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ケース2 理論物理学者、聖女として召喚される: 職業 大学教授・物理学


召喚理由:王都内に発生した迷宮から出てくる魔物と瘴気を何とかしてほしい (このケースでは、迷宮は他の世界に繋がっていない独立型)

普通には見かけない、珍しい職業の女性が聖女召喚されたら面白いかも、その1です

科学者の視点で見れば、瘴気浄化や魔物退治は“災害対策”だよね


最初は、「これぞまさに、物理 (学)で(迷宮を)ボコる!」 とオチをつける、しょーもない話でした。ですが、物理学者には核爆弾も中性子爆弾も作れないので(製造は技術者で、精密機械が必要)、諦めてTNTで「物量でボコる」ことにしました。これだと、化学でボコることになって、当初のオチは成立しないのです~、残念。 TNTとは、トリニトロトルエンのことで、チョー簡単に言えば、爆弾の素です。火薬とか爆弾とか書いてあったら、なんか爆発物的なものと流してください。あ、ダイナマイトにしなかったのは、その前段階のニトログリセリンがあまりにも危険で扱いかねたからです。どのくらい危ないかは、コミック、アニメのDr. STONE(原作、稲垣理一郎氏、作画、Boichi氏、掲載紙、少年ジャンプ)でどうぞ


 

 アゼリア・ストルテンベルグは、オランダの政治家の父とノールウェイの数学者の母の血を引く理論物理学者である。現在は、イギリスの大学に物理学教授として勤務している。

 いつの日にか、かのスティーヴン・ホーキング教授の事跡を継いで、アイザック・ニュートン教授も所属した学舎に研究室をもらえる日も来るかと、いやまあ、それは他国人の自分には難しいかもしれないが成せば成るかもしれないし、まあ、がんばっていたというか、好きに生きていたのであった。


 それなのに。

 ある日の講義中、学生の討議に耳を傾けていた時、突然光に包まれ訳の分からない場所に飛ばされてしまった。

 そこは石造りの部屋で、床には5重の円の間に象形文字とルーン文字が混ざったような文様が描かれていた。


「成功しました」

「そうか」

「聖女さま、ようこそおいでくださいました」

「はあ? なにこれ、何かのムーヴメント? 誘拐なら許さないわよ」

「そのような。聖女さま、混乱しておられるようですね、どうぞこちらへ」

 とか何とか、何の説明もないまま、テュイルリー宮殿ですか、とでも言いたくなるような古臭いデザインの城を案内されて、テキスタイルは立派だけどマットレスの中身は藁の、天蓋付きベッドのある部屋に連れてこられた。妙に埃臭い。何のイジメだ!


 何しろオランダ生まれ、イギリス育ちの女性理論物理学者である。

 ライトノベルはおろか、ファンタジーすら読んだことがない。あえて言うなら指輪物語ならタイトルくらいは知っている。作者トールキンはオックスフォード大学の教授で何となく親しみを感じるし、CG技術で映画になったし。

 これが転移だとか、その場で判るはずもなかった。


 事態はアゼリアの意思を確認することなく、次々と妙な方向に突っ走った。

 まずは、この国が瘴気とやらに侵されているので浄化して民を救ってほしいといわれる。必要なのは正気じゃないのかと突っ込まないのは、日本語を知らないからだ。


 事情を聞けば、王都のど真ん中、大教会のあった場所に迷宮とやらが発生して、そこから瘴気とともに魔物とやらが溢れてくるのだという。国の総力を挙げて張った結界もすでに限界が近い、もう聖女さまの浄化に頼るしかないのです。


 だそうだ。


 フザケンナ。災害対策くらい自分の国でやれ! そもそも予見可能性があるなら、あらかじめ準備してしかるべきであって、どうしようもなくなってからようやく、しかも他所よそから強制移動させた国民ですらない人に解決させようとは何事! 

 とりあえずリクエスト・レターくらい出すのが人に物を頼むときの礼儀というもの。事情説明も本人の意思確認もなく強制招致するとか、王族のやることか!


 不仁、不毛、不可、不正、不可解、不用意、不誠実!(以下、漢和辞典の“不”のページを手に、思う存分罵って、アゼリアを手伝ってやってくださいませ)



 話はとりあえずわかったので、協力はしてもいいと思う。一種の災害対策関連国際協力だと思えばそれほど抵抗感もない。別に犯罪に加担させられるのではないようだし。


 まずは実地に現場を見てみなくてはどうにもならんと言えば、それはなりません、御身に危険がとかなんとか。


 現場も見せないで災害対策やらせようってか、ふざけるな!


 アゼリアは、物理学者で現象を聞けば状況を(数値で)想像できる能力を持ち合わせていたので、召喚先の人々に「浄化をお願いします、聖女様」とか言われても完ムシで、「とりあえず頑丈な蓋でもしてコンクリートを五メートルくらい盛っておけば」と放置。コンクリートについての説明は「砂や小石に接着剤混ぜて水を足す。固めて岩くらいに強化したやつ」という荒っぽい説明でパスした。


 不十分な姿勢で狭い開口部を下から殴るしかないなら、丈夫な蓋で十分イケるだろ? 

 蓋を破壊できるほどの爆裂魔法を魔物が迷宮内部で使ったら?

 死ぬのは魔物自身だし。自滅してくれれば楽に退治できるよね。


 はい、ごもっともでございます。とでも言うしかなかった。で、錬金術師がコンクリートまがいを作ってしまった。時間稼ぎにはなるだろう。


 すでに最適解は導き出してある。

 正直に言えば、あまりにも腹立たしいので王都ごと全部破壊し尽くす案も検討した。小型核でいくかな、とも思ったのだが……作れなかった。 


 そうだ! 物量で行こう!


 召喚陣を見たし、実際に召喚という名の空間移動を経験した。また、結界という魔法についても説明を受けた。

 この国の問題は、この国の技術で解決する道を提示するのが適正な国際協力手法だ。再び同じ問題が起こった時に今回開発して伝授する手法で解決できるようにするのがいいのだ。外部依存率を低くして自立を確実にしていく手法のひとつだ。


 召喚陣も結界魔法も物理法則に反するのではないかとは思ったが、そこに現実にある現象を否定するほど愚かではない。問題解決シーケンスの一部として、魔法という現象に積極的に取り組むことにした。

 アゼリアはこれらを“一種の超能力”と理解していた。


 魔法使いを呼んでもらい、いくつか実施を見せてもらった。これはなかなか便利ではないかと考え、座学を受け、速やかに魔法を習得していった。特に転移は精密な魔法陣が必要だったが便利“技”だと、きわめてまじめに学んだ。

 “数学的に正確”に描いた魔法陣を王家に差し出し、機嫌を取って時間稼ぎをした。


 アゼリア・ストルテンベルグという物理学者は非常識なほど優秀な人で(物理学者は大概そうだが)、すでにそこに出来上がっている知識や技術を習得するだけなら、獲得スピードは異常に速い。彼女は研究者だから(大学教授のメインの仕事は研究であって、教育は同等の価値があるものの、二番目の仕事ともいえ、大学教授は学生との共同作業や議論から研究の新たな糸口をゲットすると欣喜雀躍する人々である)、既存の知識の上に新たなコンセプトを築き、あるいは複数の知識を組み合わせて新しい地平を拓くのがその役割である。


 学習の合間に、錬金術師をかき集めて硫酸やら硝酸やらを作らせ、自分は点火装置を作り溜めた。物が物だけに、少し離れた場所に製作所兼倉庫を作って結界を張ってもらい、さらに厳重に警備させた。TNTの集積所に火がついたら、小型核なんか使わなくても王都は半壊以上になるだろう。城郭都市であり、人口数万人。石塀で囲み切れる面積しかないのだから。


 倉庫の床には、巨大な転移陣を三枚敷いた。“数学的に正確な” やつだ。


 要するに、魔物を出口から出さなければいいのだ。出口を潰せば出て来ようがないじゃないの、ねぇ?


 というわけで、アゼリアの迷宮攻略、“災害対策”!


 火薬が十分に揃ったところで、転移陣を発動させて迷宮二階、三階、五階に送り込んで遠隔発火、一階から五階まで全部潰してしまった。確認できないが、おそらく七階くらいまでは崩落しているのではないだろうか、崩落による大穴ができている。これだけ潰して上からコンクリート紛いを流し込んでおけば、たとえ迷宮自体に再生能力があったとしても必要なエネルギーは膨大なものだ。

 迷宮を造った何かも、他所よそで造り直す方が簡単だということぐらいはわかるだろう。要するに、王都の中にあることが問題なのだから、これで解決だ。 他所でやれ、よそで。


 彼女の視点から見れば、地下にできた迷宮は、巨大蟻が作った巣と大差なかったのだ。




 王都はまあ、か・な・り揺れた。一部、外壁も崩れたし、家屋も相当崩壊した。

 それでも、迷宮の壁が頑丈だったので、地表面崩壊の範囲は迷宮一階の面積大で済んだ。大教会の敷地からさほどはみ出ていない。


「ま、何かが掘り返すかもしれないけど、どうせ上階なら弱い魔獣しか出ないんでしょ?

 何か這い出して来たらぶっ潰せばオッケー。

 次また出たら、地下二〇階くらいまで爆砕すればかなりイケルでしょ。物量で叩けば最終的には勝てる、そういうものよ」


 それでいいのか? まぁ、戦争ってそうだよね、確かにね。相手が魔物でも戦争っちゃ戦争かなぁ、まあねぇ。

 魔法なら魔法使いがその場にいなくてはならず、大規模魔法を迷宮内で使用すると魔法使い本人も爆砕されるだろう。だが、時限装置付きの火薬なら、あるいは遠隔発火装置ならどうにでもなる。


「どうしても再発するようなら、到達最下層から順に一階層づつ、時差をつけて連爆したらどうかしら?」


 アゼリアは、すでに目標地点を書き込むタイプの転移魔法陣を完全に理解、実現している。魔法陣に、緯度・経度を書き込んで目標地点を確実に固定するのが“数学的に正確な”転移陣だ。

 目標地点を地上にするなら、緯度と経度の指示だけで十分だ。地下なら緯度経度を使った空間六点を指示して、三線交差地点を転移先に確定する。


 白板三枚に渡って記号と数式を書き綴って一字も間違えない物理学者に、転移陣なんか見せたらおしまいに決まっている。

 縮小・拡大、行く先指定、自由自在!


 文明 (文化ではなく)は、数学で計る。魔法を技術の基礎に置く文明の既存の技術に、数学を基礎に置く科学を上乗せすることによって、まだ見ぬ場所にも転移の着地点を置くことができるようになった。


 そもそも緯度・経度の規定を書き込まなくてはならないので書き込みは複雑化しており、数学の発達が覚束ないこの世界の魔法使いや錬金術師には再現できないだろう。

 だから、依頼主である王家には、この迷宮の地下五十階までの転移陣を描いて渡した。それをコピーすれば再び“この迷宮”が生まれた時限定で崩壊させることができる。

 アゼリアが依頼されたのは”この迷宮“を”なんとかすること“だから、それ以外のことはやらない。



 城が王都半崩壊で右往左往している隙を突いて、アゼリアは魔獣はびこる魔の森のド真ん中に移動した。転移陣で逃げるほうが簡単だったのだが、結界を抜けた瞬間に管理者にわかってしまう。だから、地道に王城、王都、国境と、結界を破壊しないで抜けて行方不明になることにした。

 それなりに手間と時間がかかる。自分から目が逸れ、不在が見過ごされるこのタイミングを逃す気はなかった。


 魔獣の森のド真ん中に住処を作るのは多少面倒ではあったが、とりあえず結界を張ってから魔法でどんどん建築すればどうにでもなる程度のことではあった。

 この先は、魔獣をテキトーに倒し、必要な物は転移や飛翔で都市に行って魔獣素材と交換し、安全確実に生活していくつもりだ。結界とか転移とか、すごく便利!


 このケータイもない環境で思索と研究を深め、出発点に転移・帰還するのだ。

 スパコンがないので計算に時間がかかりすぎて、生きているうちには完成しない可能性は高い。だが、たかだかテュイルリー宮殿程度の城に住み、藁のマットレスで眠る文明に存在し、起動できる転移陣に過ぎない。現代最高の知性のひとりであるアゼリアにならば。

 すでに転移陣に新たに書き込むことができるのだ。遠からぬ日に、きっと召喚陣の逆転に成功して物理学教室に帰還することができるだろう。アゼリアなら、帰還直後に「さあ、続きをやりましょう」と言って、召喚された時の授業を再開するかも。


 がんばれ、アゼリア!



 異世界教訓 その2:

 聖女召喚は、召喚条件にファンタジー好きを入れておこう


この後アゼリアは、理論がちょうどできかけているというビミョーなタイミングで救助されます

救助されたからまあ、それでいいのですが、魔法がない世界に帰ってきて、移動にヒコーキや高速鉄道を使うたびに、あっちはあっちでよかったかも、とか思うのでした

キモチはわかる……



すごい蛇足ですけど、理論物理学って何? のコーナー:


物理学という名前に私たちが接する最初の授業は多分中学です。

梃子とか、滑車とか。あと、ニュートン大先生の万有引力。このあたりが古典物理学です


で、かのアインシュタイン大先生がでてきますね

E=mc2 (イー・イコール・エム・シー・スクエアと読みます。スクエアは二乗のことで、三乗はキュービック)のお方です。お名前はアルベルト。センクウ先生 (出典:ジャンプ連載のDr.STONE、アニメ化されています)の、左襟の下に斜めに書いてある数式ですね

ざっと言って、この式を境に物理学は理論物理学へと進んでいきます

いま、物理学者の方々が扱っておいでなのは、光、素粒子、ブラックホールというような、物質とエネルギーに関する事象だと思います


日本にも素粒子、ニュートリノに関する実験場、スーパーカミオカンデがあります。資料を集めて浸っていると、ファンタジーのアイディアやSFのアイディアが(素粒子的に!?)ひらめくかも 

所在地:岐阜県飛騨市、神岡鉱山地下1,000m


コミック「パタリロ」、摩夜峰央氏作に、パタリロ殿下が恒星間飛行で移動を繰り返す大政治家に、乗り遅れた大切なペットを送り届けに行く旅を描いておいでの回があります。すでに100巻を越えているので、探すのはちょっと大変かもしれませんが、亜光速で恒星間飛行をしたら時間はどうなるかについて、ひとつの見解がわかりやすく書いてあります


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