表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

第16話 開幕、史上最大の偽装工作

 そして、運命の土曜日。ダブル配信の当日。

 しらたま先生は、朝からソワソワと落ち着かない様子だった。

「キララちゃんたち、もうすぐ来る頃かしら? 私、お茶の準備をしてくるわね!」


 今だ。

 俺は、先生が席を外した、その隙を突いた。


「先生、大事なことを言い忘れていました」

 俺は、昨日印刷しておいたデッチ上げの契約書を、真剣な顔で手渡した。

「これが、僕とタレントたちの間で交わした、最も重要な契約です。どうか、ご理解ください」


 契約書を読んだしらたま先生は、「まあ……!」と息を飲んだ。

「プロ意識が高いのね、二人とも……! 分かったわ、譲くん。私は、決して彼女たちのプライベートには干渉しない。約束する」


(よし、第一関門、突破!)


 その直後、俺はスマホを取り出し、さりげなく玄関の方を向きながら、録音しておいた『入室偽装用SE』を再生した。

 微かに聞こえる、俺とキララ(俺)、アカリ(俺)の小声での会話。


 しらたま先生は、ハッとした顔で玄関の方を見たが、契約書を思い出し、慌てて視線を逸らした。

「……来たのね。私、ここにいるわ」


 完璧だ。彼女の中で、今このアパートに、キララとアカリが入室してきたことになっている。


「では先生、僕は二人をそれぞれのスタジオに案内してきます。先生は、Aスタジオで待機をお願いします」


 俺はそう言うと、一人で二つのスタジオ(事務所と寝室)を行き来し、あたかも二人をセッティングしているかのように見せかけた。


 配信開始30分前。

 俺はBスタジオ(寝室)で、キララの自動配信システムの最終チェックを終え、再生ボタンを押した。そして、Aスタジオへと滑り込む。


「先生、お待たせしました。キララは準備万端です。アカリは、ほら、暴走しがちなので、先生がそばで見ていてあげてください」

「ええ、任せて!」


 しらたま先生は、ヘッドホンを装着し、音声モニタリングの体勢に入った。

 俺は、アカリとして、配信開始ボタンを押す。


「はーっ……待たせたな、眷属ども! 今夜は祭りよ!」


 俺のワンオペダブル配信が、今、幕を開けた。

 隣のBスタジオからは、自動再生されるキララの声と、俺が仕込んだ「生活音SE」が、壁を越えて微かに聞こえてくる。


 しらたま先生は、ヘッドホン越しにその音を聞き、深く頷いた。

「ふふっ、キララちゃん、リラックスしてるみたいね。お茶を飲んでる音かしら」


 違う。それは俺が昨日、自分のマグカップで録音した音だ。

 史上最大にして、最も馬鹿げた偽装工作は、ギリギリの綱渡りで、完璧に進行しているように見えた。

 そう、あの悪夢のエラーメッセージが、表示されるまでは。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ