<第二章>
駿哉の前に突然現れたあどけない笑顔を見せる若い女性 藍、彼はその現実に
困惑する。彼女は何故話しかけてきたのだろうか?
駿哉は忘れかけていた過去の淡い気持ちを思い出してしまった。
時めくと言う気持ちを。
ホームセンターの中で並んでいる掃除用品を見ながら呟いていた。
「う~んたくさんあるからどれがいいのか解んないや。
こんな事なら普段から麻椰の掃除を手伝ってやれば良かったかなぁ」
しばらくしてそのコーナーにまだ20歳前後であろうか、
ひとりの若い女性がやって来た。
駿哉がどの商品を買えばいいのかそわそわしていると、
彼女は一つの商品を手に取り、彼に差し出した。
「スリッパのお兄さん( *´艸`)クスクス、これ凄くいいよ!」
駿哉は驚いた。
「何で俺が掃除用品探してるって解ったの?」
彼女は答えた。
「だってお兄さん、
大きな声で独りごと言ってたじゃん(*≧m≦*)ププッ」
そう言って可愛らしい笑顔を見せた。
駿哉は恥ずかしくなって、その場で一緒に笑った。
「明日はクリスマスイヴだよ?それなのにお兄さんはもう大掃除?」
「そうだよなぁ~・・・早過ぎる?」
「うんうん!」
「そう?」
何故だろう。こんな気持ちになったのは久しぶりだ。
駿哉はワクワクした気持ちを隠せなかった。結婚して5年、
妻子ある彼に話しかけてくる女性など、会社の女性
位しかいなかった。しかも良き夫であり子煩悩な父親の彼を、
世間は仄々とした目で見ていたに過ぎない。
そんな幸せの絶頂の中で訪れた不思議な出会い。
彼は思い出してしまった。トキメクと言う気持ちを・・・。
年の頃は20歳前後、細身ですらっと伸びた綺麗な足。
スタイル抜群であどけない笑顔。そんな若かりし女性の姿を見て、
悪い気がする男性が何処の世界にいるのだろうか。
すべてを持っている彼女に魅了されない理由など何処にも見当たらない。
いくら妻思いの子煩悩な駿哉だって、その心に最早、逆らう事等出来ない。
とは言って駿哉は29歳、20歳になっているかいないか解らない女の子等
到底相手にはしてくれないだろうと思った。しかし。
駿哉だって独身の頃は決してモテなかった訳ではない。
優しい印象で上品な顔立ちの彼を、
又嫌う者もそんなにはいなかったのも事実だ。
駿哉は思った。このままここで別れたらもう会えない。だけど・・・。
これ以上何が言えるのだろう。
誠実でおくてな彼をそんな気持ちにさせる程だから
彼女には言い知れない何かがあったのだろう。
そんな時、
「ねぇ、お兄さんに限ってまぁ・・・
ないとは思うんだけど~もし明日暇ならうちに来ない?」
「え?」
駿哉は驚いた。まさか彼女の方から誘ってくるなんて、
「あぁ~」
そう言って一瞬考えたが・・・
「行っていいの?」
「いいよ~、私丁度バイト休みだし暇なんだぁ~
それにクリスマスイヴを独りで過ごすのは寂しい><」
「独り?」
こんなに可愛い子が何故独り?駿哉はそう思いながらも彼女の話の続きを期待した。
「そうなんだよねぇ、彼氏とかいないし」
「本当に?」
「うん、だけどお兄さんは当然いるだろうね。恋人」
「あぁそれは・・・まぁ」
「解ってるよ。ただ聞いてみたかっただけなんだ。
だけど誰にでも言ってる訳じゃないんだよ?だって普段私、
こんな事言うタイプじゃないし。こう見えて結構恥ずかしがり屋だし、
だけど何故かお兄さんには自然にそう言えた」
駿哉は頭の中で考えた。
※何故こんなに若くて可愛い子が俺なんかに・・・期待するじゃん!)
「私の名前は藍だよ!これ私の」
そう言って紙に何かを書いて駿哉に手渡した。
それは藍のメールアドレスと携帯の番号だった。そして・・・
「お兄さんの事なんて呼べばいい?」
「あっ俺は駿哉・・・」
「じゃこれからは駿哉くんって呼ぶね!」
そう言って藍はホームセンターの自動ドアから出て行ってしまった。
※俺・・・どうしよう これってもしかして詐欺にでもあってる?
しかしあんなに可愛い子なら騙されてみたくなる気もする)
そんな言い知れない期待感と不安感と罪悪感の入り混じる感情を抑えきれず、
駿哉はしばらくその場に佇んでいた。
第三章へつづく・・・。