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第10話

アウラはしばらく教室を見つめていた。

そして小さく息を吐く。


「……まさか、本当にいるとはね」


呟きは風に溶けて消えた。

その頃、教室では生徒たちが次々と席を立ち始めていた。


「さっきの見たか?」


「紫だったよな?」


「いや、気のせいじゃないのか?」


ざわざわとした声が耳に入る。

だが、アギトはその場から動けずにいた。


(紫……)


頭の中で、さっきの光景が何度も繰り返される。

ただ灯りをつけるだけだったはずだ。

それなのに。


(なんで……)


胸の奥がざらつく。

まるで、何かが内側から押してくるような感覚。

その時だった。


「アギト君」


優しい声がした。

顔を上げると、メディクスが立っていた。


「少し、いいかな?」


「……はい」


アギトは立ち上がる。

周囲の生徒たちの視線が少しだけ集まった。

メディクスは気にした様子もなく歩き出す。


「少し廊下で話そう」


教室を出ると、扉が静かに閉まった。

廊下には人の姿がほとんどない。

窓から入る光だけが静かに床を照らしている。

メディクスは少しだけ立ち止まり、振り向いた。


「さっきの魔力、初めてだった?」


「……はい」


正直に答える。

メディクスはしばらくアギトの顔を見ていた。


「そう」


短い言葉だった。

だが、その目はどこか考え込んでいるようだった。


「怖かった?」


突然の質問に、アギトは少し戸惑う。


「……少し」


正直な気持ちだった。

自分の中に、よく分からないものがある。

それが怖い。

メディクスは小さく頷いた。


「それでいい」


「え?」


「怖いと思えるなら、まだ大丈夫」


そう言ってメディクスは微笑む。


「魔法はね、感情と強く結びついている」


静かな声だった。


「だからこそ、自分を見失わないことが大切なんだ」


そう言うと、軽く手を振る。


「今日はもう寮に戻っていいよ」


「え?」


「初日は疲れるからね」


そして、少しだけ真面目な顔になる。


「ただし――」


「はい」


「しばらくは魔力を無理に使おうとしないこと」

その言葉に、胸が少しだけ重くなる。


「……分かりました」


アギトは小さく頷いた。

その背中を見送りながら、メディクスは静かに呟く。


「紫の炎……か」


誰にも聞こえない声だった。


「まさか、本当に現れるとはね」


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