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side:キーラン 2

 相変わらず拘束は解かれぬまま彼に案内され導かれた部屋の先で出会ったのは、少しばかり青い顔色ながら、目立った外傷も見られないブリアンナだった。

「ほら、私は嘘をつきませんでした。まだ無事ですよ。男の前にいようと平然としているでしょう?」

 子爵の言葉にキーランはほ、と一息ついた。男に無理やり体を奪われた女は須らく男を恐れるという。ならば、確かにブリアンナはまだ何もされていないのだろう。それがいつまでも無事という意味でないことは理解しているが、それでも、キーランは少しほっとした。

 とはいえ、ブリアンナは子爵を警戒しているようだったので、全く何事もなかったという訳ではなさそうだったが。

 キーランがブリアンナの安全を確認したのを見計らってか、子爵が言葉を挟んできたのはそのときだった。

「私は確かに貴方の姫を生娘のままにしておきました」

 ブリアンナがその言葉に不安そうな顔をする。子爵が何を言い出すのか、とそういうことを考えているようだった。キーランも、この話の流れからどう続くのか分からずに、青年を見やる。青年はにこりといっそ不気味なほど爽やかに微笑んだ。

「我々とて王として戴く相手としては、より高貴な血を持つ方がいい。ですから閣下が姫と番う方が都合がよいのです」

 それを聞いてキーランは我が耳を疑った。つまりそれは、キーランとブリアンナの子供を望む、とそういうことだ。そして、その子供を旗頭に現国王に反旗を翻すのだと。

キーランにとって、それは全く可能性を考慮に入れていなかったものだった。何しろキーランは常日頃から貴族たれとは思っていようが、自分を王族の傍系とは認識していないのだ。とはいえ、一度口にされれば子爵の考えが非常に子爵の求めるものとしては価値のあることを認めざるを得なかった。

 キーランとブリアンナの間に子が出来、その子供が男児であるなら、生まれてくる子供の血は誰よりも濃くなることだろう。王位継承権はその血の濃さに準じて相当高いものとなるはずだ。それこそ、王の子であるブリアンナと同程度に。

 だが、キーランにそんなことが出来るはずがない。キーランはそういう対象としてブリアンナを見られないのだから。そもそもそういった行為をしなければ、子供が望めるはずもないのは誰が見ても明らかなはずだった。

 子爵もまたキーランに全くその気がないのを見て取ったのだろう。わざとらしいほどの落胆の表情と共にとんでもないことを言い放った。

「それでも、閣下が嫌だと仰るのならば無理やり姫を奪うしかありません。さぁ、閣下が姫と番うか、それとも私の手のものに姫を手籠めにさせるか。二択に一つです」

 キーランは言われた言葉に、ひゅ、と息を呑んだ。妹として今まで慈しんできた存在が望まぬ相手に奪われようとしているのを、どうして見過ごしておけるだろうか。

「あ、一年以内に姫が子を産まないときも私の手のものが姫を孕ませますけれども」

 追い打ちのように発された子爵の言葉もあって、キーランに許されたのは皇帝の言葉だけだった。

「……分かりました」

 ブリアンナが泣き出しそうな顔で首を横に振るのがキーランの視界に入り、キーランは顔を歪めた。ブリアンナもまた己の運命が決定されたのを理解している。今まで自分の騎士であり、男としてすら見たことがないだろう相手と男女の中にならなければならないなど、ブリアンナにはとんでもない屈辱として映ったことだろう。キーランとて、ブリアンナがブリアンナの望む王子や誰かと一緒になるのを見たかった。それでも。

 拘束が解かれた。キーランに反抗することが出来ないことを分かっていてのことだろう。武器の一つも持たないキーランが身一つで何ら戦闘能力を持たないブリアンナを連れて逃げ出すことは不可能だったし、かといってブリアンナを置いていけば彼らは今すぐにでもブリアンナを穢すだろうことは容易く察せられた。結果ここに残るしかキーランに選択肢は残されていないのだ。

 自由になった手でせめて彼らからブリアンナを守ろうと、その体をそっと抱き寄せる。腕に収まった肢体はほんの数日離れていただけのはずが、随分と小さく感じてしまう。それが気のせいであるはずはない。この環境に置かれたことがそれだけの心労だったということだろう。

「姫が、望まない相手に身を捧げなければならないことを厭うのなら、せめて」

 ブリアンナは静かに泣いていた。だが、そんなブリアンナに対してキーランがかけることが出来たのはただ一言のみだった。

「すみません、姫」



 そのとき、キーランの中では確かにブリアンナは主君であると同時に妹のような存在であって、決してそのような欲望の対象として見る存在ではなかった。

 だが、キーランは可愛い従妹姫がそんな風に純潔を奪われるなど、到底許せなかった。それならまだ自分が奪う方がマシだと思ったのだ。奪いたい訳ではない。けれども、どこかの王子に嫁いで幸せにでもなるはずの主人を、どうして下級貴族の手などに渡せようか。ならばまだ公爵家の自分の方が、とそうキーランは思っただけなのだ。

 その時点ではまだ、キーランの気持ちは誓ってブリアンナにはなかった。可愛らしいブリアンナに対する感情はあくまで妹に持つようなものであり、キーランが想っている侍女に対するものとは決定的に質が違ったのだ。

あと多分1話です。

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