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<第四章>

帰国した麻椰と子供達に再開する駿哉、

彼の複雑な心境は意外な方向へと導かれてゆく

愛しているのは麻椰なのか?それとも藍なのか?

駿哉はその答えを自分自身で見出せずにいた。

そして追い詰められら気持ちの中で彼の取った行動とは?


年が明けしばらくして、麻椰と子供達が帰って来た。



「パパーはいっ、お土産!」




そう言って掻きついて来た娘を駿哉は優しく抱き上げた。




「はいっ、

お兄ちゃんもパパにちゃんとただいまってご挨拶しなさい!」



相変わらず優しい笑顔を見せる麻椰。駿哉は思った。



バカだよな・・・

こんなに素晴らしい家族がいながら何やってるんだろう。

可愛い子供達、そして優しい妻。何が物足りないと言うのだろう・・・。


そんな気持ちに苛まれていた。

しかし浮かない表情の駿哉に麻椰が気付かない訳がない。

何故なら二人が重ねて来た年月は5年以上前から続いているのだから。

深夜ベッドの傍らパジャマ姿で化粧水をつける麻椰、そんな時、

彼女が切り出した。



「何かあったの?」



驚いた表情を隠しきれない駿哉、そんな駿哉に麻椰は笑いながら言った。



「もしかしていい人でも出来ちゃった?」




麻椰が冗談のつもりで言ったにせよ。

言い当てられてしまった駿哉にとってはその動揺を隠しきれずにいた。

そして麻椰から意外な言葉が返って来た。



「話さなくても大丈夫だよ。だけど何を聞かされても大丈夫だからね」



「え?大丈夫って?」



「そうだねぇ、もしも本当にあなたが浮気をしていて、私を

捨てて出て行ってしまったとしてもあなたが選んだ人だからきっと素敵

な人なんだろうなって思うから・・・」




そんな妻の切実な思いに、駿哉は居た堪れない気持ちになった。




「大丈夫だよ。俺はちゃんと大切なものを解っているから」




そう言って麻椰を抱きしめた。




「いいんだよ。私に気なんか遣わなくってもね。

ここはあなたがいつでも戻って来れる場所、だから辛くなったら

いつでも戻って来てくれればそれでいい!」




麻椰は何故か笑顔でそう言った。駿哉は気が付いた。

愛おしい妻麻椰、そしてもう一人あどけない表情の藍、その思いは

自分の中に同じ位の大きさで犇めき合ってる事に。

どちらも大切だ。どちらかを選ぶなんて出来ない。

駿哉はこんな事を考えてしまった。

もしも麻椰に藍の存在を告げたとして、5人で暮らそうか?

と言ったら普通の妻ならきっと血相を変えて怒るだろう。

がしかし麻椰は冷静な判断が出来る女だ。だと言ってどうなのだろう。

こんな理不尽な申し出をいくら麻椰でも了承する訳等ない。

まして本当の事を子供達が知ると傷つける事にもなりかねない。

なら難しい。しかし・・・




日曜の午後、食事を仕込む為にキッチンに立つ麻椰、

それをカウンター越しに覗き込む駿哉。そして、



「なぁ麻椰、実は俺・・・」




駿哉はさっき頭の中で考えていた事だけでなく、今までに起こった

出来事のその一部始終を麻椰に話してしまったのだ。



どうしてだろう。

麻椰を傷つける事になるのに・・・。

そうは思っていても黙っていると言う罪悪感に駿哉は耐え切れ

なくなったのだろうか。それに麻椰ならなんとかしてくれるんじゃない

かと言う、妙な期待感に苛まれていたのかも知れない。

麻椰は静かに言った。



「そう・・・あなたはいつも突拍子もない事言うね。

そう言う所大好きだけどさすがの私でも現実を受け入れ辛いわ・・・」



「ごめん、変な事言っちゃたね」



それでも麻椰は寂しそうな顔をしながら




「ううん、本当の事言ってくれて嬉しいよ。だけど一緒に住むのは・・・」




 何故かそう言って麻椰は少し複雑な笑みを零した。

さすがに勘弁して欲しいと言う暗号なのだろうか・・・

そしてもう一度話を続けた。




「私だけなら構わない。だけど子供達には上手く説明出来ない。

それに私と別れて彼女と籍を入れて5人で暮らす

なんてのは嫌だよ。だって私は家政婦じゃないし、子供達の

未来を変えちゃうかも知れない出来事である以上・・・。

もしも彼女に子供が出来たりしたら、きっと将来私が死んで

いなくなっちゃっても、争いになるんじゃないかって、

うちの親の時にそう思ったから・・・」


実は麻椰の母は再婚をしていたのだ。幼い頃に父を亡くし、しばらく

母と二人で暮らしていた彼女は、新しい父と再婚した母に連れられ、

アメリカへと渡った。しかし新しい家族と揉めたくはない。

母とはいざこざにはなりたくない。そんな気持ちから、その後亡く

なった新しい父の遺産を受け取る事はなかった。

そしてまだ年の若い新しい兄弟がいる

アメリカで、今も母は家族と共に暮らしている。

兄弟も麻椰を拒む事もなく、快く受け入れてくれている。

だからこそ麻椰は何が一番大切なのかを知っていて、

その遺産を放棄すると言う道を選んだのだ。


そんな苦悩の中を潜り抜けて来た彼女だからこそ、きっと

真っ先に思い浮んだのが、将来子供達がいがみ合う

であろう現実を想像したくはなかったのだろう。

彼女は女である事以上に、母親らしい切実な願いを心の内に秘めていた。

そしてそれを解っていたからこそ、駿哉は麻椰に語る事によって彼自身

の行動を止めて欲しかったのかも知れない。

麻椰の言葉によって止めて欲しかったに違いない。

例えそれが麻椰を一時的に深く傷つけてしまっても・・・。


手を止めて押し黙る麻椰、そして見つめあう二人、その

たった数分の沈黙が恐ろしく長く感じられた。

そして麻椰は言った。



「もうあなたらしいなぁ、そう言う事、平気で言っちゃうんだもん!」




駿哉は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

麻椰は世間の妻像からはみ出しているのかも知れない。

それは何なのか、アメリカと言う違った環境で育った彼女だから

そうなったのか、それとも彼女の本質的な

人柄なのか、でも駿哉には彼女は後者だと確信していた。

それは彼女の人柄なのだと。

麻椰は再び手を動かしながら答えた。



「だけど・・・一緒に暮らすのはちょっとねぇ。

あなたの気持ちはよく解るわよ?

そりゃ誰だって何年も過ごして来た妻に、新鮮な気持ちなんて

持てないでしょ。それに子供だって産んで、気を付けているつもり

でも年齢には逆らえない衰えもある。

どんなに頑張って綺麗にしていても30歳の女性と18歳の女の子

じゃ同じ土俵には上がれないわよねぇ」




麻椰はそう言って笑って見せた。その後ろ姿が愛おしく駿哉はキッチン

に入り背後から麻椰を優しく抱きしめた。

そして呟く様に言った。




「麻椰、一緒になった人が君で良かったよ。本当だよ」




麻椰は複雑な表情を浮かべながらも、駿哉の手に優しく

自分の手を重ねて言った。




「うん・・・私もだよ」



第五章へつづく・・・。



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