表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊滅  作者: 兎平 亀作
1/1

壊滅

これは小説習作です。とある本を開き、ランダムに3ワード指差して、三題噺してみました。

随時更新して行きます。

【お断り】「集まる、地上、非常」の三題噺です。


(以下、本文)


「地上の者たちよ、速やかに集まれ」と、うちの大将から非常招集がかかった。


「今回は人間相手だから、目に見えぬ姿だと、やりにくい。各自思い思いの姿に仮装して来るように」とも言われた。


オレは「赤が入った茶色の狐」と言うビジュアルを選んだ。

予想通り、オレが属する神狐軍団は白いのばっかだったから、スゲェ目立った。


「またオマエか。真っ先に狙われる覚悟はできているんだろうな?」と小隊長どのは言われた。

オレも毎度おなじみの返しをした。

「はい。退屈には耐えられないタチなもんで。」


この宇宙を支配する法は、三つの姿でオレたちの前に現れる。

すなわち知性、感情、意志だ。

(この三つの、さらに上方にも、法はいくらでもあるんだが、それを感じ取れる人間は、まあ十億人に一人と言ったところだ。)


うちの大将が担当しているのは、三つ目の意志だ。


我田引水になるが、知性、感情、意志のうち、一番大事なのは意志だと思う。

知識も智慧も無ければ、頭を下げて人のそれを借りればいい。法律知識は金を払えば弁護士が売ってくれる。

人間性に問題があったら、「私の心の師匠」と呼べる人間を一人選んで従えばいい。内心「それは違うだろ」と不服に思っても、丸呑みすればいい。


でも、やる気のないのだけはどうしようもない。

頭が良くて人徳もあるが、やる気だけはないヤツは、逃げるのも言い訳も達者なもので、しかも人に恨まれない。嫌われない。周囲からは「いいヤツ」と言われてたりする。

オレだったら「頭が悪くて、周囲と問題ばかり起こすが、やる気だけはギンギンの、とても悪いヤツ」と組みたい。仕事なんだから。


「やっぱり我田引水かな」と思わないでもないが、考えても答えが出なければ、ぶつかるしかないだろう。

情に訴えても響かないヤツらには、ぶつかるしかないだろう。

使い方を誤ると、とんでもない事になるが、オレたち神狐軍団のモットーは「議論するな」だ。


おかげさまでオレたちは、兵隊も下士官もバカばっかり。融通の利かない石頭ばっかり。

まともな将校の育ちようがないんで、よその軍団から出向してもらってる。

そう言うのがうまい連中もいる。もう一度、言うが、知恵が無いなら借りりゃいい。

必要なのは「オレたちゃバカなんだから、頭のいいヤツに黙って従え」と言う謙虚さだけだ。


それで今回のお務めはと言うと、「三日後に地震と津波が来るから体を張って食い止めろ。」


つまり消耗品あつかいされるって事ね。

いいんじゃない? そう言うのばっか軍団員に選んだんだから。

使命感だの自己犠牲だのとは言いたくないな。将校連中は、すぐそれを言いたがるけど。

きっとオレたちは、大事な何かが欠けてるんだ。この軍団の他には行き場が無いんだ。


さて、出動後の戦果はと言うと、これが散々なものだった。

軍団員の八割は帰って来なかった。北は青森、南は千葉に至る被災の食い止めようもなかった。

「これでも精一杯やったんだ」じゃ言い訳にもなってないが。


オレはと言うと、関東平野の東の方にいた。

とある町のとある集落では、狭い道路をへだてて、東側の家はブロック塀が全壊したが、西側は何ともなかった。

震災直後は人の心が荒れて車の乱暴運転が増えたが、とある信号の無い十字路では、見通しゼロなのに、なぜか事故が起こらなかった。

そこがオレの持ち場だったからだ。

神狐と言っても、その程度の事しか、できなかったんだ。


震災の一年後、オレは福島行きを志願した。それも山奥を。

すでに住宅地と田畑には人の手が入りつつあった。里山も、いずれ何とかするだろうが、山奥は見捨てられる。

「参詣者も誰も来ないぞ。そもそもほこらすら無い」と小隊長どのは言われたが、「それでいい」と答えた。


これからは山の神さまをお鎮めするのがオレの仕事になる。

60年か、ヘタすりゃ100年は放射線が消えない「ご神域」の中で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ