかし、殺人鬼とは魅菜は接触しておらず、当然顔も知られて無いはずだ。まあ、絶対とは言えないが。


例えば殺人鬼が俺の顔を覚えていて学校に見に来たとか。他には……殺人鬼自体が学校関係者とかな。


いや、それよりも戦姫三人で追い回したと言う暴行魔の方が魅菜を誘拐したとするには有力か? しかし、一人をさらって他の二人をおびき寄せると言う様な回りくどい事をするだろうか?


 しかも、おびき寄せる場所が商業エリアの人気(ひとけ)の無い場所や、もしくは工業エリアの廃工場ならわかるが、どうして研究エリアなんだ? あんな所、下手すりゃ警備員や治安維持官がわんさかと集まってくる場所だ。


 考えを巡らせながら繁華街を走り、そこを抜けた研究エリアを目指す俺達。学校は当然自主早退だ。


 そんな俺にふと黒い不安がよぎる。


 ――研究エリア。研究員。……まさか、稲垣さんは関係無いよな?




 俺達は汗だくで三十分走りきり、研究エリアの白い建物が見える所まで来た。


 異能力実験都市であるこの地域の研究施設街なので、国内……いや、世界最高峰の異能力関係の研究が行われていると思われる。その規模は、俺達が住んでいる東地区の工業・商業・居住エリアを全て足した位の広さだって噂されており、実に東京特区の五分の一を占める程だ。


 研究エリアには同じような建物がいくつも建っており、果てしなく広い区画ごとにフェンスで仕切っているようだ。とりあえず目の前には施設があるようだが、看板や標識のような類の物は見当たらず、何を研究しているところなのか一つの情報も手に入れられない。おそらく理由があってわざとそうしているのだろう。


 学校をさぼったのは、俺、久美、莉里、真衣、とその肩にはマイディア。そして、少しは役に立つかと思って智也も連れてきた。さすがにクラスメートが誘拐されたとあって、今日の智也も嫌がる様子は無かった。


「魅菜の気配は?」


 俺は精神()感応()能力者(パス)である莉里に聞いてみるが、彼女は首を横に振る。莉里が感じられないと言う事は、感知範囲より外にいる場合だ。または、何らかの妨害を受けている場合、思念を遮蔽する特殊な建物内にいる場合、それと……いや、その最後の可能性を俺は考えない。


「これだけ広いと、一つ一つ建物を当たっていく訳にも行かないな」


 あせる気持ちはあるのだが、直径五キロ以上ありそうなこのエリアを間違った方向へ行くと致命的になる。間違いなく最短距離で行かなければ……


 俺がとにかく誰でもいいから研究員を捕まえて、と考えていた時、智也が北を指差して言った。


「北の施設って聞いたような……」


 俺達は顔を見合わせる。さらわれた瞬間を目撃した人ならいるかもしれないが、この研究エリアを運ばれていく女子高生を見た奴なんて街にいる訳が無い。だが、俺達は行くしか無かった。


 

 そこから北に一キロほど智也の案内で移動した。しかし、俺は移動したような気にはならない。またもや敷地内をフェンスで囲われた、コンクリートの地面とその上に立っている白い建物。変わりがまったく無い。


「ここか?」


「いやぁ、そう言われても……」


「言われてもって、お前が連れてきたんだろうが……」


 俺が聞いても智也から帰ってくる答えは不明瞭だ。しかし、他に手がかりが無い以上ここから探るべきだろう。故意に噂を広めた人物がいたとして、関係ない施設に誘導する事は考えられない。それならば、ここへ連れてくる必要が無いからだ。


「あっ!」


 突然莉里が叫んだ。俺達が顔を向けると、両手をこめかみに当てて集中し始めた。


「今……確かに魅菜さんの気配が……、私の感知圏内に……」


 莉里は五百メートル圏内の思念を感じられる。つまり、この施設に魅菜が存在するのは濃厚なようだ。最悪の結果を考えないようにしていた俺だが、やはりほっとした。


「でも、か細い……。弱く途切れ途切れですわ。体が通常の状態で無い事は確かです……」


 莉里の言葉に俺は急ぐことを決断する。


 魅菜が生きていると言うのは幸運だ。俺達をおびき寄せるには魅菜をさらったと言う情報だけで十分。息をしているかどうかは俺達には知る術は無いからだ。


「ちょっと待ってください。あれは?」


 俺達が研究施設無いに足を踏み入れてすぐ、真衣が指差した所に人が見えた。百メートル程離れてはいるが、今建物から出てきた人物は男性だろうと体格から想像できた。


 その男はこちらに向かって一直線に歩いてくるようだ。しかし、俺達も悠長に来るのを待っている余裕は無いので、施設の中へ、その男へ向かって歩いていく。


「あれ? ……は」


 数十メートル歩き、相手との距離が五十メートルくらいになった時には「もしかして」と思っていた。やはり前から来る人は稲垣さんだ。白衣を着て研究者風だが、あのぼさぼさ頭と愛嬌のあるタレ目は間違いない。


 彼だと気が付いた時に会釈をし、稲垣さんのすぐ目の前に来ると俺達は足を止めた。


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