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常世の城シリーズ

闇属性の令嬢は婚約者が居ない

作者: 桃井夏流

久しぶりの小説になります。


主人公は国に二人しか居ない闇属性の伯爵令嬢、セフィラ。

お相手は第三王子のジノンです。


4/26、加筆修正。シリーズ続編あげました。よろしくお願いします。

 伯爵家の、ごく普通の両親のもとに生まれた私は、この国でも稀少な闇属性持ちだった。同じ稀少でも皆から望まれる光属性とは違う。闇属性は忌避されるものだった。闇属性持ちのこの国での価値と言えば、常闇の城と呼ばれる場所の主になる事くらいだ。

 常闇の城には、闇属性の者と、その伴侶しか入れず、身の回りの世話は自ら生み出す精霊に任せるか、己で行うしかない。

 だから、私は幼い頃から魔法の訓練も、身の回りの事も怠った事は無かった。だって私にはそうするしか無かった。そう言う未来が待って居る事が確実だったからだ。今の常闇の城の主はもう五十代だと言う。なら、私は恐らく成人すると共に次の主になるだろう。

 でも私には、未来の伴侶になり得る婚約者が居ないのだ。闇属性の伴侶はある程度魔力が高くないと務まらない。何故なら、闇属性の魔力を受け入れて、自分の物にしなければならないからで、それを行うには魔力が高くなければならないからだ。

 そして、それには肉体的接触が必要となる。具体的に言えば粘膜接触と体液の交換、つまり性交に他ならない。

 だから基本、常闇の主の交代には一年の準備期間が設けられる。その間に伴侶に闇属性を馴染ませなさい、と言う訳だ。

 だと言うのに、私は明日で成人だ。おかしいと思わざるを得ない。本来なら明日には常闇の主になっている筈だと思っていた。だって今この国には私の他には今代の主しか闇属性持ちは居ないのだから。

 私は伴侶無しで常闇の城の主にならなければならないのだろうか。たった独りで、支え合う相手も無く、次の闇属性持ちが産まれてくるまで過ごさなくてはいけないのだろうか。それとも誰も産まれないまま、城で独り朽ちるのだろうか。地獄でしかない。


「もういっそ、誰でも良いのだけれど。独りよりかは、本当に」


生贄になりたい者が居ないのも分かる。けれど私も生贄の様なものだ。せめて、この国の中にたった一人でもいいから、私を憐れんでくれないだろうか。


愛されて、望んで欲しいなどと贅沢を言っている訳ではないのだから。そのくらいの願いくらい、叶えてくれないだろうか。


「セフィラ。お前にお客様が来ている」


珍しい。父自ら私に声をかける事なんて数年ぶりくらいじゃないかしら。

身の回りの世話は自分でするしかない私は、姿見で確認すると、今参ります、と返事をした。


「突然の訪問、すまないねノイスラ嬢」


突然の訪問と言うより、貴方に驚きを隠せませんが。


「………いいえジノン殿下、ようこそお越し下さいました」


何故第三王子の貴方が、此処に?確かに私達は知らない仲ではない。同じ学年で、成績を切磋琢磨し合う、言わば戦友の様な間柄だ。

だからと言って彼は王家の直系の血筋だし、私は伯爵令嬢とは言え、闇属性。だから個人的に学園外で会った事は今まで一度も無かった筈。


「まず謝罪を。私の方の都合で君を長い間待たせてしまった事、誠に申し訳なかった」


深々と頭を下げる殿下に私も隣にかけていた父も慌てる。


「そんな、お顔を上げて下さい殿下。それに、待つとはどういう事でしょう?」


私の言葉に殿下は眉を顰めて父を見る。父は慌てふためいた様に目を逸らした。


「伯爵、私は十の頃に貴方に申し上げた筈だ。必ず御息女の伴侶になるべく努力をする。だからその間、彼女には婚約者を設けないで欲しいと」


「………………え?」



私の思考が止まった。今とんでもない事を聞いた様な気がする。


えっと、つまり、ジノン殿下は十歳の頃から私を望んで下さっていた?そして闇属性の私の伴侶になる努力をして下さっていて、それが今までのあの毎日だった?お互い遊ぶ暇も無く、日々魔法に、勉学に励んでいたと。


そして、父は、それを私に知らせていなかった、と。


「い、いやぁ。殿下が本当にうちの娘なんかと婚約して下さると思えなかったのですよ。うちの娘と結婚するという事は常闇の城に入るという事ですよ?娘に変な期待を持たせるのは忍びなく」


ヒュウっと空気が冷気を帯びた。殿下だ。彼は水属性で、特に冷気を操るのに長けている。そんな彼が、故意か、それとも怒りによる増幅作用かで床が凍りつく程の冷気を出している。


「なんか?私の想い人を侮辱するのは止めて頂きたい。彼女以上に努力出来る人も、繊細に魔法を紡ぐ人も私は他に知らない。セフィラは素晴らし女性だ。二度と彼女を貶めるな」


胸が騒いだ。私の為に誰かが本気で怒ってくれている。

私の努力を、ただ当たり前と捉えず、魔法が暴発しないよう緻密に計算している事も、知っていてくれた。


どうしよう。凄く嬉しい。彼と紡いだ二年の思い出が、鮮やかなものになる。私にとって彼は殿下で、戦友だったけれど、彼の中で私は特別だった事が、とても、とても嬉しい。


「そして、貴方が私の事を彼女に伝えていてくれたなら、彼女はこれ程孤独に過ごさずに済んだ筈だ。セフィラから婚約の話が一度も話題にならなかった事がおかしいとは思っていた。けれど、私も確実に婚約者になり得るまではと我慢していたから。でも君を不安にさせていたのは、私も同罪だな」


悔いる様に唇を噛み締める殿下に私はいいえ、と首を振る。もういいのだと。だって、もう私は報われたのだから、と。


「セフィラ改めて、長い間待たせてすまなかった。もっとはやく、君を迎えに来るつもりだったのに、説得に思いの外時間がかかった。けれど、これからはずっと一緒だ。そう、願っても良いだろうか。叶えて、くれるか?」

「殿下こそ、よろしいのですか?常闇の城に入る事になれば、どれ程の間、出られないか…」


殿下は微笑んだ。それは優しさと、覚悟を秘めた、思わず見惚れてしまうような綺麗な笑顔だった。


「私とて、十の頃から色々考えたさ。でも結論はいつも同じだ。セフィラと共に過ごす未来がそれしか無いなら、私にもその未来しか無いな、と」


あぁ、なんて幸せな事だろう。憐れみでも無く、愛され、望まれて共に在りたいと想って下さる方が居たなんて。

それも幼い頃から、ずっと、そう考えて、私との未来の為に努力して下さっていたなんて。


「ジノン殿下、ありがとうございます。私、頑張ります。この国に必要な事の為に、常闇の城の主として、精一杯努力して…」

「ちょっと違うかな」


私の言葉にジノン殿下は困った様な顔をする。それから少し二人で話がしたいと言った。


「そ、それならば庭園にご案内しなさいセフィラ」


未だに怯える父に促され、私は殿下と庭園に向かった。



「王宮とは比べ物になりませんけれど、東屋もございます。そこでよろしいでしょうか」

「王宮の中庭なんて私は楽しんだ記憶が無いよ。花にはあまり縁が無くてね。ほら、幼い頃、一角を氷漬けにしてしまっただろう?あれ以来立ち入り禁止なんだ」

「………あれは、迷い込んだ魔獣を追い払う為にした事ではないですか。ジノン殿下は皆を守ろうとして下さった」


そう、あれは王宮のガーデンパーティーの最中だった。はぐれ魔獣がパニックを起こして令息に襲いかかり、それを止める為に殿下は魔法を使った。まだ幼かった殿下は魔力制御が咄嗟に上手く出来ずに辺りを氷漬けにしてしまったのだ。

それを王妃殿下が酷くお怒りになり、ガーデンパーティーはそのままお開きとなった。でもその後に殿下にそんな罰が与えられていたなんて。


「うん。あの時も君はそう言ってくれた。氷の中で、守って下さってありがとう、って。君だけだったよ、正妃様を恐れていても、お礼を言ってくれたのは。だから私は君に恋をしたんだ」


はにかむように告げられ、私は顔が熱くなる。確かに妃殿下は怖かった。でも、私には、それよりも自分より大きな魔獣に立ち向かった殿下が、本当に、凄いと思ったのだ。私もそう行動出来る様にならなければ、と幼いながらも思った。だって私はいつか城に行かなければならないのだから、と。

そして、一緒に向かうなら、こんな方が良いとも。


「セフィラ、どうかした?嬉しそう」

「えぇ、ずっと前からそう思っていたんだと思い出して誇らしい気持ちです」

「誇らしい?」

「はい。見る目があったな、と」

「何?遠回しだね。内緒な話なの?」

「いえ?追々お話ししますね」

「ふーん、まぁ、決めなければならない事は他にあるからね。例えば…差し迫っては君から闇魔力を貰わなければならない話、とかね」


先程とは変わって、色気を含んだ、何処か挑発する様な笑みに、ギクリと身体が強張るのを感じた。


だって闇魔力を与えると言う事は、肉体的接触及び、粘膜接触、そして、体液の交換、だ。


「先ずは、私の身体が闇魔力を受け取れる器に達しているかの判断だよね。努力はしてきたし、一応基準値には達してると言う結果は貰ってるけど、ちょっと緊張するね」


殿下がスッと腰を屈めてくる。そう、この判断とは、口付けで行う。

正確に言うと、唇だけでは無く、舌と舌を接触させて、私が闇魔力を相手に流すのだ。

頭ではそうするものだと理解は出来ているけれど、いざしてみるとなると、ものすごく恥ずかしいし、緊張もする。


「こ、此処で行うのですか…?」


此処は外だ。きっと見られているし、出来れば誰も居ない屋内が良いのだけれど。そんな私の考えを読んだ様に殿下が笑う。


「二人きりで、屋内でキスをしては私の我慢が効かないけれど、それでも構わない?」


え?どっちがマシなの?人に見られながらのファーストキスか、誰にも見られないけれどそのまま進んでしまうかもしれないのと。どっちが、いや、どっちも恥ずかしいし、無理かもしれない。でもしないといけない。どうしたら。


「セフィラ、舌を頂戴」


悩んでいる私から選択権を奪う様に殿下が舌をちょっと出して私に顔を近付けて来る。はやく、とせがむ様に見つめてくる。私は、おそるおそる、瞼を閉じて、ちょこんと唇から舌を出した。


ぴたりと舌と舌が合わさる感覚がした。私はこれは儀式、これは儀式と頭で繰り返しながら、いつの間にか握られていた手を握り返しながら、自分の魔力に集中する。


魔力を意識して、少しずつ殿下に流して行く。流した瞬間、微かに殿下の身体が震えて、痛みを覚えたのかと舌を離そうとした。けれど殿下の舌はもっと、と言う様に私の舌を絡め、そのまま私の口の中まで入って来た。驚いて舌を引っ込め様とするのに、殿下はそれを許さないと言わんばかりに絡めて来る。暫く舌を舐め回された。私は混乱する頭で魔力を流したままだった。


ようやく舌を離された時は、私は身体に力が入らなくなっていて、殿下はそれを分かっていたのか私の腰を抱いて引き寄せた。


「…………魔力を流されるのって気持ち良いんだな」


何処か関心した様に言う殿下に恥ずかしくなった私はその胸に顔を埋めた。きっと耳まで赤いに違いない。


「可愛いね、セフィラ」


殿下が宥めようとしてくれているのか私の背中を撫でたけれど、私にはそれがぞくりとする様な感覚になって慌てて身を捩った。

だって、なんか、おかしい感覚だったから。怖かった。キスしていた時に感じた感覚に似ていたから、もしかしたら気持ち良い、だったのかもしれないけれど、それはそれで恥ずかしい。背中を撫でられて気持ち良い、なんて、はしたない子ではないか。


「うん、問題無く闇魔力は貰えたみたい」


良かった、と嬉しそうに言う殿下に、私もホッとする。

魔力を受け取れないと言う事は、結婚出来ないと言う事なのだから。


「因みに阻害魔法を使っていたから、周りからは見えていなかったから安心してね」


水魔法はそう言う風にも使えるらしい。そう言う事を後出しで言うのがこの方の狡い所だ。最初からそう教えておいてくれたなら私もあれ程恥ずかしい思いをしないで済んだのに。


「ジノン殿下、意地悪です」

「男は好きな女の子に意地悪したくなってしまう生き物なんだって。諦めてほしいな」


むむぅ、っと私が不貞腐れていると、殿下が私を抱き締め直した。


「今の主には後一年待って貰える様にお願いしてある」


そして私の耳許で甘い声で囁いた。



「だから、はやく私を君の魔力で染め上げてね」




 いつかそう遠くない未来、私は闇世界とこちらを挟む常闇の城の主となる。

それは必要な存在で、でも出来る事なら誰かに変わって貰えたらと思う日々ばかり過ごして居たけれど。

そう悲観することも、無いんですって。私の大事な人が、私以上に私の未来の為に尽くしてくれていた。


ありがとう愛しい人。はやく貴方を私で染め上げたいわ。そうすれば、ずっと、ずっと一緒に居られるのだもの。貴方はそれを承知で居るのかしら?


いくら酷い喧嘩をしても、もう嫌だから帰りたいと願っても常闇の城に行ってからでは離れる事等、そう簡単には出来ないのよ?


「勿論分かってるよ。そして私は君を誰にも渡したくないからはやく君色に染まりたいんだよ、セフィラ」

「………私、貴方にそこまで想って貰える様な人間じゃないのよジノン」

「一目惚れもあるけれど、確かにそれだけで此処までは想えないね。でも嫌われてしまうのは困るから、常闇の城に着任したら教えてあげようね」



 私は知らなかった。


 ジノンが私を見守ると言う名目のもと、自分の高位精霊を幼い頃から私の側付きに置いて情報を得て居たなんて。


 その情報から、私の婚約者候補になりそうな者をあらゆる手で排除もしていたなんて。


 それを聞いても自分の愛が揺らがないのが一番腹が立つなんて!!


「機嫌を直して奥さん」

「うるさいわヤンデレ」

「褒められると照れてしまうよ」

「断じて褒めてないわ!!」


「おかーさまとおとーさま、きょーもなかよしね」

「そうですね、邪魔しちゃ悪いのでお嬢様は俺とあちらで遊びましょうか」


常闇の城は、思って居たのと違いました。

久しぶりだったので、今までと作風が違ったかもしれませんが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

読んで下さってありがとうございました。


2025/03/29、修正しました。


補足説明


セフィラは常闇の城には闇属性の者とその伴侶しか居ないと思って居ますが、実はその子孫達が様々な職に就いて過ごして居ます。

元々闇属性の者しか過ごせない常闇の城ですが、その子孫は闇属性でなくとも元から耐性があるので普通に過ごせます。

むしろ普通の世界に行くと身体が軽くなったり強くなったり、魔力量が多くなったりするので、実は王家等には重宝されています。

そのおかげで王家の者であるジノンは実はセフィラより常闇の城について詳しかったりします。

現常闇の主と連絡が取れたのも、王家に居る常闇の血の者のおかげです。

なので、常闇の城に行っても二人に子は成せます。ですがこの世界には避妊魔法もあります。

そうしないと二人が魔力を馴染ませている間に子が出来てしまう事もありますので。

そう言う設定があったんだよ、程度に思っていただけたら幸いです。蛇足になってしまっていたらすみません。

2025/03/30、ムーン版書きました。良かったらよろしくお願いします。

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