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<第一章>

真っ白に降り積もる雪の夜、

そんな交通事情も妨げにはならない程。

心をトキめかしていた。

駿哉はドアを開けて外に出た。

それを麻椰は止めたりはしない。ただ優しく、



「今夜は雪が積もっているから気を付けてね」


リビングの中からそう言っただけ



ガーネット色に輝く一厘の美しい薔薇と、

そして一か月以上も前から

注文していたチョコレートケーキを取りに行って

駿哉は積もる雪の中、

愛車のスポーツカーを走らせた。



駿哉29歳と一つ年上の麻椰30歳は結婚して五年、

夫婦仲はそれ程悪くはない。

寧ろ世間も羨むほどの仲睦まじさ、

駿哉にとっても麻椰は申し分のない妻。

そして子供達の良き母親。

毎日手作りのお弁当を作り、

そして温かい朝食に夕食、

子供達には発育を考えた手を掛けたおやつ、

そして穏やかな笑顔。それなのになぜ駿哉は・・・。


麻椰はリビングの中で駿哉の帰りを待っている。

子供達は其々の部屋で勉強机に向かって勉強している。

麻椰はどんな気持ちでこの時間を過ごしていたのだろう。

真っ白に降り積もる雪の夜のバレンタインデー。


麻椰は悲しいのだろうか。それとも虚しいのだろうか。

しばらくして駿哉が戻る。



「お帰りなさい」



そう言って笑顔で夫を迎え入れる麻椰。

何事もなかったかの様に、

何も傷ついていないかの様な表情で。

麻椰の心は氷にでも支配されているのだろうか。


しかし・・・。



「彼女に会えなかったよ」



「そうなんだ・・・残念だったね」



そう言ってどことなく寂しい表情を浮かべる駿哉。

麻椰は二週間程前に駿哉が言った言葉を思い出していた。



「もう藍には会えなくなるかも・・・そんな気がして」



「何かあったの?喧嘩しちゃったとか?」



「そうではないんだ。ただ、なんとなく

彼女の事が遠く感じる様になって」



「そうなんだ・・・」



駿哉が藍と出会ったのはつい最近の事。

とある出来事を切っ掛けに二人は出会った。

その出来事とは、クリスマスに近いある日の事。

麻椰は実家の母の体調が思わしくなく、

しばらく付き添う事になった。

しかし麻椰の母は遠い国で暮らしていたのだ。

だから彼女はしばらく日本を離れる事を余儀なくされた。


空港で見送る駿哉に麻椰は不安な顔で手を振った。

そうすると



「大丈夫、きっと良くなるよ」



そう言って駿哉は麻椰を抱きしめた。

ほっとした笑顔を見せる麻椰、

彼女は少し気持ちが楽になったのか笑顔で手を

振り手荷物検査場の列へと並んだ。

その間も二人はずっと手を握り締めあっていた。

そして不安そうに見つめる子供達、



「パパ独りで大丈夫かな?頑張ってね。

アメリカのお土産いっぱい買ってくるからね」


そう言って駿哉に掻きついていった。

そして麻椰は二人の子供の手をひいて検査場の奥へ

と消えて行った。


飛行機を見て手を振る駿哉。


12月20日午後2時半過ぎ、

帰りのタクシーの中で聞き覚えのある曲が流れている。

少し寂しい気持ちになる。


麻椰は子供達を連れてアメリカに

住む母の元へと行ってしまった。だけど

それはしばらくの間だと解ってはいたものの、

駿哉は少し不安になった。

それまでも麻椰は度々里帰りをしていた。

だけど今回は何故か寂しい気持ちになった。

クリスマスが近いからなのだろうか。



12月21日、朝目が覚める。

目覚まし時計で起きるのは久しぶりだ。

駿哉は眠気でぼんやりしながら洗面所の前に立つ。

しばらく鏡を眺めてから

歯磨きし綺麗に髭を剃り、顔を洗った。

そして会社へと向かった。

そして一日があっけなく終わった。家のドアを開けて



「ただいま」



あっそうだっ。誰もいなかったんだ。

そんな独り言を呟きながら

駿哉は下駄箱に貼り付けてある姿見で自分の姿を見て、

恥ずかしそうな表情を浮かべた。


12月22日、この日も独り、

今頃麻椰達はどうしているのだろうか?

母親は元気なのだろうか?

そんな事を考えながら流れるテレビの音と

共に独り出来合わせの食事摂る。



「いただきます」



独りなのに何故かそんな言葉が出てしまった。



「習慣って凄いな!」



なんて事を考えながら・・・。


12月23日、この日は仕事が休み、



「もうすぐ新年だしたまにはいっちょ掃除でもしてやるか?」



そんな言葉を独り呟きながら駿哉はゴソゴソと家の中を漁り始めた。



「掃除道具何処だ~♪」



鼻歌を歌いながら、

しかし日頃掃除などした事のない駿哉だけに何処に掃除道具が

仕舞われているのかすら解らない。



「困ったなぁ~折角その気になったのに、

俺が掃除しようと思うなんて滅多にないんだぞ~、出て来い!♪」



そんな即興の鼻歌を歌いながら、彼は探し続けた。


しばらくして、


「解らないや」



そう言うと

駿哉はスリッパのまま徐ろに外へと駈け出した。



第二章へつづく・・・。




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