表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

七夕異聞

作者: 瀬嵐しるん


わたしたちが住む大地。そこから、見上げれば空が広がっています。

昔、空の上は天と呼ばれ、数多の神がおわしました。


その神々のお世話をするため、天にも人がおりました。

空を飛ぶ島で畑を耕す者やら、雲の中の宮で神の食事を作る者やら。

そしてまた、牛飼いや織姫もいたのです。


ある日、一人の牛飼いは牛車を引き、機織りの工房に布を受け取りに行きました。

丁度、手の空いた織姫は、積み込みの手伝いに呼ばれました。


「ご苦労様でございます」


「お手伝いありがとうございます」


初めて顔を合わせた二人は、互いに、胸に湧き上がる想いを感じました。


初めての恋に、胸を焦がす二人。


牛飼いは、機織りの工房へ行く仕事ばかりを待ちわび、織姫は、あの牛飼いが訪ねて来ないかとそわそわ落ち着かない日々。

すっかり、普段の仕事をおろそかにしてしまい、上司から小言ばかりをもらいます。


けれど、二人の想いは収まらず、とうとう仕事を抜け出して相手の元へ走り出してしまいました。

互いの仕事場から追手がかかりますが、足の運びが鈍ることはありません。



早く早く、あの人の元へ。


約束を交わしたわけでもないのに、二人は天の川のほとりで再び出会ったのです。


追手は倍になり、逃げ切れるはずもありません。


「姫と再び分かたれるくらいなら」


決意を宿した目で自分を見つめる牛飼いに、織姫は頷きます。


「はい。わたくしは何があろうと、貴方と共にまいります」


二人は天の川に飛び込みました。


天に住む人が、天の川に飛び込めば地へと落ちるだけ。

命を永らえることはありません。


それでも二人は微笑んで、ぴたりと寄り添い合ったまま下へ下へと落ちました。



「おやまあ、なんと野暮なこと」


その様子を、一人の飛天が目に留めました。

琵琶に堪能な飛天は、時に地に下り、人に紛れて楽を教えていたのです。


「地で、人の子として出会えたら、叶った想いやもしれぬのに」


飛天は鵲に命じました。

せめて、彼等の魂が粉々に砕けてしまわぬよう、そっと地上まで送ってやれと。


飛天は自らの仕える女神に、彼等のことを報せました。


『天に住む人に生まれながら、そこまでの情を持つとは。

可愛そうな者たちよのう』


女神は彼等に慈悲を与え、二人は地上の人の子として生まれ変わったのです。



彼等の魂は互いを忘れず、生まれるたびに互いを探しました。


様々な時代の、様々な身分に生まれた彼らは、とうとう一生の間に出会えぬこともあれば、生涯添い遂げることもありました。

そしてまた生まれ変わり、互いを求めあう。


その様は(いわ)われたようであり、(のろ)われたようでもありました。


早く早く、あの人の元へ。



彼等を見つめ続けた飛天は、とうとう女神に頼みました。


「彼らを(つがい)の天の鳥に。私が側で見守りましょう」


女神はそれを許し、二人は歌う小鳥となりました。


琵琶を奏でる飛天の側で、舞いながら楽し気に囀る二羽の小鳥。

ただ寄り添える幸福を、二つの魂はやっと手にしたのでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ