第二部:デリート(消失のトリガー)
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第二部:デリート(消失のトリガー)
俺の名前は織田健児。
穏和株式会社のシステム運用担当だ。日々、平穏な稼働を守るのが仕事だが、最近、俺の周りで「論理的に説明のつかないインシデント」が頻発している。
事の始まりは、台所の食器棚だった。
(……ない。お袋から貰った皿が一枚足りない)
一人暮らしの祝いに贈られた、五枚セットの宝物。今朝までは確かにそこにあった。だが、仕事から帰宅すると、一枚分のスペースがぽっかりと空白(NULL)になっていた。
割った記憶も、持ち出した記憶もない。
婚約者の順子に電話をしたが「今日は行ってないよ」と笑われるだけだった。
「……おかしい」
泥棒を疑い、警察を呼び、鑑識まで入れたが、侵入の形跡はゼロ。
まるで、その皿という存在自体が、この世界から「切り取られた(カット)」かのような消え方だった。
――カスケード削除(連鎖する消失)
数日後、異変は加速した。
アパートの前で、大家さんが泣き崩れていた。
「織田さん……あの子が、庭先から消えちゃったんです。今朝まであんなに元気だったのに、ふと目を離した隙に、跡形もなく……」
大家さんの愛犬。俺も可愛がっていたワンコだ。
どこかへ迷い込んだわけでも、事故に遭ったわけでもない。
「そこにいた」という事実だけが、物理法則を無視して上書き(オーバーライト)されたような不気味な消え方。
そして、ついに「最悪の消失」が起きた。
婚約者の順子と連絡が取れなくなったのだ。
会社を無断欠勤したと聞き、合鍵で彼女の部屋に入ったが、そこには「生活の残骸」だけが取り残されていた。
お気に入りのバッグ、財布、スマートフォン。すべてがテーブルの上に置かれたまま。
彼女という「本体(実体)」だけが、この世界から消去されていた。
(何が起きている……?)
心当たりを必死に探して、捜索願も出したが、警察の反応は鈍い。
なぜなら、街中で同様の事件が相次いでいたからだ。
「神隠し」
その一言で片付けられるには、あまりに異常な頻度。
そして、その噂と対になるように、もう一つの不気味な目撃談が囁かれ始めた。
「白黒の亡霊を見た」
夜の街、消失事件の現場近くで、色を失ったモノクロの男が徘徊しているという。
その亡霊が何かに触れると、その瞬間にモノや人が消える。
まるで、別の世界から「データを吸い出しに来る抽出プログラム」のように。
――管理者権限の行使
科学も警察も通用しない事態に、世間は一人の巫女に縋った。
この世界における「神力」とは、バグった現実を修正するための究極のデバッグ・コマンドだ。
聖なる夜。
松明の火が揺れる中、巫女が祈祷を捧げる。
彼女の目的は、失踪事件を止めること、そして「白黒の亡霊」をこの世界から排除することだ。
巫女の神力が発動し、世界の境界線が一時的に強化される。
それは、外部からの不正アクセスを遮断するファイアウォールのような役割を果たした。
巫女の祈祷の後、新たな「神隠し」は発生しなくなった。
平和が戻ってきたが、順子は戻ってこない。。。
次の第三部が最終章となります。よろしくお願いします。




