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零の魔女  作者: 音哉
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第15話 「六千歳の魔女の力」



 俺を見ている莉里の顔は真っ青だ。その視線をたどった先には、血を激しく噴き出している俺の腕があった。二の腕の骨まで切断されてしまったようで、少量の肉と皮でかろうじて繋がっている状態だ。


 血が足りないのか……それとも右手が振れないからバランスが悪いのか……? 俺は真っ直ぐ走ることが出来ない状態に陥っていた。


「莉里、お前は一人で逃げろ!」


 俺は冷静に分析をした結果、囮になる事を決意し、左腕に抱いていた莉里を突き放した。


「置いて逃げられる訳ないですわっ!」


 莉里は俺の元に戻ってくると、片膝をついてしまっていた俺の体を抱き起して連れて行こうとする。


「血で制服汚れるぞ……」


「替えの制服ならありますわ!」


 すでに莉里のブラウスとスカートは俺の血で染まっていた。俺は出血しすぎたようで、段々と意識が朦朧としてくる。


―ザッ―


 足音がした気がした。顔を上げると、前に制服を着た女子生徒の後姿が見える。その少女の髪は長く……銀髪だった。


「ま…真衣? ……マイディアか?」


 彼女は振り返ると、俺を見て笑った。


「食事係が……頑張り過ぎるなよ」


 俺が瞬きをした次の瞬間だった。俺に顔を向けているマイディアの真後ろに、刀を振りかぶっている殺人鬼がいた。


「マイディアっ! 来てるぞっ!」


 だが、俺が叫び終わる前に殺人鬼は姿を消した。いつの間にかマイディアが振り上げていた足を下ろすと、その十メートル向こうに地面に伏している殺人鬼がいた。


「な……何が起こった?」


 俺が驚いていると、殺人鬼は地面でバク転をするように跳ねて立ち上がった。そして再び刀を上段に振りかぶってマイディアに向かう殺人鬼。だが、刀を振り下ろしたそこにマイディアはいなかった。


 気が付けば殺人鬼の背後に立っていたマイディアは、回し蹴りで殺人鬼を横になぎ払った。殺人鬼の体から骨が砕けたような音が俺達の所まで聞こえてくる。道路の反対側まで吹っ飛ばされた殺人鬼は、わき腹を押さえながらそばにある工場の門の陰に消えた。


「腕を見せろ、食事係よ!」


 マイディアは莉里を押しのけると、殺人鬼の事など忘れたように俺の腕を観察している。


「おい……殺人鬼が……」


「奴は逃げた。追って殺す事も出来るが、まずはお前の怪我を治してやる」


「はぁ? ……治す?」


 マイディアは左手で千切れかけた俺の腕を持つと、右腕を傷口に当てた。


「レアス」


 前に火を出した時と同じような聞いたことも無い単語を言うと、マイディアの右手から光が放たれ、それは俺の右腕を包み込んだ。傷の痛みがさらに強烈になったと感じたのは一瞬で、次第に痛みが和らぎ始めた。


 マイディアの隣に来た莉里が俺の腕を見ながらマイディアに聞く。


「本当に治療が? それは何の能力ですか?」


 莉里は心配と期待が入り混じった顔をしている。


 しかし、自己治癒力を高めたりする異能力はあるかもしれないが、出来た傷口を塞いでしまうようなものは無いはずだ。もしそんな事が出来たなら、やはりマイディアの力は『魔法』としか説明できない気がする……。


「駄目だ。魔力が足らん」


 そう言うと、マイディアの手から光が消える。しかし、出血は止まっているし、二の腕は綺麗に繋がっているように見えた。だが……指も腕も曲げようとしてもぴくりとも動いてくれない。


「俺の腕、もう駄目って感じなのか?」


「……えっ?」


 俺が聞くと、なぜかマイディアは首を捻った。……あれ? こののんびりとした表情は……


「真衣か?」


「あわっ! 陽樹君、腕は大丈夫ですかっ!」


 原始的に俺の腕をさすり始めたのは真衣だ。良く見れば髪がいつの間にか黒くなっている。莉里は急な展開についていけないようで口をぽかんと開けたままだ。


 羽音がしたと思ったら、額を手で押さえて目をぐるぐるの渦巻きにした竜のマイディアが飛んできた。


「なぜ急に戻ったのじゃ……。魔力を使い切った事に影響が……? それにしても頭が割れるように痛い……」


 その言葉を聞くと、真衣も急に思い出したかのように自分のおでこを押さえだした。


「……何を……したんだお前達……?」


 とりあえず詳細は後で聞くことにして、俺達は一旦退却する事にした。相手もマイディアに結構な深手を負わされたようで、痛み分けたという感じで追ってくる気配は無かった。





 高級住宅街に住む莉里と別れ、俺が真衣の家でマイディアから聞かされた話はこうだった。


 マイディアは六千年生きた魔女と言うだけあって、切断された腕程度なら一瞬で治癒させる魔力を行使出来たと言う。しかし、現在は竜の体に魔力を全て封印されているため、その人知を超越した力はもう出せない。


だが、魔力と言うのは俺でも莉里でも修行をしなくてもわずかには持っている物らしく、今の真衣本体の体に自然と蓄積される魔力とそこら中に漂っていると言う魔法因子を使ってマイディアは弱い魔法を使えるらしい。簡単に言うと、昔はほぼ無尽蔵に強力な魔法を使えたマイディアだったが、今は真衣が一日にためるわずかなMP(マジックポイント)分しか魔法を使えないと言う事だ。


 ちなみに火を出したり治療したりするのは当たり前として、あの殺人鬼の素早さを凌駕する身のこなしも魔法だったらしい。昔はあの程度じゃなかったって言うし、空も飛べたと言う。


……やはりマイディアに本来の力を取り戻させるのは危なすぎると、俺は黙ってはいたが再確認した。







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